我妻三輪子という役者に魅せられた『こっぱみじん』(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)【倉沢いちはの映画レビュー】

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連載に少し間が空いてしまいました。AV女優の菅野いちは改め倉沢いちはです。今回レビューするのは「第23回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」上映作品『こっぱみじん』です。

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全員が片思い。確かにまさに“こっぱみじん”。でも、包む空気はあたたかい。登場人物のなかにゲイがいる。でも、社会派映画じゃない。田舎町ののどかな風景のなか繰り広げられる、若者たちのリアルな日常を切り取ったストーリー。

母子家庭に育ち、手に職をつけようとなんとなく美容師になった楓(我妻三輪子)。級友たちはそれぞれの目標に向かって毎日先へ先へと進んでいくなか、疎外感に苛まれ自分の人生に迷い始める。なんとなく付き合った彼氏となんとなく関係が終わった頃、大好きだった幼馴染の拓也(中村無何有)が地元に帰ってきたことを知り心躍らせる。楓の兄・隆太(小林竜樹)は長年交際している有希(今村美乃)の手を借りながら、街の小さなレストランを経営している。隆太から信頼と愛情を受ける一方で、有希は別の男との間の子を妊娠し、隆太にはお腹の子が別の男の子であることを隠す。幼い頃から密かに隆太に思いを寄せ続けていた拓也は、その事実を知り有希に対し人目もはばからず怒り狂う。

我妻三輪子という役者

私がこの映画にそそられたきっかけは、紛れもなく主演の我妻三輪子だ。1991年2月生まれの彼女は私と同い年で、中学時代に愛読していたティーン誌でモデルとして活躍していた。自身の公式ブログでの彼女は不器用で媚びずつかみどころがなく、しょっちゅう落ち込む。その飾らなさと人間臭さにつくづく惚れ込んでいた。私が進学に伴い上京してからは、ここぞとばかりに彼女の出演する舞台や映画の舞台挨拶を片っ端から観に行った。2010年のジェットラグプロデュースの舞台『幸せを踏みにじる幸せ』での我妻さんの長台詞に衝撃を受けて以来、小劇場の舞台の虜になり、今では舞台に出演する側にまでなった。私にとってとてつもなく刺激を受けた女優だ。今作でも彼女は主人公・楓として独特の光を放っていた。

「何もかも望み通り手に入れられるわけないじゃない?」

浮気相手との間の妊娠を隆太に知られ、隆太のもとを去ろうとする有希が、炊事をしながら何気なくこう呟く。同じ空間にいる楓に話しかけているのか、自分に言い聞かせているのか。この映画のテーマを代弁しているとも取れる。決して暗く悲しんでいるわけではなく、体に宿った命を守ろうとする強さと、その先の希望を滲ませている。

拓也の働く病院には、とある入院患者のもとに足しげく通うひとりの愛人がいた。それを他の看護師は噂して笑うが、そんな同僚を拓也は批判する。そしてふとしたことからその愛人から「家庭を壊したい訳ではないけれど、単純にあの人を好きでいるのは悪いことなのか」と相談され、自らの思いと重ねる。

拓也の隆太への片想いを知り、必死に励ます楓を、拓也は「俺がゲイだから励ますの?」と一蹴。そして、ついに抑えきれない思いをぶつけるが、「お前、大事な友達だ」と言われてしまう。この言葉に込められた思いは、セクシャリティなど関係なく、多くの人が思わず共感してしまうだろう。映画の中の恋愛関係よりも、登場人物それぞれの恋愛感情にどんどん心を持っていかれてしまう。

「幸せ」とは?

「私もたくちゃんもさ、どう頑張っても上手くいきそうにないじゃん。でもなんかさ、でもなんか幸せなの。」楓の台詞である。映画を見るとき、叶わぬ恋となると「交際スタート」「結婚」などがハッピーエンドで、「離別」「死別」などがバッドエンドというような型に囚われがちだ。しかしこの映画は違う。この楓の台詞に尽きるのだ。だれの片想いも叶わない。だけれど、ハッピーエンドかバッドエンドかと言われれば、ハッピーエンドではないだろうか。こんな関係性が、現実にもきっとどこかに存在しているのだろう。そう思いを馳せてしまった。

著者プロフィール

倉沢いちは(くらさわ・いちは)
AV女優。ピンク映画、舞台でも活躍中。
2014年8月7日(木)から8月11日(月)まで舞台「OFF VIVID COLOR 夢art」に出演。

倉沢いちは公式ブログ 交差点
http://blog.livedoor.jp/kurasawa_ichiha/

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