ブルックリンに学ぶ[2] 大人の秘密基地。部屋の中の小屋を覘く
小さいころに、家の中でテントを張って遊んだことはありますか? いつもの空間をテントや小屋で囲うと、風景が違って見えて気持ちも若干変わりますよね。今回は、そんな部屋の中に小屋をつくってしまった2部屋をご紹介します。小さな部屋でもできる面白アイデアです。●連載「ブルックリンに学ぶ 住まいとまちのつくり方」
5つあるニューヨークのエリアの中でもっとも人口の多いブルックリン(約250万人)。昨今さまざまなメディアでポートランドとともに注目を集めています。そんなブルックリンでは人々はどんな暮らしをしているのか? 住まいやまちづくりのヒントとなるような最新事情をお届けします。小屋で遊ぶ
1.部屋の中なのに外気分。ツリーハウスと小屋を行き来して暮らす
広いロフトの両端に置かれた小屋を行ったり来たりしながら暮らすTerri ChiaoとAdam Frezza。CHIAOZZA(www.chiaozza.com)という名でアートユニットを組む、公私ともにパートナーの二人。二人のアートは、パステルやネオンを多用したとってもカラフルで、形もユニークなものばかり。そんな彼らの部屋は、部屋自体も愛着ある多くの色や細々としたモノに溢れています。
【画像1】部屋に住むAdam(左)とChiao(右)。後ろの壁に多くかかった絵やコラージュは、自分たちでつくったり友人のアーティストからもらったものばかり。一つ一つに気持ちが籠っている(撮影:小野有理)
もともとは「大きな一面の窓が気に入って」入居を決めたChiao。高い家賃をシェアするルームメイトを募集し、お互いストレス無く暮らせる間取りを、何日もじっと床に座って考えたそう。単に壁で仕切った新たな部屋をつくるのは何だかつまらない。いろいろ悩んだ末、「ツリーハウス」と「小屋」をつくることを思いつきました。
木や植物がたくさん置かれた部屋のツリーハウスと小屋。まるで森の中でひっそりと隣り合うテントのようです。最低限のプライベートは守りつつ、親近感は失わずに気持ちよく過ごせるのでは、と考えたChiaoの狙いは的中。部屋の両端に置かれた小屋たちは、絶妙な距離感で二人の暮らしに寄り添っています。
小屋の広さは5畳ほどで、こじんまりした「おこもり」感ある空間。とがった屋根と合板の木目が山小屋のようです。私が思わず唸ったのはその小屋の向き。Chiaoは、四角い部屋の角の部分から対角線を引くように、斜めに小屋を置きました。そうして生まれた角と入口の間のスペースは前庭に。小屋に入るとこのプライベートガーデンとサンサンと照らす窓の光しか見えず、同じ部屋にいることを忘れてしまいます。
【画像2】寝室にしている小屋から、仕事部屋の小屋を眺める。小屋の間の空間は外と見なしているので、たくさんの木々や植物を置いてアウトサイドな感じを演出している(撮影:小野有理)
【画像3】リビングから見る小屋。手前のテーブルには展覧会を間近に控え制作真っ最中の次の作品が並ぶ。一面の窓を向いた小屋の前には、たくさんの植物が置かれたプライベートガーデンが。仕事に疲れたらガーデンの椅子に座り外を眺めるのがChiaoのお気に入り(撮影:小野有理)
【画像4】友人の手を借りて自作した小屋内部。今はChiaoが仕事に使っている。中の書棚も自分でつくった。開口部(入口と窓)が大きいので、奥まで日射しが届きとても明るい(撮影:小野有理)
小屋の反対側にあるツリーハウスは高さ170cmほど。下が開いているからか、小屋の存在感と違ってさり気なく、あまり目立ちません。初めて訪れた友人には気づかない人もいるとのこと。だからこそ、階段を登って中に入ったときに、その広さに驚きます。中の一面の白壁も室内空間の延長を感じさせ寝るには最適。小屋と同様、窓に面して開口部を大きくとってつくられ、とても明るいのが印象的です。
ツリーハウスは最初から「寝る」に特化して考えたそう。窓からの朝日で目覚め、最初に目にする大好きな絵たち。そして、眼をこすりながら階段を降りることで、気持ちをしゃきっと切り替える。反対に小屋はどのようにでも使える空間に。ただ、どちらも一つの用途に特化した最小限のスペースで、一歩外に出た共有部分では楽しく共生する。目的に応じた住み替えが、一つの部屋の中で出来ていました。
【画像5】小屋の反対側のツリーハウス。以前は、階下を二人の仕事スペースにしていたが、今は来客用の寝室となっている(撮影:小野有理)
【画像6】ツリーハウス内部。白い壁が光を反射しとても明るい。眠りに集中するために潔く好きな絵だけを置いた。小窓から見降ろすリビングの風景も、視点が変わって気分転換の一つになる(撮影:小野有理)2. 最小限の小屋が持つ、たくさんの使い道といろんな顔。
