姉妹の心理をさりげなく的確に描く〜瀧羽麻子『ふたり姉妹』
情報番組「ノンストップ!」(フジテレビ系。私の住む地域では平日朝10時頃から放映)で最近ホットな話題のひとつが、「アラ50姉妹トラブル」だ。小さい頃は仲のよかった姉妹が、歳をとるに従い親の介護や相続などの問題が生じるようになると、修復困難な諍いを起こすようになるというものだ。この番組では主に司会者とゲストがそれぞれの意見を言い合うことで成り立っているのだが、この話題に関しては姉代表・千秋さんと妹代表・ハイヒールリンゴさんがツートップの論客。リンゴさんは「おねえちゃんは妹の意見も聞かず自分で決めて、王様のようにふるまうのが腹立つ」と激昂し、千秋さんは「妹は家来も同然。おねえちゃんなんだから妹の上に立つのは当たり前のこと」と応酬する。私が特に「なるほど」と思わされたのは、千秋さんの「友だちと泊まりに行く許可だのお小遣いの値上げだの、自分が親と交渉して勝ち取ってきたものを、妹は初めからすべて与えられている」という意見と、「おねえちゃんは自分ひとりでずっと親の愛情を独占してきた時期があるが、妹は生まれたときから姉と分かち合う運命である」という意見だ。それぞれ立場が違うと物事の受け止め方も違ってくるものなのだなあと痛感。そんなこともあって、ついこの本に手が伸びたわけだ。
本書はもちろんふたり姉妹の話で、姉の聡美と妹の愛美の視点から交互に語られる。聡美は何でもできる優等生でしかも美人、東京の大学に進学した後知名度のあるお菓子メーカーに就職した。愛美は愛嬌のある人気者で、商業高校を卒業した後は実家に残ってデパートで販売員として働いていたが、幼なじみとの結婚を控え退職したばかりだ。物語は聡美が突然実家に帰ってくるところから始まる。プロジェクトが一段落してたまっていた有給休暇と合わせて長い休みが取れたのだと説明する聡美に、愛美はその間東京の部屋を使わせてくれと頼み込み…。
東京にたどり着いたとたん合鍵で部屋に入っていた聡美の恋人・柏木に出くわした愛美と、「早く東京に帰って愛美を送り返してくれ」と愛美の婚約者・公太に責められる聡美。まるで相似形のようなできごとに遭遇するふたり。実際聡美と愛美の主張はいずれも、小説として読む分にはどっちもどっちとしか言いようのない無い物ねだりだ。だが、現実の姉妹関係でも他人からみれば取るに足らないトラブルの積み重ねがストレスに発展するものだろう。
しゃれにならないほど深刻な仲違いをしているケースも、世の中には当然あるに違いない。しかしながら、姉妹がいる人というのはだいたいにおいてうらやましがられることに慣れているのではないだろうか。どんなに姉妹を悪し様に言っている人でも、心のどこかで「いいじゃない、おねえさん(or妹)がいるなんて」という返しを待っているように見受けられる。「ふうん、たいへんだね。弟だと楽でいいや」などという味気ない感想で、相手を物足りなさげな表情にさせてしまったことも一度ならずあったし。
本書でもそんな姉妹の心理をさりげなく、しかし的確に表すエピソードがある。聡美が地元の友だちで愛美とも仲のいい沙織と海に出かけたときのこと。聡美が「愛美は結婚したら女の子がふたりほしいと言っている」と話したところ、沙織が「聡ちゃんも昔そう言っていた」と答えたのだ。実は私も自分の息子たちに同じような質問をしたことがある。「もうひとりきょうだいが生まれるとしたら、弟と妹どっちがいい?」と聞いたところ、3人ともが「弟がいい!」と即答。「すでに十分男子は足りている感もあるのに、やっぱり男の子がいいんだ!」と私は驚いた。もしきょうだいのことを嫌っていたらそうは言わないだろうから、同性同士っていいものなんだなあとそのときはさすがにうらやましく思った(目を丸くする私に「あ、でもおかあちゃんが女の子をほしいんだったら…」と遠慮する様子がまた微笑ましかったり)。
私がとりわけ感心したのは、姉妹の仲直りの場面を描く著者の筆力。激しく言い合ったり場合によっては取っ組み合いになったりしたあげくの仲直りもあるけど、こういう風に何とはなしに元通りになるときもあるよね、という感じ。それと、姉と妹というある意味相反する心理をどちらも説得力をもって描写できるのがすごい、ほんとに。私自身は瀧羽さんの作品を読むのはこれが初めて。がんばる女子にエールを送る内容の作品が多いようだが(本書もそうだけど)、家族というものを描く力も確かだと思われる。要注目作家のリストにしっかり加えさせていただきました。
(松井ゆかり)
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