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たったひとつの正しい主張ではなく、たくさんの風変わりな意見を

たったひとつの正しい主張ではなく、たくさんの風変わりな意見を

今回は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

たったひとつの正しい主張ではなく、たくさんの風変わりな意見を

新刊『不愉快なことには理由がある』*1のINTRODUCTION「たったひとつの正しい主張ではなく、たくさんの風変わりな意見を」を掲載します。

*1:「不愉快なことには理由がある [単行本(ソフトカバー)]」 橘 玲(著) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087806634/

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本書では、政治や経済、社会的事件など、私たちのまわりで起きるさまざまな出来事について日々考えたことを綴っていますが、正しい主張が書かれているわけではありません。

いきなりの暴言で驚かれたかもしれませんが、その理由は3つあります。

ひとつは、私が、それぞれの問題についてはただの素人だということ。日本には、政治学や経済学、社会学などの優れた専門家がたくさんいます。彼らと同じ学問的レベルで“正しい”論述をするのは、そもそも素人には不可能です。

ふたつめは、多くの社会問題でなにが正しいのかわからないこと。これは、私たちの世界が不確実で、未来を誰も予想できないからです。複雑で緊密な小さな世界(スモールワールド)の話は次章でしますが、難しい説明がなくても、3・11の前は専門家の大半が原発の絶対安全を信じていたことを思い起こせばじゅうぶんでしょう。専門家が間違っているのなら、専門レベルの正しさを妄信することは破滅への道です。

3つめは、問題には必ず解があるわけではないこと。あるいは、解があってもそれが実現不可能な場合があること。尖閣や竹島は日中・日韓の「問題」ですが、主権国家の集合体である近代世界は領土問題を解決する方法を持っていません。

こうした「不愉快な真実」は、あたりを見回せばいくらでも見つかります。

世界には、1日1.25ドル(100円)未満で暮らす貧困層が12億人(途上国人口の22%)もいます。世界の貧困人口は経済のグローバル化によって大きく減少しましたが、それでも先進国と途上国の「経済格差」は道徳的に容認し得ないものがあります。

理論的には、こうした貧困問題を解決するのは簡単です。アメリカやヨーロッパ、日本などのゆたかな国が国境を開放し、無制限に移民を受け入れるなら、貧困に苦しむ多くのひとたちが所得を得る機会を手に入れ、2世代か3世代経つ頃には、世界の貧困はなくならないにしても劇的に改善していることでしょう。

もちろんほとんどのひとは、こうした“正解”を荒唐無稽なものとして一笑に付すでしょう。そして不愉快な問題から目をそむけるか、あるいは経済援助や債務帳消しのような、より簡便で気分のいい解決策に飛びつくのです。

「中央銀行がマネーを大量に供給すれば不況はたちまち終わる」とか、「国家がすべてのひとに生活最低保障すれば貧困問題は解決する」とか、「太陽光発電や風力発電で原発をゼロにできる」とか、さまざまな“一発逆転”のアイデアが出されています。その一方でこれを真っ向から否定する専門家も多く、学問的な論争は見苦しい罵り合いと化しています。

政策的に重要で、専門家のあいだで合意が成立しない問題は、民主制(デモクラシー)社会では最後は素人が選択するしかありません。

幸いなことに、いまでは素人の集合知が少数の専門家の判断よりも正しいことがわかっています。この不思議な現象は、アメリカのジャーナリスト、ジェームズ・スロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』*2で広く知られることになりました。

*2:「「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫) [文庫]」 ジェームズ・スロウィッキー(著), 小高 尚子(監修, 翻訳) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4042977014/

集合知の仕組みはいまだ完全に解明されたわけではありませんが、ウシの体重を予想したり、ビンの中の飴玉の数を当てたりする場合は、不特定多数のなかから誰が真の専門家なのかを発見する機能があるからだとされています。素人は無知なので回答の数字が極端に大きかったり小さかったりしますが、参加者の数がじゅうぶんに多ければこれらの誤答は相殺されて正解へと収斂していくのです。

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