続いて訪れたのは、CHIAOZZAの二人のように、部屋に小屋をつくったGregoireの部屋。フランス出身のGregoireは、木材をつかって家具やモニュメントをつくる木工アーティスト。木片を自在に操り、木材の本来の色をカラフルに取り入れた小屋を寝室にしています。
70m2ほどの広さのロフトは、制作するためのアトリエと生活空間の両方を兼ねています。そのため、部屋を3つにゾーン分けしました。まず、ベランダ前の明るいスペースは一段高く床を貼り、ソファや自作のコーヒーテーブルを置いたリラックス重視のリビングに。生活感を感じさせるものは置かず、段差部分にたくさんの植物を置いて、ソファに座ったときに雑然としたアトリエ部分が見えないよう目隠ししました。
続いて、入口から続く壁伝い部分はアトリエに。壁に沿った長い作業台は、電動のこぎりや糸鋸などの工具を置き、いつでも制作を始められるようになっています。壁にはネジや機具が整然と配置され、作業台横の空きスペースには木材のストックがたくさん立てかけられています。玄関から入って続く壁全体が、アトリエ&倉庫として使われているのがとってもユニーク。
【画像7】部屋の奥のリビングから部屋を見渡す。写真の右手が制作アトリエ、真ん中にダイニングテーブル、左奥にキッチンがある。見えている家具はほぼ全てGregoireが手づくりしたり、道路から拾って来てリペアしたもの(撮影:小野有理)
【画像8】窓際につくったリビングスペース。一段高くしているので、ソファに座ったときの目線が高く、部屋の雑然とした場所から一線を引いて籠っている感覚に。本を読んだり、新作のスケッチを描いたり、夜景を見て癒やされたり。使い方は自由だ(撮影:小野有理)
【画像9】リビングの自作のコーヒーテーブルとソファ。置く場所や使い途を考えながら木材を触っているとき時間を忘れる(撮影:小野有理)
【画像10】アトリエとして使っている場所には壁にいくつもの棚を設けて、よく使う機材を収納したり、大切な思い出の品をディスプレイしている(撮影:小野有理)
こうしたアトリエ空間と、生活するためのキッチンやデスクスペースを仕切っているのが寝室小屋です。広さ3畳ほどの小さな小屋は、大きめのベッドを置くともういっぱい。カーテンを閉めるとテントの中に籠ったような感覚で落ち着くそう。仕事も同じ部屋でするからこそ、最もプライベートな空間を分けておきたいというGregoireの目論み通り、この小屋は部屋の真ん中にありがなら、独立した一つの小さな島のようです。
ちなみに小屋は単に寝るだけではありません。キッチン側の外壁にはフックをつけて鍋をぶら下げ、キッチンの収納力を上げました。ガスコンロを使っているときに振り向いて鍋が取れるので、とても使い勝手が良さそうです。最もプライベートな空間を追求した最小限の小屋は、寝るだけに留まらない、空間の仕切りや収納などのいろいろな使い途を兼ねた小屋になっています。
【画像11】小屋によってアトリエ部分から仕切られたキッチン。生活のオン・オフを切り替えるうまい工夫だ(撮影:小野有理)
【画像12】小屋の壁には大小とりどりの鍋やフライパンがかけられている。収納が少なくても大丈夫(撮影:小野有理)
今回の2軒を訪ねて感じたことは、小屋の可能性の無限さでした。同じ空間の使い方でも、部屋じゃなくて小屋だからこそ感じられる非日常感。小屋に入ってみるだけで何となくワクワクする、あの高揚感は何でしょうか。気持ちの切り替えには最適なのかも、と我が家の狭いマンションでも小屋が出来ないか夢想する日々です。
さて、次回は、明日から取り入れられる ブルックリン流インテリアの知恵についてご紹介します。
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/07/06/93379/
【住まいに関する関連記事】
ブルックリンに学ぶ[1] 手塩にかけた部屋に、身の丈で暮らす
新しい家のカタチ…アースバッグドームってなんだ?
ポートランドに学ぶ[2] クリエーターが集まり活気づいたパール地区
<在日外交官のお宅拝見>米国流、大人のエンターテインメントな暮らし!
住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。
ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/
TwitterID: suumo_journal
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。