SNS疲れに効いた! 『リー・ミンウェイとその関係』展でさりげない“つながり”の心地良さを実感
『Facebook』や『Twitter』といったSNSの隆盛とともに、“人とのつながり”“かかわり方”について見つめなおす機会も多い昨今。人との関係性や交流をテーマに活動を続ける台湾出身・NY在住のアーティスト、リー・ミンウェイ(李明維)のプロジェクトを一挙公開する『リー・ミンウェイとその関係展』が現在六本木ヒルズの森美術館で開催中だ。
11月16日(日)には、同展覧会のハイライトのひとつともいえる1日限りの『“砂のゲルニカ”パフォーマンス』が行われた。『砂のゲルニカ』とは、ピカソの傑作『ゲルニカ』を、リー・ミンウェイが美術館内に再現した15m×7.45mの巨大な砂絵作品。展覧会開催前に一部の未完成部分を残して作成され、9月末の同展スタート以来コツコツと仕上げ作業が行われてきた。16日の『“砂のゲルニカ”パフォーマンス』では800時間をかけて制作された砂絵の上を観客たちが歩き、最後にはアーティスト自ら破壊するという、インタラクティブ・インスタレーションとなった。
ぜひ砂絵の上を歩きたいという観客たちが列をなし、多くのギャラリーが見守るなか、最後の未完成部分を完成させるべく制作作業にとりかかるリー・ミンウェイ。同時に観客が一人ずつ砂の上を裸足で歩いていくのだが、その“破壊と創造”が同時に進行するという緊張感あふれる様子は、規模はまったく違うが、誰もが幼少期に積木や砂場遊びを思い出させる。完成品を壊され泣いても再生を厭(いと)わない“たくましさ”、ひいてはスクラップ&ビルドの国といわれる日本の“たくましさ”に通じるような、非永続が前提の世界で人々が発揮する力強さを感じさせ、感動的だった。
美しく精緻な砂絵の上を歩行し、また破壊されていくさまをまじまじと眺めることなど、まず日常では体験できないことだが、身近な体験感覚で例えるならば、誰も踏みしめていないまっさらな雪の上を歩いていくときに感じるような“もったいなさ”と“恍惚”に近いものを感じた。スタートから5時間半後、同パフォーマンスはリーとスタッフたちが竹箒で砂を中央に掃き集めてフィニッシュ。喪失と再生が繰り返される世界の非永続性を表現した。
上記の『砂のゲルニカ』は1日限りのパフォーマンスだが、展覧会は2015年1月4日まで開催されている。観客は展示を「見る」だけでなく、「話す・贈る・書く」といった行為を通して、プロジェクトに参加できる。
会場でもらった花を帰り道に知らない人にプレゼントしようという趣旨の展示が『ひろがる花園』。「これ持ってカワイイ女の子に声かけて、実は美術展帰りってイメージよくない!?」というのもアリ。気負いなく街角で目に留まった方に声をかけることで、「緊張したけど、知らない誰かが喜ぶ顔が見られてうれしかった」という、ささやかな幸福感に対する反響が少なくないようだ。
もう一つ気軽に参加できるのが『プロジェクト・手紙をつづる』という、場内に設置された書斎のようなブース。ここで手紙を書いたり、誰かが書いた手紙を読むことができるというもの。封をしていない手紙は誰でも手に取って読むことができ、封をして送り先の住所が記入されたものであれば、美術館のスタッフが代わりに投稿してくれるという。なかなか今まで伝えられなかった感謝、許し、謝罪などの手紙を書いてほしいという趣旨とのこと。実際に参加してみたが、あらたまった環境でそうした内容の文章を綴ることは、神社の絵馬にも通じるような感慨があった。個人的には「ふなっしーへ」という宛先の手紙があったことにほっこり。
場内に設置された寝室でアーティストと語らい一夜を過ごそうというプロジェクト『プロジェクト・ともに眠る』、場内に設置されたお茶の間でアーティスト(もしくは美術館スタッフ)とともに当選者だけが参加できる2人の食事会を楽しもうという『プロジェクト・ともに食す』など、美術館内・展示会場内での就寝・食事という貴重な体験ができるプロジェクトも12月上旬まで実施予定。11月上旬時点では、館内展示脇にて参加応募受付中なので、ぜひチェックしてみてほしい。
加えて、いわゆる無音の楽曲『4分33秒』で知られる音楽家ジョン・ケージ、禅僧の白隠、アートとしての“ハプニング”を提唱したアラン・カプローなど、世界各地の11人の思想家、アーティストによる“関係性”にまつわる作品・思想なども紹介されており、この一角も観ごたえ十分だった。
展示全体をとおして、見知らぬ誰かの思い出の品や体験と、参加者自身の思い出や物語と重なり合うことで、歴史や社会、文化とのつながりを再発見・再考させてくれるような仕掛けづくりが満載の『リー・ミンウェイとその関係展』。アーティストや見知らぬ誰かとの交流を直接促すもの、心の中での交流を促すもの、どちらもアーティストが仕掛ける“さりげない”交流の仕組みが心地よい。「TLチェックしなきゃ」「すぐ返事しなきゃ」と、ときに圧力的な場面もあるSNS式の“つながり”とは一味違う、社会や歴史の自身とのゆるやかで、でも分かちがたい“つながり”と“関係性”を、鑑賞者それぞれが実感できるのではないだろうか。
<美術展概要>
リー・ミンウェイとその関係展:
参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
http://www.mori.art.museum/contents/lee_mingwei/
ウェブサイト: https://getnews.jp/
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