【大人になっても読みたい児童文学】『おっきょちゃんとかっぱ』(文:長谷川摂子 絵:降矢なな/福音館書店)

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幼い頃に読んだ絵本や物語を、ふと思い出してしまうことはありませんか。大人になってからも、心にひっかかっているあのシーンや、あのフレーズ。この記事では、そんな懐かしい児童文学作品をご紹介します。今回ご紹介するのは、夏にぴったりな絵本。『おっきょちゃんとかっぱ』(文:長谷川摂子 絵:降矢なな/福音館書店)です。

『おっきょちゃんとかっぱ』

あるところに、“おっきょちゃん”と呼ばれている、小さな女の子がいました。名前が“きよ”だったので、“おきよちゃん”と呼ばれているうちに、おっきょちゃんになったのです。
ある日、おっきょちゃんが川で遊んでいると、誰かに声をかけられました。辺りを見回すと、赤い顔をした奇妙なこどもが、川からこちらを見ていました。

「おいら、ガータロ。おまつりなのに だれも あそびにこんから、おまえ、おきゃくさんになれや」
「おまえの うちは どこ?」
「ここんなかに きまっとるやないか。さあ いこ」
「うん、いく」
(『おっきょちゃんとかっぱ』P.4から抜粋)

おっきょちゃんは、急いでお祭り用の浴衣に着替えると、庭の畑になっているキュウリをおみやげに持ち、ガータロと一緒に川の中に入っていきました。
川の底では、踊るような調子のあしぶえの音色が響き、賑やかなお祭りが行われていました。ガータロは、魚の形をした、シャボン玉の出る水笛を買ってくれました。すると、「人間の子がいるぞ」と、大人のかっぱたちが、おっきょちゃんに気付きます。おっきょちゃんが、おみやげに持ってきたキュウリを差し出すと、かっぱたちは大喜び。お客さんとして迎えてくれて、祭りのお餅を貰って食べたおっきょちゃんは……。

ひとくち たべたら、おとうさんのことを わすれ、
ふたくち たべたら、おかあさんのことを わすれ、
みくち たべたら、みずの そとのことを
ぜんぶ ぜんぶ、わすれてしまった。
(『おっきょちゃんとかっぱ』P.12から抜粋)

そうして、おっきょちゃんは、ガータロのうちの子になり、魚を取ったり、ガータロのお母さんのお手伝いをしたり、あかちゃんのおもりをしたりして、毎日、川の中で過ごしました。
数日が経った、ある日のこと。おっきょちゃんは、小さな布の人形が、水面に流れているのを見つけます。それから三日間、おっきょちゃんは誰とも遊ばず、ずっと人形を見つめていました。おっきょちゃんは、思い出します。その人形は、お母さんが作ってくれた人形だということ。そして、人形の着ている服は、おっきょちゃんのちゃんちゃんこのきれだったこと。

そのばん、おっきょちゃんは にんぎょうを にぎりしめて、はじめてないた。
「うちに かえりたいよう。かあさんのところに かえりたいよう」
(『おっきょちゃんとかっぱ』P.19から抜粋)

不思議な世界に招かれ、そこの人々に出会い、生活にふれる、という“異世界探訪モノ”は、いくつになっても読んでいて、わくわくします。自然と空想が広がり、フィクションと分かっていながらも、「こんな世界あったらいいな」と、そう思わせる読後感。映画でも舞台でも、なんでもいいですが、そんなふうに思える作品はなかなか無いと筆者は思います。
『おっきょちゃんとかっぱ』は、「あったらいいな」、「そうなんだろうな」と思わせてくれることばかりです。

ストーリーを読んでいると、どきりとするようなシーンはありますが、かっぱの文化や生活を感じさせる方法で解決され、そこにも世界観を大事にしている作者の考えが感じられます。“ひと夏の思い出”という言葉が、ぴったりな作品で、最後まで読んだ方からすると、なんだか少し寂しく感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そして、美しい絵も魅力のひとつ。時に淡く、時に鮮やかな色彩は、ゆらゆらとした川の底の世界を綺麗に演出しており、細部まで美しいので、絵だけを見ていても楽しめます。文章と絵、片方がおかしかったり、雰囲気が違っていれば、成り立っていないんじゃないか、と思わせるくらい繊細で、文も絵もぴったりとはまっている作品です。

“夏休み+異世界探訪+ボーイ(かっぱ)ミーツガール”という最強の組み合わせ。
夏が終わる前に、ぜひ読んでいただきたい作品です。

『おっきょちゃんとかっぱ』
文:長谷川摂子
絵:降矢なな
出版社:福音館書店
定価:800円
発行:1997年8月
参考:http://www.fukuinkan.co.jp/bookdetail.php?goods_id=250[リンク]

※画像は、株式会社 福音館書店様(http://www.fukuinkan.co.jp/[リンク])より引用しています。

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