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STAP騒動、私見(サイエンスあれこれ)

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今回は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。
※この記事は2014年04月06日に書かれたものです。

STAP騒動、私見(サイエンスあれこれ)

一連のSTAP騒動も、渦中の小保方氏が弁護士を雇い、徹底抗戦に出たことで、新たな局面を迎えることとなった。小保方バッシングが始まった当初、またあの日本社会特有の集団ヒステリックな正義感に、彼女が翻弄されることになるのかと気の毒にすら思ったのが今となっては懐かしい。入国禁止の戦地に赴き、果敢なレポートを成功させれば英雄扱い、現地のゲリラに拉致され身代金を要求されれば一転大馬鹿者と罵る、そんな日本人特有の気質の、ある意味愚直な代弁者として罵詈雑言を吐き出し続けるネット住民たちと、その言葉を巧みにつまみ食い、都合のいい世論を作り出そうとする大手マスコミの図式は、今回も健在だ。騒動が一段落した今、改めて考えてみたい。何があったのか。何が本当なのか。今後どうすればいいのか。一人悪者にされた小保方氏、なんとかうまく立ち回りたい共著者たち、前代未聞の対応を迫られている理研、慣れない科学スキャンダルの報道に右往左往の大手メディア、大活躍だが予想以上の反響に戸惑う市井の出版後査読ボランティアたち。それぞれの事情や事実関係をまとめてみたい。自分の頭の中を整理するためにも。

小保方氏について

■ 強気の発言を支える拠り所とは

理研の調査委員会から研究不正行為を行ったと判断された小保方氏。ここでまず押さえておかなければならないのが、研究不正行為の定義だ。それは理研の内規に書かれている。捏造(架空の結果のでっちあげ)、改ざん(実在する結果の粉飾)、盗用(他人の結果の無断使用)を「悪意」をもって行った場合、研究不正行為となる。ここで問題となるのが「悪意」の存在だ。これが一体何を意味するのか多くの人が悩んでいる。一般的には「何か悪いことをしてやろうと意図して」みたいな意味で使うので、悪意のない捏造って何?善意の捏造なんてあるの?と悩んでしまうわけだ。

そこで参考になったのがこちらのサイト*1。何と「悪意をもって」というのは法律用語で、単に「知りながら」という意味だったのだ。となると「悪意のない捏造」とは、さしづめ、ウソのサンプルを本物とでっちあげて論文に示すという捏造に対し、当人がウソのサンプルと存在しない本物のサンプルの間に大差がないと勘違いしていた(大差があると知らなかった)場合と理解できる。悪意がなければ、すなわち知っていてやったのでなければ、形式的には捏造や改ざんでも単純なミスと判断されるのだ。少なくとも上記内規に従って調査された今回の一件では。

*1:「理系は「悪意」の意味が分かっていない!(STAP論争)」 2014年04月02日 『BLOGOS』
http://blogos.com/article/83594/

では、どうしてこんなまどろこしい悪意の存在が研究不正行為の認定に必要なのか。それは未熟な若い研究者を守るための教育的配慮からだろう。修士課程入りたてで、研究者としての道を歩み始めたばかりの彼らには、それこそ悪いことだと知らずにやっちゃうことが数多くある。コピペ然り。画像操作然り。それをいきなり研究不正行為として認定し、追放するのは酷過ぎるというわけだ。

しかし、この内規には問題もある。ここに一筋の光明を見出したのが、小保方氏(とその弁護士?)だ。(捏造も改ざんも)私は「知らずに」やりました。単純なミスです。研究不正行為にはあたりません。という彼女の強気の発言の拠り所は、まさにこの理研の内規にあったわけだ。

それに対し、調査委員会は、何をおっしゃいますか小保方さん。貴方はれっきとしたユニットリーダですよ。学生ではないんです。論文の重要な鍵となる画像を、全く別条件の実験結果の画像と「知らずに」取り違えるわけはないでしょう。として、彼女の捏造を研究不正行為として認定したのだ。

もうおわかりかと思うがこれは結局一種の水掛け論になってしまう。知っていたかどうかという悪意を客観的に判断することは難しいからだ。まあ裁判になって、誰かの証言でも出てくれば別だろうが。小保方さんは知ってましたよ。みたいな。

■ 最後の実験、研究者としての生き残りをかけて

小保方氏の責任の本質は、調査委員会が対象とした高々6件の疑義のうち、2件が研究不正行為に認定されたというような枝葉末節にあるのではない。世の中の人全員とは言わないが多くの人が知りたいのは、小保方氏が緑色に光るのを確認したとされる細胞が、果たして多能性のあるSTAP細胞だったのかという点だろう。

