暴力団が関係する生活困窮者を囲い込む貧困ビジネス事件について

暴力団が関係する生活困窮者を囲い込む貧困ビジネス事件について

この記事は特定非営利活動法人ほっとプラス 代表理事 藤田孝典(社会福祉士)さんからご寄稿いただきました。

暴力団が関係する生活困窮者を囲い込む貧困ビジネス事件について

皆さんは貧困ビジネスという言葉をご存知だろうか。
生活保護受給者やホームレスなど弱い立場にある者に巧みに声をかけて、宿泊施設などに入所させ、生活保護費や年金などの金銭を宿泊費・利用料名目で搾取するビジネスが横行している。わたしは生活困窮者だけでなく、そのような施設入所者から相談を受けるNPO法人に所属し、支援活動を行ってきた。今回は、わたしが経験した生々しい貧困ビジネスの実態を紹介したい。

例えば、最近ではさいたま市見沼区でホームレスを対象とした宿泊施設を運営するNPO法人幸興友会が、埼玉県警の捜査を受け、代表者が逮捕される業務上横領事件が発生している。その法人はいくつかの新聞記事では、山口組系の暴力団の元構成員が関与しており、入所者の生活保護費が6千万円以上、使途不明になっている。どこに資金が流れたのか、埼玉県警の捜査結果が待たれるところであるが、だいたい予想は出来るだろう。

そのNPO法人幸興友会からの相談は、後を絶たない。例えば、入所から寄せられる典型的な相談は、『幸興友会から出たい』、『幸興友会が嫌で退去してきた』というものだ。当法人では、こうした相談に対して、民間のアパートへの転居支援、いわゆる施設からの脱出支援をおこなうことを支援してきた。

相談者が語る幸興友会が提供する宿泊施設の環境はどのようなものなのだろうか。本当に劣悪な住環境なのだろうか。どのような施設なのかは後でじっくりと述べたい。

多くの施設入所者は、生活保護制度を利用している。生活保護は最寄りの自治体の福祉課で申請を行い、要件を満たせば受給可能だ。そのため、幸興友会の入所者もすべて生活保護受給者である。当然ながら、今回の事件でもさいたま市見沼区が生活保護を施設で認め、保護費が搾取されている事実を知りながら、入所させ続けてきた。ある意味では、貧困ビジネスや元暴力団関係者を助けてきたといっても過言ではない。相談者が『アパートで生活したい』と言っても、相談に応じない見沼区福祉課の対応に、わたしはずっと疑問を抱いてきた。

相談者によれば、幸興友会に入居したほとんどの人が、東京都内の上野公園などで、路上生活をしていた時に、『ごはんも出て住めるところがある。こづかいもやるから、うちに来ないか』と勧誘され、車に乗せられて、見沼区役所に連れて行かれる。そして、生活保護を申請して入所に至っている。そして、申請をしたその日もしくは次の日に、銀行へ行き、施設関係者立会いの下で通帳を作らされる。そして暗証番号を入居者共通で設定され、銀行印と通帳を施設関係者へ預けることとなる。事実上は預けるのではなく、取り上げられていると言う元利用者もいて、少額ではあるが、財産権の侵害が発生している事実がある。その口座には、後に見沼区福祉課から、生活保護費が振り込まれ、金銭管理の契約などを結んでいないにも関わらず、本人の財産が勝手に施設関係者によって使用されることになる。それ以降、毎月の生活保護費は、本人の意思とは関係なく、「手当」という形でわずかな金銭が支給され、その額も月に1万円程度である。さいたま市見沼区では、単身男性の場合(年齢や状況によって差がある)、生活保護費が家賃分込みで12万円程度支給される。しかし、様々な名目で施設に搾取され、月額1万円しか本人の手元には金銭が残らないのだ。タバコを吸う人には、別途「タバコ代」が支給されていたそうだが、吸わない人には支給がなく、支給内容や施設利用契約など合理的な取り決めはほとんど存在しない。そして、入所者にはそれぞれ役割が与えられる。施設内で病人が出た場合は、病院へ付き添うことは入所者が行う。また、施設入所者を取りまとめる「班長」という管理職をおき、食事の準備をする「食事係」や、車で移動や送迎を手伝う「運転手」も入所者が担当させられる。こういった役割を果たす人に対しては、別途手当が支給されているそうだ。

