スクエアプッシャー・来日ライヴ前インタビュー「実験的な音楽にはファンのサポートがすごく重要」(ガジェット通信 深水英一郎)

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SQUAREPUSHER

スクエアプッシャー・インタビュー

先月新アルバム『Damogen Furies』を発売、そして5月15日と16日には東京と京都でのライヴを控えているスクエアプッシャー。イギリスのテクノミュージシャンである彼は常にこれまでのものを覆す挑発的で時代の先端をいく音楽を発表し我々を驚かせるライヴパフォーマンスを繰り広げてきた。今回は来日ライヴを前に新アルバムについて、そしてライヴパフォーマンスについて話をきいた。

――アルバム制作を始めた段階でゴールやコンセプトはありましたか?

SQUAREPUSHER: 『Damogen Furies』に収録されている楽曲ピースはすべて、僕が去年取り組んでいた、もっと大規模な音楽ピース群、色んなマテリアルの集まりの中から出て来たものなんだ。でも、このアルバムの背景を成すアイデアのひとつとして『ライヴで演奏できるものにしよう』ってのがあってね。『Ufabulum』、あるいはそれ以前の僕の作品の多くとは違って、あらかじめライヴでの演奏を前提とした音楽を作ろう、それが発想としてあった。で、僕が過去にやってきた様々なプロジェクトは、多くがそれとは逆のアイデアから作られたんだよね。以前だと、アルバム作りの目的はレコーディング・スタジオで出来る限りの何かを作り出す、制作時のスタジオ内における状況に見合った音楽をクリエイトする、というものだった。ところが今回の作品に収録したマテリアルに関しては、僕はライヴ会場で自分が出くわすような、そういうコンディションに適したものにしようとした。だからある意味、この作品は大音量でプレイされるべきものだと言えるし、観客を前に、ライヴで演奏されるべきものでもある、と言える。で、なんでそういうことをしたかったか、その理由の大きなもののひとつと言えば、うん、僕はもっとライヴ・ギグをやることに興味があったし、熱意も感じていた。だから『もっとライヴをやりたい』という文脈にマッチした、そういう音楽をクリエイトしようとしたんだ。

ー『Rayc Fire 2』など象徴的ですが、ひとつの主題が示され、さまざまなバリエーションが展開するような楽曲に関して、バリエーションごとにさまざなアイデアが込められていて何度聴いても新鮮な驚きを感じると同時に身体がゆさぶられるようなグルーブを感じます。こういった楽曲は、ライヴでの演奏をイメージしてつくられているものなのでしょうか。

SQUAREPUSHER: そうだね。実際のところ、今作はアルバム全体がそうなんだ。今作の大前提の一つが、ライヴで演奏するための作品にするってことだった。常にそれを念頭に置いて制作していたんだ。演奏するときに楽しめて、面白くて、自分にとってチャレンジになるもの、ということだね。

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――ワンテイクの録音というのも驚きましたが、ということは、今おっしゃった「ライヴ向け」という『Damogen Furies』の本質が、このメソッドに繫がったとも言えますか。

SQUAREPUSHER: そうだね。何かを生で演奏しようとするのなら、それはやっぱりワンテイクじゃなきゃダメだろう、と。ってのも、生の場ではチャンスは1回きりなんだしさ。でまあ、僕が今回の作品のためにデザインしたセットアップというのも、その点に尽きるんだよ。だから、すべてをワンテイクで演奏できるようなプロセス、完全にそこが基本になってるセットアップなんだ。いったん演奏が始まったらストップしたりあるいは再スタートすることもなく、編集もなし――色んな要素を継ぎ接ぎすることなしに、またバックアップ音源も使わない。そうやって、ひとつの……連続する一定の時間の中で一気に演奏することのできる、そういうものである必要があった、と。

――前回のアルバム発表時のライヴはLEDを使った演出でしたが、今回はバックスクリーンと自分自身に映像を投影する形に変わりました。自ら光を発する形から、光を投射される形への変更になにか意味はあるのでしょうか。

SQUAREPUSHER: いくつか考えていた点があって、何よりまず新しいアプローチを追求したかった。前作はあのLEDマスクと直結した作品だったからね。あとは機能的な面もある。一時間半もステージ上にいると、すごく暑いんだよ(笑)集中力や体力にも影響するほどね。でも原則としては前作と変わらない。何百人、何千人というオーディエンスから視線を浴びるっていうのもけっこう大変なんだ。ステージ上に上がらずパフォーマンスできないかって考えるくらいなんだけど、一つの打開策として、パフォーマンスのヴィジュアル面の一部としてステージに上がるっていうところにたどり着いたんだ。「見られること」に対する苦手意識とのネゴシエーションの中で生まれた発想なんだよ。

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―― Z-Machinesのプロジェクトもそうですし、本作のソフトウェア・システムの開発においても感じることですが、いまあなたが機械と音楽の関係、その可能性を広げようとしているのはどういった動機によるものなのでしょうか?

