アルバイト主体でも店が回る マクドナルドの人材育成

アルバイト主体でも店が回る マクドナルドの人材育成
 考え方も価値観も違う人にどう仕事を教えるか、大切なモノをどう伝えるか、というのは、教育・人材育成・リーダーシップ含め、人生における永遠のテーマ。
 もし、この問いに自分なりの答えが見つからないのなら、マクドナルドで採用されている、独特な人材育成方法がヒントになるかもしれません。
 今回は、『35歳になったらマクドナルドでバイトしろ!』(角川学芸出版/刊)の著者である泉忠司さんと青木尚士さんに、マクドナルドの人材育成から学べるものについてお話を伺いました。

―『35歳になったらマクドナルドでバイトしろ!』についてお話を伺えればと思います。まず泉さんにお伺いしたいのですが、本書を書かれたいきさつについて教えていただけますか?

泉「『クビでも年収1億円』『3年で7億稼いだ僕がメールを返信しない理由』がベストセラーの小玉歩さんと、著書50冊以上・累計300万部を越える僕が共催している「ベストセラー作家スパルタ合宿」という合宿セミナーがあるのですが、その第1回大会のグランプリ企画が青木さんの『35歳になったらマクドナルドでバイトしろ!』でした。
そのグランプリの副賞が、僕と小玉さんの出版プロデュースなのですが、青木さんの企画を最高の形で世に出すことを小玉さんと一緒に考えていたとき、人生の23年間をマクドナルドに捧げた青木さんの経験に基づくノウハウを、物語仕立てにして伝えるのがベストだろうという結論に達したので、青木さんから事細かにリサーチして、それを僕が小説にすることにしました。
もちろん、それだけでも「学び」が十分伝わるように書いていますが、それを改めて整理するという形で巻末に青木さん自身の言葉によるノウハウを収録しました。小説での「学び」を、一般的なビジネス書のスタイルで再確認できる構成にすることで「繰り返しによる学びの定着」を創出しています。
さらに「あとがきに代えて」の部分で、マクドナルドのシステムを実際に他業種に援用することで凄まじい成果を挙げている、SAKAIメディカルグループの堺正孝代表と統括スーパーバイザーの因幡美子先生と対談させていただきました。これによって、本書のノウハウが実際にあらゆる業種に通用することを読者の皆様にお伝えできていると思います。
結果的に「小説+ノウハウ+対談」というこれまでにない形の書籍が誕生しました。「1粒で3度お得」な本になったと自負しています」

―次にお二人にお聞きしたいのですが、本書で明かされているマクドナルドの人材育成について、その最大の特徴はどんな点だとお考えですか?

青木「まず、マクドナルドという会社では、事業の最前線にいるのは店長だということです。会社のすべてが店長中心であるという認識がなされており、周りには店長を支援する組織があります。ですから、店長のスキルが低ければ店舗の売り上げは下がりまし、そうなれば当然会社の売り上げは下がります。
僕がマクドナルドの社員だった当時は、店長は選ばれし人でした。要するに、非常に能力が高い人しかなれなかったのです。そのような人達に共通していたのは「人に強い人」ということでした。マクドナルドのプライオリティのNo.1は“ピープルビジネス”、いわゆる人材育成です。ほとんどがアルバイトのスタッフにより運営されておりますので、非常に完成度が高いトレーニングシステムが一貫して行われているということでしょうか。しかし、注目するべきところは、このトレーニングシステムの先にはさらに、採用したスタッフの早期退職を防ぐ様々な仕組みがあるということにあると思っています」

泉「「やる意義のわからないこと」を無理矢理やらされることを、人間は極端に嫌います。勉強嫌いな子どもたちは「なぜそれをやる必要があるのか?」ということが分からないから、勉強が嫌いなのです。逆に言えば、勉強する必要性や意義に関して自分自身で納得することができれば、放っておいても自ら進んでやるようになります。
マクドナルドのシステムのもっとも素晴らしい点は、「なぜ?」を徹底的に追求することで、一つ一つの作業の根本にある理由を、従業員が納得した状態で遂行するようにプログラムされているところですね」

―青木さんは、アルバイト・社員併せて23年間マクドナルドで働いていたということですが、マクドナルドのどんな点に魅力を感じていましたか?

青木「そうですね、たくさんの店舗を経験させて貰いましたが、それぞれの店舗すべてにおいて、まったく顔が違ったということですね。店舗形態、売り上げの規模、スタッフ人数、商圏等、すべて異なります。
すべてにおいて予測不能の状態に陥らない為に、人、資材、資金のプランを立てて準備している時はもちろんですが、そのプランにピッタリとはまり、最大の売り上げを獲得出来た時の喜びは格別なものがありました。
その一方で、この予測が完全にはずれてしまった時は本当に大変なことになります。例えば、予想以上にお客様が来店された時は、必要なスタッフ人数が店舗に配置できないために多大なご迷惑をお客様にかけてしまったり、資材が営業中に足りなくなったり、悪循環の連続に陥ります。
またその逆もあり、プランよりも売れなかった場合は、人件費がかかりすぎたり、資材が大幅に余ったりしてしまうのです。人材育成に力を入れていると言っても、やはり売り上げ、利益も重要なファクターですので、そのバランスが取れた時の喜びは大きかったですね。
その意味でも、経営者と同じ感覚で仕事ができるというのは大きな魅力だと思います」

―マニュアルというとあまりいいイメージを持たない人も多いかと思います。ただ、マクドナルドではマニュアルを「自分で成長できる人材づくりの土台」と捉えているのが新鮮でした。そんなマクドナルドのマニュアルについて、その優れた点についてお二人にお聞きできればと思います。

泉「「従業員全員の平均点を上げる」ためにマニュアルがあるという点に尽きると思います。
例えば放任主義を貫くと、自ら勝手に育ってくれるごくわずかな優秀な社員は90点、100点に近づくかもしれませんが、その一方でまったく育つことなく辞めていく人が続出してしまいます。
マクドナルドのマニュアルが目指しているのは、従業員全員を60点にすることで、誰が欠けてもどうにでもなるようにすることです。実際、従業員を総入れ替えしても、店舗を運営できるというのは信じられないほどの強みです」

青木「マニュアルは非常に重要であると考えています。ただ、マニュアルの意味合いを間違えているケースが多いのかもしれませんね。マニュアルを作って丸投げしているから、機械的で何も感情がないものが出来上がってしまうのです。泉さんが言っているようにマニュアルは最低点を上げる、平均点を上げるものです。そして、マニュアルを実践している人へのチェック&フォローがポイントでなんです。ここで初めて、マニュアルを超越した独特な感情や思想が生まれ、ビジネスへ反映されるのだと思います。あとは、定期的なマニュアルの改訂を実施し、常に最新の状態にしておく事も重要ですね」
(後編につづく)



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