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「キチガイ」を訴えると、裁判ではどうなるのか。(コウモリの世界の図解)

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今回はコウモリさんのブログ『コウモリの世界の図解』からご寄稿いただきました。

「キチガイ」を訴えると、裁判ではどうなるのか。(コウモリの世界の図解)

僕は、「メンヘル」とか「キチガイ」という表現が、嫌いです。
僕の周囲には、精神疾患や精神障害を抱えながらも生きている友人たちがいるからです。

差別表現として

例えばキチガイという言葉は、これら精神的な病気や障害を持つ人間を差別する表現として使われてきた歴史的経緯があります。そのためテレビやラジオでは放送禁止用語とされています。
だから、僕はそういう言葉を特別な理由がない限りは使わないし、また、差別表現として使われてきた経緯のある言葉が無配慮に使われている場面を見るたびに、残念な気持ちになります。

えっと、僕自身は、幸運なことにというか不幸なことにというか、精神疾患や精神障害を持っていません。これについては一般的な感覚と自分の感覚の差異を説明するのが面倒なのですが、ともかく、どんな人だってそれぞれの困難を抱えて人生をそれなりにやっていっているわけで、そういう、自分とは違う困難を抱えた他人を差別することは良くないと思っているのです。どちらの側からであれ。

健康なのも良いことだけれど、病気や障害があるからこそ見える景色というのもあるわけで、どちらかを過度に理想化したり蔑視したりせず、それぞれに適した生き方や社会での役割を見つけていくのが大事だと思う、っていう感じです。

キチガイという言葉が最高裁で争われた例

それで。
安易にメンヘルとかキチガイとかいう表現を使うのは良くないよね、と僕は思っているのですが、インターネット上ではあまりにもたくさん見かけるので、少し調べてみました。

すると、これについて最高裁判所の判例がありました。

「2ちゃんねる-ネット書き込み発信者情報の不開示(最判平成22年4月13日民集64巻3号758頁) | 名誉毀損の裁判例」 『フローラ法律事務所』
http://floralaw.net/site0000_3/meiyokison.html

簡単に言うと、2ちゃんねるで「A学園長はキチガイ」と書き込まれたA学園長が、「キチガイ」という書き込みをしたBの情報開示をプロバイダに求め、それをプロバイダ側が拒否。
そこで、A学園長(原告)がプロバイダ(被告)に対して、「書き込みした人の情報を開示すること」や「開示拒否されたことでの損害賠償」を求めた、という裁判です。

原審は…

最高裁まで行ったということは、途中までの判決もあった、ということですね。
なので、まず原判決。

対象となる人を特定することができる状況でその人を「気違い」であると指摘することは,社会生活上許される限度を超えてその相手方の権利(名誉感情)を侵害するものであり,このことは,特別の専門的知識がなくとも一般の社会常識に照らして容易に判断することができるものであるから,本件書き込みがこのような判断基準に照らして被上告人の権利を侵害するものであることは,本件スレッドの他の書き込みの内容等を検討するまでもなく本件書き込みそれ自体から明らかである。従って,上告人が被上告人からの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,重大な過失がある。

要するに、訴えたA学園長側の勝ち。

「キチガイ」という発言は、明らかに人格権を侵害する名誉棄損表現ですよ、と。
だから、「キチガイ」という名誉棄損表現を書き込んだ人間の情報を開示しなかったプロバイダには重過失がある、と。

そういうわけで原告であるA学園長からの開示請求が認められ、被告である開示しなかったプロバイダ側は、書き込みした人の情報開示と15万円の損害賠償を命じられたわけです。

最高裁の判決は…

で、先の判決に納得のいかないプロバイダ側は、上告。
そうすると最高裁では、こういう判決になります。

本件書き込みは,その文言からすると,本件スレッドにおける議論はまともなものであって,異常な行動をしているのはどのように判断しても被上告人であるとの意見ないし感想を,異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し,記述したものと解される。このような記述は,「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。そして,本件書き込み中,被上告人を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできない。そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人にとって,必ずしも容易なものではない。
 そうすると,上告人が,本件書き込みによって被上告人の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないとして,裁判外における被上告人からの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,上告人に重大な過失があったということはできない。

要するに、今度はプロバイダ側の上告を認め、「15万円の損害賠償」まではする必要がありません、となったわけです。
「キチガイ」という一言だけでは、人格権を明らかに侵害するとは判断しづらい、と。

これでA学園長とプロバイダの争いに終止符が打たれたわけです。

「キチガイ」と書き込みした人は…?

とはいえもちろん、A学園長からの情報開示の請求はすでに認められており、最高裁の判決でこの部分まで覆ったわけではありません。なので、「キチガイ」と書き込みをしたBさんの情報は、A学園長に開示されています。

そのあとA学園長とBさんでどういう話になったかは分かりませんが、この経緯を見ると、かなりBさんが不利なように見えるので、それなりの慰謝料を支払って和解したのだろうなというのがコウモリの個人的な予想です。
原審は、Bさんの情報を開示しなかったプロバイダに15万円の支払いを命じたくらいですから、「キチガイ」と書き込んだBさん本人はもっと高額の支払いをするのが当然と考えられるのだろうか、それとも、、、まあ、コウモリは法律の専門家ではないので、わかりません。

誰か、この件がどうなったのか知っている人がいれば、教えてください。

結論

最高裁で、「キチガイという一言だけでは名誉棄損か判断に迷うとこよねー」という判決が出ているので、もしも「あいつは〇〇だからキチガイ」のように具体的事実を摘示した表現が加わっていれば、、、お察し、という感じですね。(侮辱的表現が「気違い」という一語のみでその根拠も示されていない本件のような場合、それが社会生活上許される限度を超えた侮辱行為であるか否かは、書き込みの文言自体から判断することはできず、スレッドの他の書き込みの内容、書き込みがされた経緯等を考慮して判断すべきものと考えているのではないか、と言われている(同最判調査官解説))

「インターネットは自由なんだ!」と言いたがる人ほど、平気で他人を傷つける表現をするものです。でも、たとえ自由の名のもとであれ、他人の権利を侵害する行動まで正当化することはできません。

結論。
ネット上に、安易な気持ちで「キチガイ」などの言葉で他人を害することを書き込むのはやめましょう。

分かりやすく、標語ぽくしてみようかな。

『キチガイの、一言だけで、15万!? 名誉棄損は、やめておこうね。』

そういう話でした。(最高裁の判決では15万円の損害賠償請求は棄却されたわけですが、原審では認められていたり、また書き込みした張本人との争いではないことも踏まえ、「15万!?」という疑問的な表現にしています。)

執筆: この記事はコウモリさんのブログ『コウモリの世界の図解』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2015年02月26日時点のものです。

カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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