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300万ダウンロード突破『Jコミ』が目指すもの – 赤松健インタビュー(前編)

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絶版となった漫画作品を広告入りPDFファイルにして無料でダウンロードできるようにする、という試みで話題となった『Jコミ』。既に300万ダウンロードを超え、広告モデルとしても一定の成果を確認できたようだ。仕掛けたのは人気漫画家の赤松健さん。「日本漫画の歴史的なアーカイブ」をつくることを目標として『Jコミ』を立ち上げた。確かに今、このままだと絶版になってしまった漫画は二度と読むことができなくなる可能性がある。果たして『Jコミ』はどのように進化し、漫画の歴史にどのような足跡を残すのか。サイトオープン直後、渦中の赤松健さんに様々な角度からじっくりお話をうかがった。(このインタビューは2010年12月におこなわれました。)

○登場人物
赤松健さん(漫画家。絶版漫画を広告モデルで電子的に配布する『Jコミ』を作った人)
深水英一郎(ガジェット通信)
長田恒司(ガジェット通信)
ピカ田チュー太郎(夕刊ガジェット通信)

●Jコミのビジネスモデル

深水 『Jコミ』さんがやっていることって、本来なら出版社さんがやるのが自然だと思うんです。もしかするとこの『Jコミ』のモデルを丸ごとパクって誰かに持って行かれる可能性ってあるんじゃないですか? 例えば出版社さんが「やっぱりうちがやりますよ」とか。

赤松 30%くらいの手数料を取ってですか? それがですね、『Jコミ』は特許を申請してるんですよ。通るかどうかは分かりませんけど。通るまで何年もかかりますし。

深水 どういう特許を申請しているんですか?

赤松 それはノーコメントです。とりあえず、他が「手数料をとってJコミと同じビジネスをやる」という場合、漫画家の利益がその分減っている。だったらうちが”0%”で全部請け負います。これに勝つのは、事実上無理ですよね。

深水 やっぱり「勝ちたい」っていう気持ちがあるんですか?

赤松 誰にですか?

深水 例えば出版社とか、同じ方向を向いている他の漫画家さんに。

赤松 ないですよ!(笑) 私は「懐かしいけど今は読めない『名探偵 荒馬宗介(あらまそうかい)』とかを読みたいな」っていうのが発端なわけですから。ブログにも書いたんですけど、桜多吾作先生の『マッハSOS』は6巻までしか出ていない。どうなっているんだ! 読ませろよ! と。『冒険王』には続きがちゃんと載っていたんだから。

深水 他の人が『Jコミ』を模倣したモデルをやることに対しては、戦いたいという意思が見えたんですけど。

赤松 その人が手数料取るようだったら、ですね。

深水 手数料を取るようなモデルだったら戦うと。

赤松 そうですね。それは差し止めはしますよ、と。

深水 手数料とらないモデルだったらどうします?

赤松 漫画家さんのことを考えてやっているようだったらOKで、サービスの良い方が生き残るって感じですね。

深水 その特許っていうのは抜け道がなく、このモデルに誰も手を出せなくなるようなものなんでしょうか。

赤松 それもノーコメントです。

●佐藤秀峰氏『漫画 on Web』との違い

深水 たくさんの媒体に露出してらっしゃって『Jコミ』については語り尽くしておられると思うのですが、少し角度を変えてお話をできたらと。

赤松 佐藤秀峰先生の『漫画 on Web』さんと比較したいという、例のお話ですね? 先日、『ガジェット通信』でも長い記事になってましたよね。佐藤先生をよく取材されたりするんですか?
※『漫画 on Web』:漫画家佐藤秀峰氏がつくったウェブで入稿から漫画の公開までできるサービス。漫画の有料公開も可能。http://mangaonweb.com/

深水 なんかね、家が近いので遊びに行く感じでたまにお伺いしていて。

赤松 へ~。

長田 佐藤先生の『漫画 on Web』は見ておられますか?

赤松 ええ、チェックはしましたけど。今は無料コースがあるようですが、やはりアップロードするのは作家本人なんですよね?

