講演でわかったジャパネットたかた社長のハイテンションの理由

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今回はブログ『N-Styles』からご寄稿いただきました。

講演でわかったジャパネットたかた社長のハイテンションの理由
九州大学ベンチャービジネスラボラトリーが開催する起業家セミナーに参加してきた。単位取得もできる大学の正式な授業として開催されたものだが、席が空いていれば部外者も参加可能となっていたので全15回中、2回だけこっそり潜り込んだ。

今回は2010年度の後期授業として、全15回開催され、各界で活躍する社会人が“働く”をテーマに講演を行った。演者の人選や招致は学生自身が行うという面白いシステムになっていて、キッザニアの社長や日経新聞の編集部長などバリバリ働いている方々に混ざって、ニートのpha氏が呼ばれるカオスっぷりがたのしい。

最終回の第15回は株式会社ジャパネットたかた代表取締役髙田明氏(以下、髙田氏)の熱い語りが堪能できた。

社長登場
予定より少し遅れて髙田氏が登場。就職説明会で午前中から福岡入りしていたが、そこで話が熱くなりすぎて時間が伸びてしまったそうだ。「テレビだと秒単位で管理されているけど、普段は時計を持たないので」とのこと。

「九大にこんなに簡単に入れるとは思わなかった。この間は東大にも入れた」と軽いジョークからスタート。髙田氏は、長崎大学の受験に失敗し、大阪経済大学に入学している。

先日から1か月限定で『Twitter』を初めている(アカウントは@A_TAKATA)という髙田氏だが、『Twitter』上でソフトバンクの孫社長と交流していたりする。『Twitter』でも営業トークをするのはさすがとしか言いようがない。

まずは、ジャパネットたかたを立ち上げるまでのエピソードから話し始める。スライドや原稿はなく、考えるまましゃべっているようだが、非常に分かりやすい。この原稿なしのトークが彼の理念と通じる部分があるのだが、それについては後ほど触れる。

ネジからカメラへ
真面目な学生というわけではなく、昼はパチンコ、夜はジャン荘の生活をしていたが、英語だけは真剣に勉強を続けていたという髙田氏は、“ネジを作る会社”に就職し、海外営業を担当した。当時は冷戦真っ最中だったが東欧へも出張し、ヨーロッパのほとんどの国に足を踏み入れ、8か月間のヨーロッパ滞在の後、25歳で地元の平戸(長崎県)へ戻る。

髙田氏の実家は写真屋だが、当時は今と違ってカメラの所有率が低く、フィルムカメラなので現像も必要だった。髙田氏は地元のホテルで開催される老人会などの会合にもぐりこんで、撮影しまくり、翌朝までに現像とプリントを終えて、その写真を売った。

髙田氏はそこで、「公務員はあまり写真を買わないが、婦人会や戦友会だと飛ぶように売れる。顧客の属性によって売上が変わる」というマーケティングの基礎を身につけた。これがその後の通販に生かされることになる。

また、恥ずかしがって写真を撮られたがらない客も、自分が写っている写真を見つけると欲しいという。顧客が何を求めているかを読み取り、満足してもらえることを提供してお金をもらうことを学んだという。

カメラ店の業績拡大
髙田氏は27歳で結婚し、3坪しか敷地がない店舗を任される。当初は1か月の売り上げが55万だったが、300万の目標を設定し、1年で達成した。その後も業績を伸ばしていく。たばこ店の店頭に看板を置かせてもらったり、工事現場を回って現像前のフィルムを集めた。しかし、全国チェーンの格安現像が進出してくる。品質を落とせば対抗できる。しかし、顧客に満足してもらうために、品質に拘り、満足のできない写真は焼き直していた。価格では勝てない。

そこで髙田氏は看板の宣伝文句を変更した。「今日出来ます」と。

朝にフィルムを渡せば、夕方にはプリントされている。大手では中1日、2日を要していた。顧客の心をつかみ、さらに業績を伸ばしていった。

ラジオの世界へ
次に髙田氏が目につけたのはビデオカメラだった。ソニーに頼み込んで特約店にしてもらう。平成元年に出たパスポートサイズ『ハンディカム』は19万8000円。これをどうやって売るか? 訪問販売にしてみた。お客さんの目の前で子供を撮る、テレビにつなぐ、ブラウン管に子供が映る。今となってはあたりまえのことだが、親は喜んで買ってくれる。月に100台売れて、ソニー社内でも話題になったという。

こうして業績を伸ばしていく中、宣伝媒体としてラジオコマーシャルに目をつけた。テレビコマーシャルは高すぎるので、ラジオを選んだという。ラジオコマーシャルを続けている間に知名度が高まり、通販番組をしないかとラジオ局から打診があり、やってみたら予想を大幅に超える売上があった。こうして、メディア進出が始まった。

テレビへの進出
当時は各地のラジオ局に出向いて番組をやっていたという。九州全域に進出するころには“通販九州”と名乗り、四国進出時には“通販四国”……このままでは進出するエリアが増えるたびに名前が変わると思い社名を変更した。“ジャパネットたかた”の誕生である。

全国進出しても本拠地は長崎の佐世保。北海道から注文の電話が入ったが「北海道のどこなの?」と聞かれた。札幌あたりで営業していると思われていたようだ。長崎だと告げると電話を切られた。髙田氏は、まだまだ信頼が足りないと感じた。声だけのラジオ通販よりも、テレビショッピングが良いに違いない。

