本との出会いは小学生の時に読んだ「怪人二十面相シリーズ」 ——アノヒトの読書遍歴:鵜飼秀徳さん(前編)
「日経ビジネス」の記者として、政治、経済、芸術、宗教など、幅広い分野で活躍する鵜飼秀徳さん。実家がお寺ということもあり、今年5月には、宗教に関連した『寺院消滅』を出版。また、仕事柄出張が多く、その土地にまつわる作品を調べてはその本を読み、文学作品の舞台になった場所を訪れたりするんだそうです。そんな鵜飼秀徳さんに日頃の読書の生活についてお話を伺いました。
——本はいつ頃から読むようになりましたか?
「本は、小さい頃から相当好きでした。小学校の2〜3年生くらいは、男の子ですから冒険物、最初は江戸川乱歩の『怪人二十面相』シリーズを。本格的に本を読むようになったのはそこからです。あの独特の表紙。おどろおどろしい昭和な感じはとても印象強かったです。僕が幼かった頃はテレビゲームがまだなかったので、漫画も当然読んでいましたが、この本を何回も何回も読み直して。すると自分がまさに少年探偵になったような気分に浸れる。そこから本の魅力がはじまりましたね」
——それからは主に探偵ものを?
「そうですね、学校の図書館に通ってはコナン・ドイルや『十五少年漂流記』、『海底二万マイル』とか読み漁りましたね。その後、中学、高校、大学ではあまり本を読んでいませんでしたが、社会人になってからまた読むようになりました。というのも、新聞社に入社したんですが、配属された社会部という部署で何年か書評の担当をしてたんですよ。つまりどうしても本を読まなきゃならなかったわけです(笑)。当時は、綿矢りささんや金原ひとみさんのムーブメントが来た時期で、若手の新進気鋭の作家が出始めの頃。よく芥川賞や直木賞の選評会にいって寸評を聞いたりして、ノンフィクションを含めてがーっと読むようになりました」
——多くの本を読み漁る中で、何かインパクトの強い作品はありましたか?
「盛口満さんの『僕らが死体を拾うわけ 僕と僕らの博物誌』。これはですね、たまに道を歩いていると、動物の死体が落ちていることがありますよね。それを拾ってきて解剖して骨格標本にして。それをさらに教材に使うという斬新なテーマの本ですね。著者は、『ゲッチョ先生』と呼ばれている理科の先生。身の回りにある落し物、例えば海岸線に落ちているゴミとか、それこそ道路に転がっている動物の死体とかを無駄にせず教材に使っていくことで、環境のこととか命の大切さというのをこの本を通じて伝えていくんです」
——具体的に印象的だったシーンはありますか?
「ゲッチョ先生は、タヌキの死体を使って骨格標本を作っていくんですが、とにかくこの先生は徹底していて。まずタヌキの中にいる寄生虫やダニとかを調べ、次に腸の長さを図り、脳の重さを図り、胃の中に何が入っているのかといったところまで徹底的に調べ上げるんです。そうすることでタヌキを取り巻く環境すべてを調べていくんですね。たとえばタヌキの胃の中にビニールが入っていたら、なんでビニールを食べなければならなかったのか、とか。たかが死体とはいえ、地球全体の環境をタヌキの死体を通して学んでいく、という内容なんです」
——命の大切さや地球全体の環境について改めて考えさせられる、とても深い本ですね。
「実は私、この本に感銘を受けて実践したんです。子どもが今小学生なのですが、去年の夏休みのテーマにこれを、つまり骨格標本を作ってみたんです。たまたま私の家の庭にネコが死んでいたのでそれを拾ってきて。最初は私の方がえ? って思いましたが、だんだん大事だなって思うようになっていって。次にプロが使うようなメスとかそういう道具を綺麗に揃えると、今度は学者になったようなプロ意識が芽生え始めて。そうやって子どもと一緒にやっていくうちにますます本気になっていくといういい循環が生まれました。そういう親子のくさいドラマがありましたね。でもそれを学校に持って行ったら大騒ぎになりました(笑)」
後編では、鵜飼秀徳さんが影響を受けた本について紹介します。お楽しみに。
<プロフィール>
鵜飼秀徳 うかいひでのり/1974年、京都市右京区生まれ。日経ビジネス記者。
成城大学卒業後、報知新聞社に入社。事件・政治担当記者を経て、日経ホーム出版社(現日経BP社)に中途入社。月刊誌「日経おとなのOFF」など多数のライフスタイル系雑誌を経験。2012年から週刊経済誌「日経ビジネス」記者。これまで社会、政治、経済、宗教、文化など幅広い取材分野の経験を生かし、企画型の記事を多数執筆。近年は北方領土問題に関心を持ち、2012年と2013年には現地で取材を実施、発信している。正覚寺副住職(京都市右京区)。
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