くっつく脚でなぜ歩けるのか

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くっつく脚でなぜ歩けるのか

今回は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。
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くっつく脚でなぜ歩けるのか

垂直な壁や天井を、まるでひと続きの平面のごとく縦横無尽に歩き回る昆虫たち。彼らがいとも簡単にやってのけ るこの動きは、よくよく考えると実に不思議なのです。靴底に接着剤をつけた靴で歩くことを想像するとわかるように、「くっつく」ことと「歩く」ことは、一般的には両立しないからです。

くっつく脚でなぜ歩けるのか

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昨年の12月にPLoS ONE誌に掲載された、英・ケンブリッジ大学の動物学者Walter Federle氏率いる研究チームの論文(出典1、購読無料)によれば、その秘密は昆虫の脚の構造にあるようです。多くの昆虫は、脚のつま先側とかかと側に別々の足の裏をもっていて(上写真、ナナフシの脚)、その2つの足の裏を上手に操ることで、「くっつき」ながら「歩く」ことを可能にしているそうです。

つま先側の足の裏(上写真AのAR)は、2つの鉤爪(上写真AのCL)の間にあり、「くっつく」ことに特化しています。表面の粗い壁には鉤爪を使い、それが引っかからないような滑らかな壁に対しては、その足の裏を使ってくっつくのだそうです。このつま先側の足の裏の特徴は、引っ張る力が強いほど、吸着力が増すことにあり、自分の体重でこの足の裏を引っ張るだけで天井にぶら下がることができるようです。

一方、かかと側の足の裏(上写真C)には、吸着力はなく、代わりに押さえる力が強いほど、壁との摩擦力が強くなるという特徴をもち、これによって「歩く」ことが可能になるようです。つまり、普通に地上を歩くときは、かかと側の足の裏だけを使って普通に歩き、天井にぶら下がっているときは、1歩踏み出した脚のかかと側の足の裏を天井に押し付けると同時に、つま先側の足の裏を軽く引っ張ることで、落ちずに歩くことが可能になるというわけです・・・ホントかなぁ(汗)

では、このかかと側の足の裏にみられる、押さえるほど強くなる摩擦力は、どのようなメカニズムによって成立しているのでしょうか?その答えは、Federle氏らのグループが、2月19日付けで、Journal of The Royal Society Interfaceに発表した論文にありました(出典2、購読無料)。かかと側の足の裏の表面の拡大図(上写真D、E、F)を見てみると、微細な毛のような構造があります。これは、ヤモリや多くの昆虫にみられる吸着のための微細毛とよく似ていますが、次のような3つの特徴によって、吸着力は与えずに、押す力に比例した摩擦力だけを与えることができるようになっているそうです。

1. 毛先が丸い(下写真の上)。吸着用の微細毛(下写真の左下、葉虫のそれ)はその先端が平らになっており、それが強力な吸着力を生み出していることが知られています(出典3、購読無料)。
2. 長さが不揃い。これによって、押される力が強くなるほど、多くの毛が壁に接触することになり、摩擦力が増します。
3. 毛先が折れ曲がる。これによって、さらに大きな力で押されると、毛先だけでなく、毛全体が壁に接触することになり、摩擦力がさらに増します。

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以上をまとめたものが、下の図になります。上が力を加えていないとき、下が加えたときです。

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ナナフシの場合、吸着用のつま先側の足の裏に、葉虫のような吸着用の微細毛があるかのどうかは不明であり、どのようなメカニズムでつま先側の足の裏で吸着を実現しているのかは今後の課題のようです。

出典:

1. Labonte D, Federle W (2013) Functionally Different Pads on the Same Foot Allow Control of Attachment: Stick Insects Have Load-Sensitive “Heel” Pads for Friction and Shear-Sensitive “Toe” Pads for Adhesion. PLoS ONE 8(12): e81943. doi:10.1371/journal.pone.0081943

「Functionally Different Pads on the Same Foot Allow Control of Attachment: Stick Insects Have Load-Sensitive “Heel” Pads for Friction and Shear-Sensitive “Toe” Pads for Adhesion」 2013年12月11日 『PLOS ONE』
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0081943

2. D. Labonte, J. A. Williams, W. Federle. Surface contact and design of fibrillar ‘friction pads’ in stick insects (Carausius morosus): mechanisms for large friction coefficients and negligible adhesion. Journal of The Royal Society Interface, 2014; 11 (94): 20140034 DOI: 10.1098/%u200Brsif.2014.0034

3. Lars Heepe, Alexander E. Kovalev, Alexander E. Filippov, Stanislav N. Gorb. Adhesion Failure at 180 000 Frames per Second: Direct Observation of the Detachment Process of a Mushroom-Shaped Adhesive. Physical Review Letters, 2013; 111 (10) DOI: 10.1103/PhysRevLett.111.104301

「Adhesion Failure at 180 000 Frames per Second: Direct Observation of the Detachment Process of a Mushroom-Shaped Adhesive」 2013年9月5日 『Physical Review Letters』
http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.111.104301

後記:

●世紀の大発見だったSTAP細胞の論文が色々と叩かれているようですね。iPS細胞の論文は、複数の研究機関で十分再現性を確かめてから投稿したという話を聞きました。STAP細胞も、もう少し慎重になるべきだったのかもしれません。ただそのあたりは、筆頭研究員の一存では決められない場合もあり、本人の意に反して汚くても早い結果を要求されることがなくもないのが悲しいところです。●というわけで、今となっては誰でも知っているようなことしか書いてないのですが、こちら*1でSTAP細胞の簡単な解説をしています。よろしかったら、ご覧ください。

*1:「STAP細胞、何がすごい? iPS細胞との違いは?」 2014年02月18日 『あなたの健康百科』
http://kenko100.jp/articles/140218002827/

執筆:この記事は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年03月05日時点のものです。

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