この件に関して、当初は誰もが、当時の実験サンプルは残っているはずだから、それを再検査すればわかるだろと思っていたと思う。しかし、4月1日の最終報告を聞いて、皆唖然とした。3年間の実験ノートが2冊しかなかったのだ。調査委員会の石井委員長が言うように、実験ノートの記載に基づいて、客観的に何のサンプルか特定できなければ、そのサンプルに証拠能力はない。一方、データのほとんどを保存していたという、小保方氏の私物のPCを精査すれば、いくつかのサンプルは同定できるかもしれない。何も記録を残さないで実験を進めることは、現実的に不可能だからだ。

では小保方氏の実験ノートの不備をもって、STAPが本当にできていたかの真実を探る道は永遠に閉ざされたのだろうか。そうではないことを示す前に、ひとつ確認すべきことがある。理研は「STAP現象の検証」チームを作って、STAP現象があったのかなかったのかをゼロから検証すると公表した。しかし、これは小保方氏が論文中で作ったとされる細胞が本当にSTAP細胞だったかどうかという「STAP疑惑の解明」にはつながらない。なぜなら、数多くの研究室がSTAP現象の再現に失敗している現状では、理研検証チームによって仮に再現できたSTAP細胞作製の方法が、小保方氏が論文の中で用いた方法と完全に一致する可能性は極めて低いと考えられるからだ。それは、きっと小保方氏も気づいていない、したがってプロトコールにも明文化されていない何かしら手順上の秘訣があるからなのかもしれないが、それを放っておく手はない。それが、唯一残されたSTAP疑惑解明の鍵となる。

では、どうすればいいのか。簡単だ。現在でもただ一人、STAP細胞を作り出せる神の手をもつ小保方氏に、もう一度STAP細胞を作ってもらえばいいのだ。彼女の慣れ親しんだラボで、慣れ親しんだ器具を使って、慣れ親しんだ試薬を使って。それじゃあまた捏造されるって?それでもいい。彼女が緑に光ったと確認できた細胞をそのまま理研検証チームなり第3者機関に渡すだけだ。あとは、その細胞が多能性マーカーを発現しているのか、ES細胞の混入じゃないのか、(リンパ球由来の場合)TCR再構成のあとがあるのかないのか、STAP幹細胞にまで変化させられるのか否か、等々。全部調べられるからだ。

もしここで、小保方氏が緑に光る細胞を作り出せなければ、そしてもし作り出せても、それがES細胞の混入や疑似陽性を勘違いした結果だったら、STAP細胞はなかったものと判断されるだろう。その結果を受けて、もう一度改めて小保方氏に研究不正行為があったのか、問われるべきだ。本質的な間違いはどこにあったのか。仮にES細胞の意図しない混入だった場合、それに気づかず(悪意なく)、その後の実験を進められるものなのか。もしそうなら罪は軽そうだが、もしどこかでうまくいかなくなり、それを取り繕うように捏造、改ざんに走ったとなれば、罪は重い。

もし小保方氏が自らの潔白を信じ、STAP細胞の存在を証明したいと思うのなら、これからの数ヶ月、外部からの要請に応じ、ただひたすら、STAP細胞とおぼしき緑に光る細胞を作製、提供し続けるほかはあるまい。これが研究者としての生き残りをかけて、彼女ができる最後の実験なのだから。

最後に、この方法のいいところは、「STAP現象の検証」と「STAP疑惑の解明」を同時にできるという点だ。理研としては、何の得にもならない「STAP疑惑の解明」は後回しにしてでも「STAP現象の検証」を通して、STAP現象が確かにあったと証明しようとするだろう。しかし、仮に証明されても、それは先述したように論文の疑惑がなかったことの証明にはならないばかりか、万引きした後に金は払ったんだから文句ないだろと開き直ったとも捉えられかねない。

さらに理研の言う「STAP現象の検証」は時間がかかり過ぎる。小保方氏の協力があれば、数週間でできる緑に光る細胞すら、小保方氏なしで成功したのかどうか未だに公表されていない。さらに、今となってはそんなことどうでもいい、リンパ球以外の細胞からのSTAP細胞の誘導などということに時間を割くというのは、時間稼ぎと思われても仕方ないのではないか。新しい知見も加えて論文の再投稿を目論んでいるというのなら別だが、転んでもただでは起きようとしないこの姿勢を、国民がどう評価するかだ。まあ、本来もらえない筈の研究費を使うことになるのだから、論文の1報にでもなるなら、血税を無駄にはしなかったとも言えるわけだが。

執筆: この記事は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月11日時点のものです。

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