深水 作家さんですね。そこの作業はやはりそれなりに大変みたいです。

赤松 大変ですよね。うちの場合は許諾済みのタイトルを対象に、ネット上に転がっているのを持ってくるか、もしくは読者がアップするという感じです。作家先生は寝てたら電子化できちゃうと。『漫画 on Web』さんの場合、使用料がかかるとなると、作家は赤字になる可能性があります。それは厳しい。うちの場合、赤字はないです。黙って寝てればお金が入ってくる。

深水 「いいよ」って言うだけですもんね。

赤松 「いいよ」って言う手間はかかりますけど(笑)。あと、口座番号を言うとかね。「画質違いで2種類来てますけど、どっちがいいですか?」「うーん、こっち!」とかね。作家がやるのはそれぐらい。そこまで行かないと作品は集まらないような。

ピカ田 作者は手を動かさずに勝手に動いていく、っていう感じですね。

赤松 そこのところは強調したいので、今回のβ2テストの先生方にも「待っていればお金が入りますから、何もしないでいいです」って言ってます。広告代理店との打ち合わせも、広告のマッチングも、何もする必要は無い。

長田 となると佐藤先生の『漫画 on Web』は?

赤松 新作漫画で、しかも出版社の直しを受けたくないような場合は、有効だと思います。その他の事例では、少し危険なんじゃないかと思います。それに、システム自体の完成度が高くても、佐藤先生の思想に賛同できない場合は、ちょっと参加しにくい。基本的には、既存の出版社への反発から出発したシステムだと思うので、新人さんにはハードル高いのではないでしょうか。

深水 佐藤先生とはお話してみたいとは思われますか?

赤松 う~ん、今はまだβ2テスト中ですからね。『漫画 on Web』さんはもうずっと正式稼働してるじゃないですか。こっちはまだ実験してる段階なので、もう走っている車と、組み立て中の車を比べてみようっていうような車雑誌の企画みたいなもんで。もう少し、同じ土俵に乗ったら比較ができると思うんだけど。

深水 では、時期が来たら。

赤松 正式公開の後ならいいですよ。

ピカ田 面識はあるんですか?

赤松 ないです。

長田 単純に、二人のお話を聴いてみたいという興味はありますけどね。

赤松 ネットでは、何かホリエモンと三木谷さんみたいな感じで見られているとか。佐藤先生がいろんなところに迷惑をかけながら切り拓いた道を、私がきれいに舗装して道路にしているっていう。

長田 ベクトル自体が違うような気がするんですけど。

赤松 まあ、私はわりと周囲と協調してやっていく方ですけれども。

長田 そうですよね。すごくサービス精神を感じるときがあります。

赤松 私は、自分の願望は、出すべきではないと思っているんですよね。読者に対しても同じです。よく出てくる話題ですけど、私は「萌え」漫画を描いていますが、本当は凄く熟女が好きなんですよね。

深水 そうだったんですか! 失礼しました。

赤松 みんなが喜ぶから描いているんであって、そんなに女子中学生は……まぁ嫌いじゃないですけど、でも「みんなが好きなものを描く」っていうことが第一なんですよ。佐藤先生は、自分の信念に基づいて描いている。そのために描く場所というか出版社を選んでいる。私は、例えば講談社が儲かるものを描きたいし、同時に読者も喜ぶものを描きたい。そのためには、自分の願望や信念なんていうものは抹消すべきだと思ってます。

深水 確かにそういう違いはあるかもしれませんね。しかも佐藤先生は、きれいに舗装してきた道でも壊してしまうことがあるような気がします。こないだ『Twitter』のアカウントを突然消してしまっててビックリした。

