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検索エンジンは妖怪“覚(さとり)”の夢を見るか【前編】

「情報の科学と技術」(情報科学技術協会)

※この原稿は「情報の科学と技術」Vol. 63 (2013) より許諾を得て転載させていただいております。執筆者はガジェット通信の関連企業「未来検索ブラジル」社で検索エンジン開発を行なっている森大二郎です。

「情報の科学と技術」(情報科学技術協会)
http://www.infosta.or.jp/journal/journal.html

検索エンジンの未来 -検索エンジンは妖怪“覚(さとり)”の夢を見るか-【前編】(森大二郎)

1.はじめに

検索エンジンサービスと、それを支える情報ネットワークはこの先どのように変化していくのだろうか。あるいは変化しないのであろうか。WWW検索エンジンの歴史がまだ20年にも満たないことを考えると、未来を予想するなど無謀な試みに過ぎないのはもちろんであるが、本稿ではあえて想像を逞しくして将来を展望してみよう。

今からちょうど20年前の1993年にNCSA Mosaicがリリースされ、WWWが爆発的な成長の兆しを見せはじめると、1年と待たずにいくつもの検索エンジンサービスが次々に設立され、互いに覇権を競い合う時代に突入した。しかし、激しい過当競争は10年程度でほぼ収束してしまう。

その後の10年間でWWWの世界はコンテンツ中心からユーザ中心に徐々にシフトしたが、検索エンジンの勢力図やサービスは(少なくとも表面的には)大きくは変化していない。トップページの中心的な要素は、今も昔も検索文字列の入力フォームであり、検索結果がリスティングによって表示されるというスタイルも大きくは変わっていない。

しかし、だからと言って次の10年も同じスタイルが主流であり続けるとは限らない。これまで検索エンジンが一貫して追及し続けてきた目標のことを思えば、本格的な変化はむしろこれから始まると考えることもできる。近い未来、検索エンジンが人間社会にもたらす劇的な変革から見れば、現在の検索エンジンなどその胎動に過ぎなかったと回想する日がやって来るかも知れない。

2.加速する世界

検索エンジンが目標としているのは、ユーザの情報要求を最も良く満たす情報を、可能な限り高速に提供することである。ここで言う「高速」とは、単に検索エンジンサーバからの応答時間が短いことを指しているのではない。ユーザが何らかの情報要求を心に抱いてから、それを満たす最善の情報を手に入れるまでの時間を最短にするということを意味している。

1)高精度な検索、2)高速な検索処理、3)効率的な入力の支援、4)網羅的な情報収集などは、すべてこの目標を満たすための要素技術だと言える。たとえば、高精度な検索結果を返すことができれば、ユーザは、複数の結果を参照して最適なものを選び出す時間を削減することができる。

ユーザが情報要求を抱いてから、それを満たす情報を得るまでの時間や作業コストを削減することは、ユーザの精神的・経済的利益に直結し、検索エンジンの利用をさらに促進する。検索エンジンは、20年間この目標を追求し続けて来た。ではこれから先、さらなる高速化の余地がどこに残されているのだろうか。

ここで、ユーザと情報端末の間のインタフェースについて目を向けてみよう。ユーザから端末に情報を与える入力インタフェースと、端末からユーザに情報を提供する出力インタフェースについてである。

最初期のコンピュータのインタフェースは、入力・出力ともに非常に低速かつ手間を要する穿孔機やテレタイプなどが使われていたが、出力インタフェースについては、その後著しい発達を遂げ、画像・音声とも人間の感覚器官の弁別分解能に迫る性能を達成している。

一方、入力インタフェースについては、進歩が停滞した状態が長く続いている。最初期のコンピュータより百年近くも前に発明されたモールス信号の単式電鍵では、熟練者であれば既に20~30wpm(英語の場合)、後の複式の自動電鍵ならば50~60wpmでの文字入力が可能であった*1。現在のキーボードの前身と言えるタイプライターは20世紀の初頭には既に入力速度の点では完成の域に達しており、熟練者で100~120wpm程度の速度を達成している。その後も高速化の工夫はいくつも提案されているが、広く普及するには至らず、百年間にも渡って同じインタフェースが使われ続けている。

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記者:

プログラマ。有限会社未来検索ブラジル所属。オープンソースソフトウエアの開発に従事。参加作品「全文検索エンジンSenna  http://qwik.jp/senna/」「全文検索エンジンgroonga  http://groonga.org/」

ウェブサイト: http://groonga.org/

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