SQUAREPUSHER: そうだね、思うに……僕はこれまでもずっとそのふたつの関係に魅了されてきた、そういう人間だと言っていいと思うんだよね。そう……テクノロジーが音楽作りのなかに占める領域、そこには常に興味を抱いてきた。だから、おそらくその点は僕のキャリアのなかでも一貫して続いてきたことのひとつだ、そう言えるんじゃないかな? コンポーザーとしての自分自身とテクノロジーとの間の関係を探究していくってことだし、でもそれだけではなく、テクノロジーを使って生み出された音楽と聴き手との関係を探っていくという面もあるんだよ。今、君はZ-Machinesの例を出したけど、あのプロジェクトに僕が惹き付けられる点というのは、あそこでは人間の演奏家と縁の深い楽器を使っているところなんだ。シンセやドラム・マシーンを使ったわけじゃないし、そういう……機械的に合成(シンセサイズ)された、メカニカルな楽器ではない。あの作品で使った楽器――ギター、ドラムス、ピアノといったもののは、生きている人間のパフォーマー達と関連づけて考えられる楽器なんだ。たとえばエレキの音を耳にすると、聴き手の脳裏にはすぐギターを弾いている誰かさんのイメージが浮かぶ。弾いているそのミュージシャンのパーソナリティだったり、あるいはその演奏家がどんなルックスの人か?といった、人間のパフォーマーに付いて回る様々な要素を連想するわけだよね。だからこそ、あのコンポジションでエレクトリック•ギターを使うのは僕にとって興味深かったんだよ。っていうのも、あの作品のエレキはロボットが弾いているわけで、したがって人間のプレイヤーにまつわる様々な連想が一切介入しない。ロボットによる演奏だから、パーソナリティもなければイメージも存在しないし――もしも何らかのイメージは浮かぶとしても、それだって『ロボットがギターを弾いている』って図だろうね。で、僕からすればそれってのは、僕達にとってはお馴染みでありきたりとすら言えるエレキのような楽器を、メカニカルな音楽が蔓延する今の状況において新たな文脈で据えようとすることであり、それは僕にとっては『これは面白い、探っていこう』と感じるような、そういう研究テーマなんだ。っていうのも、エレクトリック•ギターを使って作られた音楽に対する僕達の反応は、おおよそ『誰がそのギターを演奏しているか?』次第で決まってくるわけ。だったら、ギターを弾いているのが人間ではなくてロボット=無人格という音楽作品だったら、僕達はそれに対してどう反応するんだろう?と。それは、僕にとってはとても興味を惹かれる、そういう探究のエリアなんだよ

――今週末5月15日、16日と日本でのライヴを予定されていますね。日本のファンに向けてメッセージをお願いします

SQUAREPUSHER: そうだな… 他の人はこういう質問に対する答えは用意してるもんなんだろうな(笑)うん、でもまず何年にも渡ってサポートしてくれてありがとうって言いたい。こういった音楽はファンのサポートがすごく重要なんだ。実験的な音楽にはメジャーに限らずレーベルなどから簡単にサポートを受けられるものじゃないからね。だからそのお礼を言いたいし、これからもサポートを続けてくれれば嬉しい。

そして、ライヴ会場で会おう。

ライヴ情報

ライヴパフォーマンスと密接な関係にあると本人も語っている新譜『Damogen Furies』。ライヴパフォーマンスを直接みたいという人は5月15日と16日に予定されているライヴをチェック。

5月15日(金)恵比寿ザ・ガーデンホールにて単独ライヴ。
5月16日(土)京都にて開催されるTHE STAR FESTIVALはヘッドライナーとして出演。

ライヴについての詳細は
http://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Squarepusher/BRC-461/
で確認してください。

新アルバム『Damogen Furies』

4月21日に発売されたばかりの新作アルバム『Damogen Furies』。まだ聴いていないという人は、こちらも手に入れてみて欲しい。

『DAMOGEN FURIES』

Damogen Furies (24bit/44.1kHz, OTOTOYハイレゾ配信、試聴ページ)
http://ototoy.jp/_/default/p/51397 [リンク]

(取材協力:BEATINK)

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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