●ヒットしたらそのまま続けた方がいい

赤松 私は『ネギま』を8年やっていますけど、新連載って、始めるときにすごいエネルギーが必要なんですよね。だから本当は、一旦ヒットしたらなるべく止めない方がいいんです。例えば読者が「飽きた」と言っていても、もし何十万部も売れている場合、それを終わらせる、壊すっていうのはもの凄く恐ろしい。だって、次は売れるかどうか分からないじゃないですか? 私はとにかく自信が無い。
自分の実力の無さとか、そういうのはかなり意識していて。これもよく言うんですけど、女の子の絵を正面から描くじゃないですか? 紙を裏側にして見ると、私のデッサンは狂ってます。でも『はじめの一歩』の森川ジョージ先生は、どっち側から見ても”一歩”ですから。
あと、商業主義な”ハリウッド的”漫画家っていうのは、やっぱり下に見られやすいです。信念ないですよね。自分のやりたいものじゃないですからね。

長田 逆に、信念がものすごくあるような気がするんですけどね。

赤松 別な意味ですよね。

深水 エンターテインメントと割りきって楽しませることに徹底している。

赤松 そうです。でも、そういうのは”漫画読み”からも嫌われますよ。もう少し、漫画家の内面的なものを出して欲しい、と。現に今、ハリウッドの映画はどれも同じ方法論で作られているから。何分ごろに何が起きるってのを診るスクリプトドクターがいるわけです。そういう風なのはね、芸術家の人たちは嫌がるんです。漫画でもそうです。

深水 いやいや、いろんなタイプの漫画家さんがいていいのでは。現にファンが沢山いる。

赤松 『ガロ』とかがすごく尊ばれるってそういうことでしょ? 商業主義はダメなんだっていうのが根底にあるから。

長田 突き詰めると、ディズニー的な楽しませ方、ということにならないですかね。サービス精神とか、そういう部分でエンターテイメントに徹する。

赤松 いいと思います。ディズニーのキャラクターは歳を取らないから、俳優を使うよりずっと有利ですよね。

深水 誰でも楽しめるものがないと、そこに入ってくる人がいなくなるし、マニアにもならない。

赤松 その点でも、佐藤先生の漫画は『ブラックジャックによろしく』もそうですけど、作品にあの人の”地”が出ているでしょ? そういうものこそ、みんな漫画で読みたい。私みたいに、一般人に媚を売って作家性のない漫画っていうのは、存在として軽いわけです(笑)。

●戦争だったら参謀になりたい

赤松 私は、大学卒業して就職活動をして、編集プロダクションを受けてほぼ入りかけたんですけど、運良くか運悪くか『マガジン』の新人賞に入賞してて、その後すぐ『A・Iが止まらない!』でデビューしました。本当は編集者志望で、絵を描くのはあまり好きじゃないんです。高校だって、音楽と美術では音楽をとりましたから。本当は作戦を立てて、絵のうまい人に「ここはこうした方が良い。こうすれば絶対面白くなる。」ってアドバイスをするのがすごい好きなんです。私はそっちに進むべきだったっていまだに思っています。

深水 編集者目線。

赤松 いつもそうですよ。自分が描きたいものじゃなくて、ある人の才能を伸ばしてやるという仕事にすごく憧れます。もし、戦争だったら参謀になりたい。実際にリーダーになるのは、もっとカリスマ性のある人じゃないとね。

長田 描くときに編集者の方がアドバイスをされるときに、同じ方向を向いているから作品が作りやすいってことになりますか?

赤松 そうですね。「読者は何が読みたいだろう」って、『バクマン。』でもそういうことばかり言ってますけど、現場はそんなかんじ。今、それに反論する作家はもういないですけどね。「読者はどうでもいいんだ。俺は俺の描きたいものを描く」って言ったら、編集部を追いだされますよね。

長田 「俺の描きたいものを描く」っていうのは「とにかく客の喜ぶうまいものを出すんだ」みたいな、料亭の板前さんみたいなものですかね。職人気質というか。

赤松 私だったら、美味いかどうかはわからないけど、客が見た目喜びそうな料理を出します。栄養は無いかもしれませんが(笑)。

●漫画家という職業を選択した理由

赤松 私が大学に入ったときに、創作活動をやりたいなって思っていたんですけど。小説と、漫画・アニメ・映画、全部サークルに入ったんですね。小説を書くために文学部の国文学科に入ったんですけど、文学部の国文学科っていうのは入ってから知ったんですけど、古典を勉強するところなんですよ。あと映画なんですけど、当時は日本映画が超斜陽時代で。もう貧乏人しかいなかったですね。漫画とアニメはけっこう日の出の勢いだったんですけど、アニメは設備投資がかかるんです。でも漫画は設備投資がいらないんですよ。その割には市場規模がでかいっていうので、消去法で漫画にしたんです。

ピカ田 選択肢として「ゲーム」もあったんじゃないですか?

