脳の中のキャズム

脳の中のキャズム

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

脳の中のキャズム

ひところ「キャズムを超えろ」とか念仏のように言われていた。何かが社会で爆発的にヒットする臨界点みたいなもののようだ。最初は少数の特定の人たちが注目している。それが徐々に範囲を広げていく。この辺りまでは増加が直線的なのだが、あるところ境に増加傾向が級数的に高まる。そして猫も杓子も大騒ぎする一大ブームとなる。その意味では「キャズム」自体がブームだったともいえる(笑)。

これは社会現象を説明したものだが、人間の脳内でも同じことが起きているのかもしれない。最初は脳細胞のほんの一部が反応しているにすぎない。だんだん影響を受ける範囲が広がっていき、ある点を境に爆発的に増加していく。そうなるともう寝ても覚めてもそのことしか考えられなくなる。

人間が何かに熱中している時、それを「面白い」と表現する。でも「面白い」というのはその状況に付けられた言葉であって、なにも説明していない。たとえばゲームが面白いとはどういうことだろう?どんどん新たなストーリーが明らかになってワクワクするとか、レベル上げが楽しいとか、ラスボスを倒した時の達成感とか…。でも、これらはみんな後付の理由な気がする。

なんで自分がそう行動したのか、理由がうまく説明できないから、あれこれそれっぽいものを考えだす。スキーや登山だって「なにが面白いの?」と問われても、うまく説明できないだろう。

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脳の中の一角が何かに反応している。その反応はフィードバックがかかり次第に激しくなる。すると時折、それまで反応していなかった別な一角の脳細胞が反応しだす。その反応はすぐに収まってしまうが、しばらくたつと別な一角でも反応が起きる。

そういうことが起きる頻度が徐々に増えていき、時には脳全体を巻き込むような反応も起きる。しかもその頻度も増えていきもはや止まらない。自分でも理由はわからない。とにかくそのことで頭がいっぱいで、それ以外考えられなくなる。

ただブームはいずれ醒める。今度は逆の順序で次第に反応の頻度が下がっていく。最終的には最初の一角の脳細胞の範囲に縮小する。しかしブームは脳全体にさまざまな影響を残している。それまでとは微妙に違う状態になっている。

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1995年にはエヴァンゲリオンブームがあった。エヴァに関するたくさんの本が出版され、その解釈や結末について多くの人が自分の考えを語ったものだ。ブームになると単に「面白いアニメ」という範囲を越えて、心理学や社会学の側面から分析する人も現れる。直接結びついていなかったジャンルを、ブームが結びつけるのだ。その結びつきの一部はブームが去っても残る。言ってみれば社会の中に新たな「回路」ができたことになる。

脳の中でも同じことが起きているのだろう。それまで個別のこととして位置づけられていたものが、何かをきっかけに結び付けられる。それがさらに別な部分に影響を与え、その連鎖反応によって、新たな信号伝達の結びつきが爆発的に増えていく。

ただ増えるだけだと飽和してしまうから、いらない回路を破棄する仕組みも脳は持っている。徐々に間引きが行われ、脳の中も沈静化し平常状態に戻っていく。しかしその回路の形は以前とは別な形をしている。

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社会においても脳内においても、ブームのピークは、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、大変な混乱状態だ。なんとか整理しようとするが、その試み自体がさらに混乱に拍車をかける。コントロール不可能なポジティブフィードバック。それまでの秩序が失われ、そして混乱の中で次第に淘汰が行われ、生き残ったものによって新たな秩序が構築し直される。

たぶんこれは最初の局所的なブームの段階でも起きているのだろう。ブームだとは気づかないだけで。その繰り返される秩序の再構築が周囲に影響を与えて、より大規模な範囲で拡大再生産されていく。そして全域に達した状態を我々はブームと呼ぶのだ。ブームは自己相似な構造をもっているのだろう。社会ならほんの数人のグループから発祥する。脳の中でもわずか数個の脳細胞から始まるのかもしれない。

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年08月12日時点のものです。

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