さて、いよいよその施設の住環境や内容について見てみよう。はじめに入所する際には、生活保護費一時金が支給され、布団や衣類を購入することが出来る。しかし、その布団代を見沼区福祉課が申請したにも関わらず、新しい布団を支給してもらった入所者は存在しない。実は、入所者にあてがわれる布団は、施設から逃げ出したり、退所したり、場合によっては亡くなった前入所者が利用していたものなのである。使い回しの布団である。皆さんは、他人が使用した布団で寝ることはできるだろうか。想像してみてほしい。いかに異常な人権侵害が横行している環境にあるかということを。そして、部屋は3畳ほどで、害虫が至るところにいる。例えば南京虫だ。わたしも入所者の話を聞いて、はじめて南京虫という害虫の存在を知った。部屋にいると痛みや痒みが皮膚を走るのだそうだ。それが日常的に暮らすスペースなのである。繰り返し聴きたい。皆さんはそこで暮らせるだろうか。そして、ベニヤ板で仕切られた環境で、隣人の声や生活音は筒抜けであり、プライバシーは存在しない。廊下も人が一人しか通れるスペースがない。

こういった環境で生活をしていれば、誰でも出ていきたくなるのは当たり前で、相談者は、見沼区福祉課へ相談したことがあると話をしている。なかには、見沼区福祉課の担当CW(福祉事務所職員)から『他の場所での生活をしたいなら相談してください』というような転居の可能性を示唆する書類をもらっている人もいる。引越しは希望すれば簡単なように思う。しかし、問題はここからである。施設から出られない仕組みは巧妙だ。出られるように見せかけて、理由をつけて出口を塞いでしまうのである。例えば、「仕事がしたい」、「自立をしたい」と思い、「アパートへ転居したい」と見沼区福祉課に相談した相談者は後を絶たない。すると担当CWからは「上司に確認しますので待ってほしい」、「アパートへの転居はできないと決まっている」、「一度別の施設に入り、その上でアパートへの転居を考えたい」といった対応がされる。見沼区福祉課のCWは少なくとも、2ヶ月に1度は訪問しており、普通の人間の感覚であれば、幸興友会の住環境は適切な環境ではないと気づいているはずだ。別の施設への転居と言っても、施設の内容はほとんど変わらないところである。その結果、転居をあきらめ、失意のなかであてもなく、施設から出て行ってしまい、何もかも失って再度路上生活を送るという人もいる。

幸興友会に限らず、第2種社会福祉事業の施設として、認可されている施設でも、「就職活動ができるお金が手元に残らない」、「施設の職員の代わりを任されている」などの相談が見沼区内から多数相談が寄せられている。見沼区福祉課のCWや査察指導員は、口々に「施設での生活状態をみてアパートへの転居を認める」と話をする。しかし、その施設が自立の妨げになっており、見沼区福祉課の対応は非常に矛盾していると言わざるを得ないし、自立する意欲を阻害することになっている。「自立したい、働きたい」けど「自立できない、働けない」現状にしてしまっているのには、このような住環境が大いにかかわっている。少なくとも、真っ当に生活困窮者支援をしている団体や福祉専門職からみれば、自立して生活できる能力がある人を、根拠のない理由で施設に誘導するような福祉課の行為には、非常に問題があると断言できる。こういった施設に入所し、出ていきたいと思っている人は、福祉課が相談に乗ってくれなかったら、他の支援団体や法律家に積極的に相談することをお勧めしたい。私たちは支援を惜しまないし、弁護士や司法書士でわたしの仲間たちがまともな転居先を支援しているのだから。

しかし、多くの入所者がだまされて入所を未だに余儀なくされ、施設関係者に従わなければ、路上生活に戻らざるを得ないとすら考えている。どれだけ劣悪な施設でも路上生活の過酷さよりは、若干マシな生活なのである。だからこそ、入所者は路上生活にならないように、黙って権利侵害を受忍し続けてしまう。
 生活保護につながり、アパートで生活できる人が、本人の意に反して、福祉課の怠慢により、施設に入所し続け、あるいは退去し、路上生活へ戻る。このようなことは、あってはならない。生活に困っている本人にしっかりと目を向け、適正な生活保護法の制度運営を図るべきである。そのために、私たち支援者も『間違っていることは間違っている』とのメッセージを届けることを怠らないようにしなければならない。

執筆: この記事は特定非営利活動法人ほっとプラス 代表理事 藤田孝典(社会福祉士)さんからご寄稿いただきました。

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