ジョージ秋山原作『捨てがたき人々』は監督・脚本・俳優陣全てが全力で挑んだ問題作[映画レビュー]
ジョージ秋山一番の問題作は『銭ゲバ』でも『アシュラ』でも無く『捨てがたき人々』だよ――。昔、そう言われた事があります。筆者がまだ20代前半だった、うら若き時代。「ジョージ秋山とか読んでる私カッコいい」とか若干思ってた、あの時代。ずっと年上の知り合いに言われたこの言葉はすごく印象的で、その日のうちに漫画喫茶に行って全巻読破したのを今でも覚えています。
『捨てがたき人々』の何が衝撃的かって、人肉を食べ我が子を食べようとする『アシュラ』とか、金の為ならなんでもするズラな『銭ゲバ』の様なキャッチーな設定が無く、ただ淡々と酒と女の事しか考えていないダメ男の自堕落な日常と視姦描写が描かれているだけだから。うんざりする様な、生々しい人間の嫌な部分が描かれていて、読んだ後はとにかくグッタリしました。でも一気読みしてしまう凄まじい魅力的な作品でもあって。
そんな『捨てがたき人々』が大森南朋さん主演で映画化すると聞いて、昨年の「東京国際映画祭」で観たのですが、これがすごく味わい深い作品で。自身も俳優として活躍する榊英雄監督がメガホンをとり、脚本はジョージ秋山の息子でもある秋山命さんが担当。原作のコアとエッセンスを大切にしながら、ドストエフスキーの小説「罪と罰」など独自のモチーフを加えて、漫画とはまた異なるストーリー展開を見せています。
物語の内容は、金も仕事もなく、絶望と鬱屈を抱え、風に吹かれるゴミクズのように日々をやり過ごす男・狸穴勇介が、人生最後の場所とばかりに故郷へふらりと戻った彼は、弁当屋で働く顏にアザのある女・岡辺京子と出会った所から始まります。安いのり弁と、衝動にまかせたセックスから始まる、どうしようもないふたりの縁と絆。人間の根源を衝き動かす金欲、食欲、性欲。必死に求めても逃げていく愛や幸福。生きるって、いったい何なのか?
この勇介がとにかくクズなのですが「大森南朋じゃクズじゃないじゃん」なんて思った人にこそ、絶対に観て欲しい大森さんのクズ演技っぷり。最初は勇介に乱暴されそうになり、全力で拒否していたのに、そのうちお金や食事の面倒をみてしまう究極の“だめんずうぉ〜か〜”京子を演じた三輪ひとみさんの、薄幸演技、見事な脱ぎっぷりには女優魂を感じます。熟女のエロスと経験豊かな人間の滋味を醸し出す美保純さんも熱演。寂れた街のスナックのママが美保純、ってだけでこの映画信頼出来るなって思いませんか?
監督の出身地でもある、長崎の五島列島を舞台に描かれる、そこで生きていくしかない人々の物語。日本を代表する映画人たちがインディペンデント体制で放った問題作にして、真摯な力作はぜひ劇場で観ていただきたい一作です。
『捨てがたき人々』
6月7日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー
http://sutegatakihitobito.com/
(C)2012「捨てがたき人々」製作委員会
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