“新聞史上最高のコラムニスト”による、名文の数々

access_time create folder生活・趣味

“新聞史上最高のコラムニスト”による、名文の数々

 朝日新聞の顔と言っても過言ではない「天声人語」。この天声人語を1973年2月から75年11月まで執筆し、”新聞史上最高のコラムニスト”と評された人物・深代惇郎さん。その深代さんの綴った天声人語のなかから、選りすぐった作品の数々を収録した、1976年9月刊行の単行本『深代惇郎の天声人語』が、この度文庫本として再構成され刊行されました。

 世相、社会、政治、経済、若者、戦争、国際、日本と日本人、人、人生、文化、自然、歴史と、あらゆるジャンルに及ぶ名文は、時代を超えても通用する読み応えのあるものばかり。ウィットに富みつつ、物事の本質を掴んだ文章が、読み手を思わず惹きつけます。

 たとえば、「そうだ、今ごろは松タケというのがあったっけな」という一文からはじまる、今の季節にふさわしいコラム。

「そのまま焼いて、ゆずとしょうゆで食べるのが一番おいしい。手で裂いて、フウフウいいながら口にほうり込む。『秋』が体いっぱいに広がる思いがしたものだ」と、著者(日本人一般?)の松タケに対する愛情が述べられたところで、話は西洋との比較に。所かわれば美味もまた変わるといいます。

「松タケは秋の風味の王者とされるが、あの香りが好きだという西洋人にはあまりお目にかからない。せっかくごちそうしても、何がうまいんだ、といった顔をされる」

 そのため、北アフリカのアルジェリアの松林に生えている松タケは、日本の松タケと比べ、味や香りもさして変わらないにも関わらず、現地では「こんな物を食べるのか」と言われる存在なのだそう。

 ではヨーロッパにおいて、日本の松タケに相当する存在は何なのかというと……西洋松露ともいわれるトリュフ。

「ブタの好物なので、トリュフ狩りにはブタを連れて林の中を歩くという。ブタが土に鼻をつっ込んで、ほじくりはじめたら『ここ掘れ、ブウブウ』だ。その下にトリュフがある。ブタには落花生をポンとあたえ、よそ見をさせているうちに人間さまが取ってしまうという」

 このトリュフの香りを嗅ぐと、男は精力的になり、女はあやしげな気分になるということから、「松タケとくらべて、西洋人の話はやはり人間くさい」と締めくくられます。

 何ということもない話題から入り、読後には、何かしらを読み手にふっと考えさせる文章。その背景には、幅広い知識と深い洞察力、そしてそれらを嫌味なく包み込むユーモアが溢れています。文庫本となり、手軽に持ち運べるようになった本書。気の向くままに開いたページのコラムを読み、名文の余韻に浸るのも良いかもしれません。

■関連記事

時には激昂も!?  "温厚"な内村光良の知られざる一面
小説との向き合い方を通して伝わる、村上春樹の生き方・考え方とは?
つんく♂を支えた、家族の愛とは?

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. “新聞史上最高のコラムニスト”による、名文の数々
access_time create folder生活・趣味

BOOKSTAND

「ブックスタンド ニュース」は、旬の出版ニュースから世の中を読み解きます。

ウェブサイト: http://bookstand.webdoku.jp/news/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。