大人が読みたい絵本『フレデリック』
“絵本”と聞くと、やはり子どものものというイメージがあるのではないだろうか。文よりも絵の方に重点の置かれる絵本は、子どもにとっては分かりやすく楽しいものだが、大人にとってはやさしすぎるものが多い。
しかし、極めて強い作家性を持つ絵本作家も中にはいる。子どもが読むよりも大人が読んだ方が楽しめるであろう哲学的な内容を、シュールな作風で描くのがオランダのアムステルダム生まれのレオ=レオニである。
小さい魚たちが力をあわせて巨大な敵に立ち向かう『スイミー』がその代表作として有名だが、今回紹介する『フレデリック』は1匹のちょっと風変わりなねずみの物語だ。
お百姓さんが引っ越してしまったので、ねずみたちは冬に備えて一生懸命準備をする。ところが、1匹だけまったく働かないねずみがいる。そう、フレデリックだ。
みんながフレデリックにどうして働かないのかと尋ねると、「さむくて くらい ふゆの ひの ために、ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ。」とわけの分からないことを言って、相変わらずまったく働かない。
やがて冬が来て、雪が降り始めた。ねずみたちはみんな、寒さに耐えながらも、愉快に暮らしていく。食べ物もたくさんあるし、話すことだっていっぱいある。
しかし、少しずつ食べ物は減っていき、おしゃべりすることもなくなってしまった。辺り一面は真っ白で、沈黙と寒さだけがねずみたちの間にあった。その時みんなは思い出す。フレデリックが口にしていたことを。
「きみが あつめた ものは、いったい どう なったんだい、フレデリック。」みんながそう尋ねると、フレデリックは……。
具体的な場面は伏せておくが、フレデリックはちゃんと自分で言っていたように、大切なものを集めていたのである。みんなはびっくりして、喜びと感心の声をあげる。
このあらすじを読んで、似た話を思い出しはしないだろうか。そう、この『フレデリック』はイソッブ寓話の『アリとキリギリス』に途中まではとてもよく似ているのだ。
『アリとキリギリス』では、冬の備えをせずに遊んでばかりいたキリギリスはひどい目にあうが、フレデリックは苦しい目にあうどころか、みんなからの尊敬を集めることになるというところに、大きな違いがある。
そこにレオ=レオニの持つシュールさが光っているのだが、その違いにこそ『フレデリック』を大人に読んでほしい大きな理由がある。
怠けてはいけない、遊んでばかりいたらダメだという教訓は子どもにこそ伝えたい。働かなければ食べていけないというのは、大人にとっては自明の理で面白くもなんともないからだ。
歯車のようになってただ働くのが当たり前で、生活に追われている人がこの絵本を読むと、おそらくちょっとだけ、見える世界が変わるはずである。生活はもちろん大事だ。働くことだって大切なことだ。でも、自分の人生や周りの世界には、自分が気がつかなかった素敵なものがたくさんあるはずだ。少しだけ肩の力を抜いて、日常の中できらきら輝くなにかを探してみたくなる、そんな絵本が『フレデリック』なのである。忙しい毎日を送る大人にぜひおすすめしたい。
画像:好学社HPより
http://www.kogakusha.com/leo/leo002.htm
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