テレビも最初はテレビ局のスタジオを借りてやっていたが、頻繁に起きる商品の入れ替えにすぐに対応するには自社スタジオが必要だった。しかし、技術スタッフがいない。それでもスタジオの建設を開始し、放送枠も確保した。建設と並行して、若い社員に映像の勉強をさせた。現在でもジャパネットたかたでは自社スタッフが撮影をしている。

テレビで放送しても高齢者は信用してくれない。それで、折り込みチラシを作った。問題が出てくればそれを一つずつ潰していく。インターネットが普及し始めたのを知って、ネット通販にも進出した。今ではテレビ通販よりも売上が多い。「問題は階段を登るように一つずつ解決していけばいい。一足飛びにはいかない。過去は振り返らないでいまを頑張れば不可能も可能になる」と髙田氏は語る。

ここで前半が終了。

テレビのようなハイテンションなトークではないが、それでも感情のこもった声で、聴衆を見回しながら、語りかけている。あのハイテンションを日常でも続けてたら死ぬそうだ。そりゃそうだ。しかし、62歳であの若々しさを保ち、「あと49年生きる」と本気で話しているのはバケモノといっても過言ではない。後半ではその原動力が語られた。

感動を伝える
昔と違って携帯電話やネットで容易にコミュニケーションを取れるようになったが、その分会話が減り、表情が減ったという。“パフォーマンス学”という、感動について研究している日本大学芸術学部の佐藤綾子教授が「言葉を伝えても感動を伝えなければ意味がない」と言っていた。これはテレビ通販も同じだという。感動が伝われば、ラジオでも高額のテレビが飛ぶように売れていく。

髙田氏は、パソコンのスペックを説明をするときも分かりやすく、かみ砕いて説明する。それが、顧客に自分の言葉で伝えていくということになる。ラジオ/テレビショッピングは原稿がないという。原稿がないのはプロポーズも同じで、それが想いを伝えるということにつながる。そして、身振り手振りも加えれば、指先が語り出す。

信頼度について言葉を変えて繰り返し話す髙田氏。熱く語るから、ついつい衝動買いしてしまう客も多いが、金額に見合う品質の商品であれば、衝動買いであっても満足してもらえるという。

テレビショッピング番組でのあのハイテンションは演技でもなんでもなく、“想いを伝える” “感動を伝える”ことを実践したら自然とあのテンションになっていくそうだ。ジャパネットたかたでは、社長以外にもMC(司会)をする社員がいるが、真似をしろと指示したわけではないのに、全員がハイテンションなしゃべりになってしまうという。アナウンサー志望の社員を採っているというわけではなく、想いの強い社員がMCに抜擢(ばってき)される。元カメラマンのMCもいるそうだ。

“感動を伝える”という想いが髙田氏の原動力なのだろう。品質、信頼度の話と並んで、何度も登場した。

そして、質疑応答前の最後のトークが最高だった。

「最後にこれだけは言わせてください。テレビはお店で買わないでください、ジャパネットでお買い求めください! 5万円で古いテレビを下取りします! 金利手数料はジャパネットが負担します!!」

あのトークを生で見られただけで満足です。ありがとうございました。

驚異のリスク回避能力
その後の質疑応答でも、「掃除機はどれを買えばいいですか?」という質問(なんで聞いた!?)に対し、三社の掃除機の特徴を挙げたうえで、「それぞれ特徴があり、偏差値のように一番はない。掃除機は三製品とも買ってください(笑)金利も負担します!」と最高の返しをしていた。立場上一社だけ持ち上げるわけにはいかないから、三社とも宣伝し、さらに順位付けではない価値観というためになる話もおりまぜて返す。この社長、アドリブに相当強い。

また、講演でいつ触れるかなーと待ち構えていた2004年の情報流出事件についても、質疑応答の中で触れていた。夕刊に間に合わないという、記者の都合に合わせて設定された記者会見までの2時間で、自主的な営業停止を決めたという。この対応はリスクマネージメントの模範として評価され、事件前を大きく超える業績拡大につながったのは周知のとおりだ。

まとめ
今回の講演で感じたのは、顧客第一主義を言葉の上ではなく、心の底から貫いているということ。以前どこかで、一度購入した人に送られるカタログからの購入金額がジャパネットたかた全体での売上の多くを占めているという話を聞いた。これは、リピーター需要が高いということを示しており、ジャパネットたかたの信頼度の高さからくるものだろう。

講演後、髙田氏を囲んで学生が様々な質問を投げかけ、髙田氏は一つ一つに笑顔で答えていた。そういう人柄だと言ってしまえばそれまでだが、これが彼の能力なのだろう。社員さんに話を聞いたが、髙田氏は社員に対して厳しいが、それは顧客を第一に考えてのことで、しかられる側も、そのことを十分納得しているのだという。

髙田氏は講演の中で、「社長がいなくなったら会社はどうなるのかと聞かれることがあるが、私がいなくなっても100年、200年続く会社にしている」と話していた。問題に一つずつ立ち向かい、新しいことにもチャレンジする社風を作り上げているということだろう。

髙田氏とは親子ほど年が離れているが、どうやっても情熱で勝てそうにない。こんどジャパネットたかたのテレビショッピングを見る機会があったら、あり余る情熱を全身で受け止めながら鑑賞し、少しでも吸収していきたい。

追記:講演の際のメモを元に再構成しています。大筋で合っているとは思いますが、細部で事実と異なる部分が含まれている可能性もあります。

執筆: この記事はブログ『N-Styles』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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