人はなぜブラック企業を辞めないか

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人はなぜブラック企業を辞めないか

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

人はなぜブラック企業を辞めないか

なんか最近堀江貴文のおかげで、この話が盛り上がっている。ぶっちゃけ、詐欺に引っ掛かった被害者が、自分を被害者だとなかなか認めないのと同じだと思うのだよね。いくら「それは詐欺だよ」と言っても、「そんなことない」といい張る。

これは単純な心理で、自分を被害者だと認めることは、過去の自分の判断の誤りを認めることで、一般に重大な誤りほど認めるのに抵抗があるものだ。だから詐欺じゃないといい張れる間は、絶対認めない。

よく心理学の本に出てくるけれど、一度相手を同意させてしまえば、相手は「同意した自分」を正当化するために、共犯になってしまう。

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ブラック企業についても、過去の自分がその企業を選んだということが、辞めることへの抵抗になる。過去の自分の選択が間違っていたことを認めなければならないのだから。

むしろ「この会社はブラックじゃない」といい張れる間は、そう思い込みたがる。過去の選択は間違っていない、と。しかもブラック企業はそう思い込むことを助けてくれる。

「努力さえすれば評価されるのだ」「見てみろ、ちゃんと評価されている人がいるじゃないか」「ここは努力が正当に評価される素晴らしい会社だ」「ここに入社する選択をしたおまえの判断は間違っていない」と。

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新興宗教とか自己啓発セミナーは、新しい入信者に新たな信者の勧誘をさせる。これは信者を増やすためもあるけれど、別な側面もある。

勧誘するには教義に精通していなければならない。相手から反論されたら、きちんと再反論できなければならない。そういう訓練を積み重ねていくことで、その宗教への理解が深まっていく。まさに「We learn by teaching.(人は教えることで学ぶ)」。なんとすばらしい!

同時に勧誘の過程で一生懸命その宗教の教義の正しさを擁護するわけだから、今度は「擁護した自分」を正当化せざるを得なくなる。「間違ったことを他人に勧めてしまった」など、絶対認めるわけにはいかない。自分の行動を否定することになるし、さらに他人に迷惑をかけたことになる。そんなことは受け入れられない。

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まあ、程度の差こそあれ、良識とか道徳も同じなんだけどね(苦笑)。平和主義の正しさを一生懸命他人に説く行為は、同時に自分の平和主義の信念を深める。「道徳的に行動しましょう」と他人に呼びかけることは、道徳を否定する思考を持つことをブロックする。何しろ他人に勧めてしまったのだから、それが間違っていたなんて考えたくもない。

信念というのはそれ自体にポジティブフィードバックがかかる性質を持っているように思う。何も信念がないと非常に柔軟なのだけど、ひとたび何かの信念にとらわれると、どんどん強化される方向に働く。

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…ということで、人間の思考の性質という側面を無視して、「こう考えるのが正しい!」「なぜこう考えないのか」というのは、それ自体がブラック企業と同じ性質を持っている。ブラック企業が嫌ならやめればいい、というのは、やめないならブラック企業の方針を無批判に受け入れろという思考停止を促す。

疑似科学信者を脱洗脳させるのには、科学の手法ではなく、おなじ疑似科学の手法を使わなければならない。ブラック企業から脱出させるには、ブラック企業と同じ方法を取らなければならないのかもしれない。

「死ぬくらいなら逃げろ」というのも、逃げるか、逃げないかの2択に思考を制限する言葉で、そういう状態に陥っている人間にそういう言葉をかけても、あまりよい結果にはならない。逃げるという選択が取りにくいから、そういう状況に陥っているわけで、それなのに2択だというなら、「逃げない」という選択肢しかなくなる。当人を追い詰めるだけだ。

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年06月26日時点のものです。

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