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落書きから本の持ち主を想像!? 不忍ブックストリートで『痕跡本』展示&ツアーを開催

『痕跡本』無数の針の跡が…

落書き、色塗り、メモ書き……前の持ち主の“痕跡(こんせき)”が残ったままになった古本に出会ったことはありませんか? このような本を『痕跡本』と名づけ、そこに残されたさまざまな読書の記憶を読み解くブックイベントが、4月24日から5月9日まで東京『不忍ブックストリート 一箱古本市』で開催されます。この風変わりなイベントについて、『痕跡本』の第一人者にして案内人『古書五っ葉文庫』の古沢和宏さんにお話をうかがいました。

――古本への書き込みに興味を感じはじめたきっかけは何だったのでしょう?
某芸術大学に通っていた頃から、何らかの意図に基づいて人が作りだすものよりも、偶然に生まれた現象に興味を持っていました。たとえば、道に落ちているモノ、ぱっと見ただけでは意味がわからない色あせた看板など。無作為に起きた現象なのになぜか想像力をかきたてるモノにひかれてしまって。

その後、古本屋を始めて、落書きのある本の存在にも同じような興味を感じるようになりました。僕は、モノとしての本が好きですので、本には“読む”以外の楽しみ方があってもいいと思ったんですね。

――最初に『痕跡本』として発見したのは、どんな本だったのですか?
日野日出志の『まだらのたまご』というホラー漫画。表紙から、針でぐちゃぐちゃに刺されていたんです。いちばん深いところでは、針は20ページ目にまで到達していて力の入り方も普通じゃない。不可解で不気味な作品に対する思いが、無数の針に込められているようでした。言葉で説明されるよりずっと生々しく、前の持ち主の読書体験が伝わってきて圧倒されましたね。

古本に書き込まれた言葉は、そもそも持ち主の覚書として書かれているため、他の人から見れば断片的で不親切、なかには意味不明なものもたくさんあります。でも、そのほうが、『痕跡本』としては深みがあって魅力的なんですよ。わからない部分を想像力で埋める楽しさもありますし、読むたびに発見がありますからね。

『痕跡本』途中で色塗りに飽きた形跡が…

――『痕跡本』はコレクションとして展示するだけで販売はしない?
いえ、うちのお店では商品として展示しています。『痕跡本』の適正価格はいまだ模索中ですが、たとえば、先ほどの『まだらのたまご』は8万円。世界に一冊しかない、偶然が生んだ美術品として価格を設定しています。

古本の価格には、人気や希少価値が反映されます。テディベアアンティークの世界では、「難破船から救出された」など、個別のテディベアが経験した物語に価値がつくそうですが、同じように本そのものが持つストーリーもまた、新たな古本の価値観として提示できればと考えています。

――『痕跡本』の持つストーリーが面白いかどうかが価格に反映される?
そうですね。面白さの値が値段になるのではないかと。ゆくゆくは、みんなで見つけた痕跡本を紹介しあいながら、「キズの面白さ」や「書き込みの妙」について、うなりながら値段をつける『痕跡本オークション』なんてどうだろうかと夢想しています。

――ところで、『痕跡本』を見つけるコツはありますか?
たとえば、ヘンなふくらみのある本は要注意です。本を上から見るとメモがはみ出していたり、手紙や押し花が挟まっていて少し隙間が開いていたりします。ただ、こういう方法で見つけた『痕跡本』は、残念ながら意外性が少なく、想像の範囲を超えないものが多いんです。

たとえば、ただアンダーラインが引かれているだけの本だと「ああ、この項目に興味があるんだ」という以外には想像がふくらみませんが、最初のページにはぎっしりアンダーラインが引いてあるのに、10ページ目には早くも書き込みがなくなってしまう……などのほうが、三日坊主読みが想像されてとたんに物語性が出てきますよ。

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記者:

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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