プロレスラー長州力を丸裸にした作家・田崎健太が「極太ノンフィクション」の舞台裏を語る

プロレスラー長州力を丸裸にした作家・田崎健太が「極太ノンフィクション」の舞台裏を語る

7月24日、プロレスラー・長州力選手の60余年の人生に迫った『真説・長州力 1951-2015』が刊行されました。本書は、長州選手だけでなく、多数の現役レスラーや関係者から得た多くの証言をもとに書き上げられた超ヘビー級ノンフィクション作品。そんな昭和~平成のプロレス戦国絵巻を書き上げたのはノンフィクションライターの田崎健太さんです。田崎さんは、本書の制作にあたり、2年以上の取材期間と700枚以上の原稿用紙を要したのだそうです。

 今回は、そんな田崎さんに本書の制作秘話、さらにノンフィクション論を伺いました。

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――496ページに渡り、非常に熱量の高いノンフィクションとなっています。資料の収集なども、大変だったのではないでしょうか。

そりゃ、大変でしたよ(苦笑)。国会図書館で膨大な新聞記事を探すほか、水道橋や神保町の古本屋でプロレス雑誌を探し集めました。またそうやって苦労して集めた資料が、どこまで信用できるかわからないという別の問題もあった。プロレス雑誌って、ファンのために作っているので、良くいえば「夢」、悪くいえば「嘘」が書いてあることが往々にしてありますからね。だから、取材を始めて最初にぶち当たったのが、”資料の信憑性の壁”でした。

プロレス雑誌の記事は玉石混淆で、結果として一番信用できた資料が「東京スポーツ」でしたね。東スポの場合、試合の翌日には記事が掲載されるため、”作られた物語”が反映されづらかったのだと思います。

――田崎さんは多くのアスリートを取材されていますが、長州さんをはじめとするプロレスラーと、ほかのアスリートとの違いを、取材の中で感じることはありましたか?

それはもう(笑)。”魅せる”という部分で、プロレスって他とは全然違うスポーツですから。ただ、長州力はアマチュアレスリング出身なので、本質的にはアスリートのマインドを持っているんです。実際、長州さん本人もプロレス入りしたころ、自身のアスリート的な部分とプロレスの”魅せる”部分とのギャップに、非常に戸惑ったようです。また話していても、長州さんは他のプロレスラーと違い、一般のアスリートに似た部分も多いと感じました。

――田崎さんは、以前、小学館で編集者をされていますよね。なぜ作家に転身されたのでしょうか?

僕はもともと作家になりたいがために、出版社に入ったんです。出版社に入れば、作家とも接触する機会が多いから、そのやり方を見て自分も作家になれるだろうとの考えで……。でも、編集者として、担当を持つということはあまりなくて、それより作家とはお酒を飲むことの方が多かったですね(笑)。

――具体的にお付き合いのあった作家さんは?

前都知事の猪瀬直樹さんには、よく飲みに連れて行ってもらいました。猪瀬さんにはノンフィクション論などを教わりましたね。また猪瀬さんがよく仰っていたのは、「取材対象が本を出している人であれば、最低3冊は読め」ということ。ほかにも、ノンフィクションライターの一志治夫さんには、取材対象へのアプローチの仕方やカズさん(三浦知良)のようなスターをどのように描けばよいか、などを学びました。

――田崎さんの、取材対象へのアプローチ方法についてお聞かせください。

そもそも、ノンフィクション作家によって、アプローチ方法って様々なんですよ。例えば猪瀬さんの場合、取材対象を怒らせて本音を引き出すタイプ。僕の場合は、相手の懐には入り込み、向き合うやり方。もちろん、決して「馴れ合い」にはならないように気をつけています。特にスポーツの世界では、取材対象と仲良くなりすぎて、その人の負の部分にフォーカスできず、結果としてちょうちん記事しか書けない”御用ライター”も多い。僕は絶対にそうはなりたくないから、どんな場合でも取材対象とは、ある一定の距離は保つようにしています。長州さんの場合も同じです。

――最後の質問です。長州さんは今回の本について、どう思われているんでしょうか?

どうでしょうかね。今回、長州さんに書店の店頭に飾るPOPを書いていただいたんですが、そこには「もうこれ以上、話すことはない」と(笑)。実際に、長州さんはかなり向き合って話してくれましたし、POPに書いてくれた言葉も、長州さんなりの降伏宣言であり、本を認めてくれたんじゃないかな、と考えています。

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 同書は、プロレスラー・長州力の半生を軸にしながら、吉田光雄(長州力の日本名)が在日韓国人として受けた差別や、アマレス選手としてオリンピック出場時、「ミュンヘン事件」(ミュンヘン・オリンピック選手村にパレスチナ過激派が乱入、イスラエル選手を殺害したテロ事件)に遭遇したエピソードなども盛り込まれています。プロレスファンはもちろんのこと、普段プロレスを見ない読者でも、十分に楽しめる極太のノンフィクションとなっています。

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