『マッドマックス』が人気を博している理由とは? 世紀末映画が2015年に教えてくれたこと

『マッドマックス』が人気を博している理由とは? 世紀末映画が2015年に教えてくれたこと

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』/画像は公式Webサイトより
6月20日より現在公開中の映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、作中で描かれる狂気に満ちた世界観と、CGではなくリアルな演出にこだわったアクション映画だ。

初週の土日2日間で、動員17万4807人、興行収入2億6478万4500円(興行通信社調べ)を記録。興行収入成績では1位に輝くなど、本作の人気がうかがえる。

前作の『マッドマックス/サンダードーム』は1985年に日本公開されており、「マッドマックス」シリーズ4作目となる本作は、ちょうど30年の年月を経て公開されたことになる。

これほどの年月が経過しているのにも関わらず、多くの観客に迎え入れられた本作。30年前にはまだ普及していなかったインターネット上では、現在、SNSを中心に若者の感想も多く見受けられる。

旧来の映画ファンもちろん、シリーズを通した文脈理解が浅い層にも本作の面白さが届いている理由とは?

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の特徴

アクション映画といえば、矢継ぎ早に切り替わるショットやスピード感溢れるシーンなどが思い浮かぶだろう。

本作は実写撮影へのこだわりや緻密な美術品や装飾品のおかげで、そうしたアクション映画としての迫力や魅力にも溢れている。

しかし、何よりも本作のアクション性やエンタメ性を高めているのは、映画としての構造のユニークさにあるだろう。

一般的なドラマや映画の場合、観客は主人公や登場人物の性格、映画の中の世界観を理解した上で物語を楽しむ。

そのためには、象徴的な演出やシーン、説明的なセリフによる状況理解が必要だ。しかし、本作の場合、上映が始まるやいなや、観客は主人公のマックスとともに荒野に投げ出される

どこまでも続く荒野を眺めていると、次の瞬間には唐突に、息を飲むようなマックスの窮地が訪れる。

ジェットコースターが落下する直前のように、この先にある恐怖感は明確に感じているが、実際にこの先で何がどのように襲ってくるのかはわからない、そんな、ワクワク感と緊張感であっという間の2時間が過ぎてしまう。

しかも、マックスが武骨で口数が少ないことや、物語としては逃避行が主軸となっていることで、「なぜ」「どうして」という疑問よりも、死地をくぐり抜けてゆく緊迫感に焦点を絞りやすくさせている。

そうした中でも、主演のトム・ハーディさんの演技からはマックスの人となりが伝わってくるし、徐々に仲間内での信頼関係が生まれてゆく様子にも気づかされる。

ストーリーやキャラクター設定などの説明を最小限にとどめることで、観客の意識を各瞬間ごとのアクションや壮大な演出に惹きつけることを可能にしているのだ。

ジョージ・ミラー監督の魔術

本作を手がけたジョージ・ミラー監督は、これまでの「マッドマックス」シリーズのほかに、ペンギンの冒険を描いた劇場アニメ「ハッピーフィート」シリーズの監督を務めている。

そのほかにも、動物映画の傑作『ベイブ』の脚本なども手掛けており、ファミリー向けや子ども向けの映画づくりにも長けていると言えるだろう。

そんな幅広い客層の心をつかむミラー監督の手腕にかかると、30年前に一世を風靡した昔ながらの作品も、現代的感覚に見事に昇華させられている。

2015年に独創的な娯楽映画を生み出すには

映画や映像が飽和している現代において、先述のジェットコースターのような感覚を生むミラー監督の演出は世相を反映したものではないだろうか。

誰もが、スマホで映像を撮ることができるなど、映像自体が昔よりも多く生産・消費されていく中で、昔に比べると現在の観客の映像体験は豊富だと言える。

そうした状況下では、古典的な起承転結という映画の構造や演出は、観客にとって目新しいものではなくなっているだろう。

本作では派手な演出を施したり、過激なアクションシーンを主軸とすることで、ストーリー展開や設定にとらわれない娯楽映画に仕上がっており、どんな観客にとっても度肝を抜かれる瞬間があるはずだ。

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現在、YouTubeやVineなど、インターネットやテクノロジーの発達により地球上には数え切れないほどの映像が制作され、視聴することができ、普通に生活しているだけでも様々な映像を目にしている。

このような状況下では映画のストーリー展開や映像技術も重要だが、それらは作品を評価する上でひとつの要素と考える必要があるだろう。

例えば、優れたストーリーの作品に出会っても、すでに似たようなストーリーの作品を見ていた場合、正当な判断を下すことは難しい。

大衆にとって楽しめるものが、娯楽映画のあり方だとするならば、様々な映像メディアで未だ体験したことのない感動を届ける必要があるだろう。

そうした観点から、本作では、ストーリーだけではない映画の様々な要素を監督が采配し、独自の構造として組み立ててゆくことで、映画としての感動やオリジナリティが生み出されるということに気づかされる。

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