赤松 ゲームはですね、高校時代に確かにやってましたけど、その頃から規模が大きくなっていったんですよ。個人での開発は難しい時代になってきていて。

ピカ田 あの時代は、個人の方が自分で作って売れるっていう。

赤松 そう。それはね、PC-88用ゲーム『アルフォス』の森田和郎さんとか、『ドアドア』の中村光一さんは一人で作っていた。でも、その後にはそろそろチーム制になって一人ではできなくなって。アニメと同じく設備投資が必要になってくるし。じゃあ、小説か漫画かな、ということで市場規模の大きい漫画に行った。だいたい大学1~2年の頃にリサーチして、3年あたりには『マガジン』に行くと決めていました。その頃から『マガジン』に投稿して。その時の担当が今の担当なんです。

ピカ田 けっこう絵柄的には『サンデー』とかなのかなって思うのですが、何故『マガジン』なのですか。

赤松 それはですね、みんな思うことなんですよ。あさりよしとお先生とか、うたたねひろゆき先生など、女の子の絵にコダワリがある人は、みんな『サンデー』の新人賞からデビューしているんです。女の子の絵が上手い人はみんな『サンデー』に行く。ではそこへ行くと有利かというと、全く逆で。ライバルが多いから。
山のものは海で売って、海のものは山で売るべきなんです。当時アニメ風の絵でちょっとエッチなラブコメは、『マガジン』では圧倒的に不足していた。だから『マガジン』に持って行ったら結構優遇されました。例えば『銃夢』が流行っていた頃に『ビジネスジャンプ』の新人賞への応募が、サイバーパンク物ばかりになったらしいんです。なんでそんな競争率が高いことをするのかなあ。つまり『サンデー』にエッチラブコメ持って行ってもダメ。目立たないですよ。『マガジン』に持って行ったら、すごく目立つでしょ。こういうこと、みんな何でやらなかったのかなあ。ファンタジー冒険物だったら『ガンガン』とかに持って行こうとするし。

深水 雑誌ごとにカラーが決まっていてそこに行かなければならないっていう気持ちになるんでしょうね。

赤松 そういうのが「無い」ところに持って行くと、絶対に競争率が低いですよね。っていうので『マガジン』にしました。

長田 何かを作りたかった。その手段がたまたま漫画だった。

赤松 アニメもずいぶんやりましたよ。中央大学のアニメーション研究会は有名なんです。映研で映画もたくさん撮ったし。学生映画で当時、『イカ天』の後に『エビ天』っていうのがあった。アレの活動に参加してて、後は『ビジネスジャンプ』の8ミリ映像コンクールにも入選してます。最初は映研メインだったんですよ。でもアニメも何本も参加しました。漫画も年に2本、必ず持ち込みしてました。それで授業には出れなかったですよ。3サークルをフルにやると授業には出られないです。当時は学業よりサークルの方が大事でしたね。

深水 それは楽しくて打ち込んでいたんですか? それとも将来を考えて?

赤松 もちろん楽しかったですよ。

深水 おー、純粋に面白くてやってたんですね。

赤松 映画が一番面白かったかな。

(つづく)
300万ダウンロード突破『Jコミ』が目指すもの – 赤松健インタビュー(後編)

●Jコミ

(編集サポート:kyoko)

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記者:

やわらかニュースサイト『ガジェット通信』発行人。未来検索ブラジル・東京産業新聞社社長。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラクターに興味がある。好きな食べ物はシュークリーム。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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