またイチャイチャしたいヒゲの隊長〜安田純平の戦場サバイバル

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夜中も煌々とあかりが灯っているアラウィ派の村と、手前の真っ暗な空間にあるスンニ派の集落=2012年7月16日

フリージャーナリストの安田純平さんがシリア取材や戦地取材にまつわる話をやわらかく伝える連載です。

またイチャイチャしたいヒゲの隊長

シリア反政府側武装組織・自由シリア軍の部隊長が、携帯に保存していた彼女との2ショット写真を見せてくれた。ふたりとも薄着でいちゃいちゃしていてなんだかエロい。これでふたりともイスラム教徒なのかと聞いたら、部隊長はスンニ派で彼女はアラウィ派なのだという。

アラウィ派はイスラム教シーア派の一派とされる。宗教的な縛りは外見上感じさせず、女性は髪を布で覆うこともなく、欧米人のような服装で街を歩いている。国内の少数派であるアラウィ派が中枢を占めているアサド政権はアラブ社会主義を掲げる世俗的な政権である。

「今から電話して呼びだそうぜ」

彼らの拠点でいっしょに合宿生活をしていた私は、日本の飲み屋でするヨタ話のノリでけしかけたが、部隊長は静かに首を横に振った。

「前に電話したけど、あんた自由軍なんでしょ、みつかったら大変だからもう電話しないで、って言われちゃったよ」

内戦の続くシリアでは、反政府側のほとんどがスンニ派で、アラウィ派はほぼ政府側である。世俗国家であるシリアでは宗派や宗教を超えたこうした人間関係があったが、内戦の激化によってそれが絶たれてしまった。

反政府側にもアラウィ派やキリスト教徒はいるし、政府側にもスンニ派はかなりの人数でいる。空爆が始まるとキリスト教徒の村にかくまってもらうというスンニ派の反政府側の人もいた。かたちとしては宗派・宗教で分かれているが、あくまで政権の不支持・支持の違いによる対立であると私は認識している。ただ、争いが続くうちに、憎しみの根源が宗派・宗教の違いにあるという意識が強まってくる恐れはある。

「アラウィ派ってきれいな人多いんじゃないの?アラウィ素晴らしいね」とあえて言ってみた。フランス統治時代に権力を与えられたアラウィ派には、フランス人との婚姻も広がったために美貌が多い、という人もいる。部隊長もこの点に同意した。

「そうなんだよ。もともと友だちはたくさんいるし、問題なのは民兵だけだよ」

美しい思い出が消えてしまう前に、この内戦が収まってくれればいいと思った。

※連載「安田純平の戦場サバイバル」の記事一覧はこちら

明け方まで活動し昼まで寝ているシリア反政府軍のメンバー。どのような夢を見ているのだろうか=2012年7月17日

【写真説明】
(1枚目)夜中も煌々とあかりが灯っているアラウィ派の村と、手前の真っ暗な空間にあるスンニ派の集落=2012年7月16日
(2枚目)明け方まで活動し昼まで寝ているシリア反政府軍のメンバー。どのような夢を見ているのだろうか=2012年7月17日

安田純平(やすだじゅんぺい) フリージャーナリスト

安田純平(やすだじゅんぺい)フリージャーナリスト

1974年生。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』
https://twitter.com/YASUDAjumpei

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安田純平

1974年生フリージャーナリスト。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』

ウェブサイト: http://jumpei.net/

TwitterID: YASUDAjumpei

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