悲しいことにアメリカで日本のマンガは広がらない
今回は大原けいさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。
悲しいことにアメリカで日本のマンガは広がらない
今まで毎年、別々に行われていた『ニューヨーク・アニメ・フェスティバル』と『コミコン・インターナショナル』が今年から合同開催になった。
『ブック・エキスポ・アメリカ』のときもそうなのだが、いつもこういうコンベンションがあると、アポをとってマンガ関連の編集者や版権担当者と会うが、一般客が入れない平日に済ませたり、ランチついでにアポの相手にミッドタウンまで来てもらったりしていたので、毎年“行っている”といっても、コンベンションそのものを体験していたとは言いがたいのだった。それが今年からは大規模になるというので、んじゃ、どんな人たちがどのくらい来ているのかな、と思って最終日の昼間に出かけてみた。
もうね、圧倒されました。3日間ののべ入場者数は9万5000人だって。アメリカのオタク道、ハンパない。SFファンに、『スター・ウォーズ』、コミックヒーローにファンタジー、ゲーマーにトレッキー(『スタートレック』の熱狂的ファン)たち。これが日本だとアキバ系と腐女子、とまぁ、だいたい来場者のイメージがわくんだけど、アメリカでは文字通り老若男女が集まっている。親子連れに、コスプレのグループに、わけわかんないオッサンたちまで……。ビジネススーツ系の格好しているこっちの方が異質で「あ、こんな楽しいところに来てまで仕事してるんですね、お疲れ~」みたいな視線が痛い。
思い知らされたのは“日本のアニメ・マンガは、結局、アメリカではアンダーグラウンドなサブカルチャーとしてしか根付かなかった”ということ。マンガ関連のイベントや同人誌みたいなアーティストアレイ *1 は1階下のショボ目のフロアに押しやられてるんだもんなー。メインフロアで目立ってたスクウェア・エニックスのブースもゲームのプロモーションだったし。
*1:アーティストアレイ(Artists Alley)
絵描きさんが机やブースを並べて自由に使える、同人即売会会場のようなスペース。
そしてこれからも、アンダーグラウンドなサブカルチャーの地位から抜け出すことはないだろうな、と思わされるニュースもあった。2004年にアメリカの最大手ランダムハウスと、日本の最大手である講談社が事業提携したときに、そのプロジェクトの一環としてSF系のインプリント(出版レーベル)であるデル・レイから、 CLAMPの『XXXHolic』や赤松健の『魔法先生ネギま!?』など、4タイトルから始めて徐々に少女マンガを中心にアメリカでもマンガが定着しそうな勢いがあった。
大手出版社から出されて、大手書店に並ぶ、というメインストリームの一部を勝ち得たかのように思えた。当初からデル・レイの編集方針はハッキリしていて、“我々がよく知っているYA(ヤングアダルト、以下YA)の市場から始めて、これはと思うタイトルに絞り、でもやるからには徹底的にマーケティングをする。そしてYAの主力層であるプレティーン~ティーンエイジャーの女の子の反応を見ながら徐々にマンガの幅を広げていく”というものだった。
何もないところに、ポンッとマンガなるものを出してきて、それが一般家庭に受け入れられるようになるにはそれなりの時間がかかるし、宣伝もしていかなければならない、という決意があればこそ、だ。
でもまぁ、原作のマンガを送り出す講談社にしてみれば、もっともっとやってもらいたいわけですよ。「あの先生がウケるのなら、ぜひこの先生も」と、どんどんすすめてくるわけですな。
なにせ、そのころの講談社は、すでに堂々と「うちはマンガの黒字で会社を支えています」って認めるぐらい(昔は認めていなかった。恥ずかしい、って気持ちがあったのか)、雑誌も書籍も低迷していて、とにかくマンガを売りまくれ、というスタンスだったのだ。
でも、デル・レイにしてみれば、ムリをすればすぐに市場が飽和状態になって1タイトル当たりの売上げが下がってしまうのが目に見えている。まぁ、そんなせめぎ合いの中で色々苦労をしている人を大勢知っていたから(アメリカ側の編集者やセールスの人たちね)、今その人たちにかわって何が起こっていたかをこうしてバラしちゃっているわけです。
この際だから、たとえばどういうマンガが大コケしたのか書いてしまおう。良い例が『のだめカンタービレ』。日本では大ヒット、ドラマにコラボのクラシックCDに、とにかく「あれまぁ、若い人たちがクラシック聴き始めちゃったよ」ぐらいのインパクトがあったベストセラー。
だけど、アメリカじゃダメなんだよ、どう考えても。だって、のだめちゃんは日本でこそ“天然”でカワイイわけだけど、あのキャラの面白いところがアメリカでは全然通用しない。“のだめ語”も訳すの難しい。ユーモアも半分ぐらいしか伝わらないんじゃないだろか。のだめが“タダのばか”にしか映らない。大学生にもなってどこまで甘っちょろいのか、女性をバカにしているだろう、このマンガは、ぐらいのカルチャーギャップがそこにはある。そしてそれはどう「のだめちゃんはカワイイんです」と宣伝してみてもムダなわけね。
だけど、出した。どんだけゴリ押ししたのか知らないけど。結果は無残なもので、数千冊しか売れてないんじゃない? しかも買ってるのは日本人じゃないの? あぁ、しかも何巻まで続くんだよ、これ、みたいな。
ってことで、タイトルは極力しぼりたいデル・レイに業を煮やした講談社は講談社USAなるものを作って自分たちで版権を売るのかと思ったら、マンガの英語版を出すことにした。って何やるのかと思ってたら『AKIRA』に『GHOST IN THE SHELL(攻殻機動隊)』って昔取った杵柄(きねづか)リバイバル。お次はデル・レイから版権を引き上げて自分たちで出版。
まぁ、小学館と集英社がビズメディアでやっていることを踏襲しているんだろうけど、これで日本の3大出版社は自分たちで英語版を作って売ろうってわけだ。悪いけど、赤字事業になりますな。アメリカでもとってもマイナーな存在として頑張ってくだされ。やっぱりこれは、アシェットのエン・プレス *2 と組んだスクウェア・エニックスが一番賢いな。
*2:「エン・プレス」『Wikipedia』より
エン・プレス(Yen Press)は、ニューヨークに本社を置く出版社。フランスのアシェット・リーヴルの米国現地法人であるアシェット・ブック・グループの系列出版社として設立。日本の漫画やライトノベルズ、韓国の漫画(マンファ)を英語に翻訳し、米国・カナダで発売。
既にアメリカでは『Manga』というのは日本発のコンテンツに限らず、グラフィックノベルの新しい形として浸透しつつある。『アフロサムライ』とか(あ、これはアニメか)、『トワイライト』シリーズを韓国系のアーティストがマンガ化したものとか、日本に頼らなくても作品は作れる。だったら翻訳する手間暇もかからない。
というわけで、日本産のマンガはますます苦戦を強いられ、アメリカではマイナーなものになっていく。イグアナさんたちよ、海外に出て行っても進化できないならガラパゴス島に帰りますか?
執筆: この記事は大原けいさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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