「スペイン救済され、スペイン国債売られる」という矛盾

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「スペイン救済され、スペイン国債売られる」という矛盾

今回は脇田栄一さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

「スペイン救済され、スペイン国債売られる」という矛盾

タイトルにあるように、スペイン救済によって市場は一旦落ち着きかけたかのように見えた。しかしながら、欧州政策当局者の思惑とは裏腹に、今現在スペイン国債は売られ、ユーロは下落している。なぜか?

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As of 09:54:00 ET on 06/11/2012
(2012年6月11日(日本時間)時点)

市場関係者は、ギリシャの前例を注意深く研究しなくてはならない。ギリシャは欧州財政ファンドから資金を投入されたが、トロイカのコンディショナリティ(融資基準)を達成できずに、「同意の下での債務整理」に追い込まれた。

ギリシャに融資基準が設定されたように、資金が投入されるスペイン銀行セクターにも今回、融資基準が設定される見通しとなっている。仮に資金を投入されたスペイン民間銀行が融資基準を満たせない、もしくは何らかの形で破たんした場合、債務整理は当然ながら行われる。今回、スペイン銀行セクターに融資基準を設定するのはスペイン政府となっており、スペイン銀行セクターに何かあった場合には、形式的にはスペイン銀行セクターが責任を負うものの、実質的にはスペイン政府が債務を負う事になる。

結論からいえば、今現在スペイン国債を保有している債権者(投資家)は、仮にスペインがギリシャのようになった場合、「合意の下での債務整理」を強いられる事になる。そのとき、今現在スペイン国債を保有している投資家の弁済順位は、今現在より落ちる事になる。「ESM」によってスペイン銀行セクターが救済された場合、投資家からすると「お金が返ってくる可能性」は以前に比べて低くなる。というわけだ。

本日、「スペインを救済する基金はESMから」(見通し)、といった報道がドイツ財務省から発信された。実は問題はここに隠されているわけだが、そのESMには、上記「合意の下での債務整理」、公的にはCACとよばれる集団行動条項が、稼働時(7月1日)から付帯される事になっている。要するに、ドイツからの報道によって、スペイン国債保有者は恐怖におののいた事になる。(おまけにユーロも下落)

スペイン国債保有者は、「ギリシャ国債債権者同様、イバラの道を歩む可能性」を察知した。ギリシャ国債保有者は、「合意の下での債権(一部)放棄」を議論の末、途中から強いられる事になったが、今回は最初から「鉄板のルールとして」決まっているからだ。

ちなみに、ESMに付帯されている集団行動条項は、IMFの原則と一致する。IMF原則とは、IMFが関わる融資における債権弁済においては、(IMFが)全ての債権者に対して優位する。今後、スペイン救済に上記ESMが役に立たないような事が鮮明化すれば、IMFが介入する可能性は高くなる。そうなった場合、スペイン国債保有者の弁済順位はもっと落ちる事になるだろう。そう、USからのスペイン格下げは、スペイン国債保有者の身(弁済順位)を案じているかのようだ。少なくとも、自分の目にはそう映る。

以前のレポートでも言及しているが、欧州からCACによって単独国家(ギリシャ)が救われた事は、悪しき前例を作った事になる。周知の事だが、欧州でいう「同意の下」という言葉は「強制」という単語と同義語であり、懸念したとおり、その前例が悪い意味で現在欧州に跳ねかえってきているわけだ。*1
CACが付随している救済資金は、本当の意味で「レスキュー」とは言い難い。

*1:「「遡及的減免」という荒業」2012年01月13日『ニューノーマルの理』
http://ameblo.jp/eiichiro44/entry-11134390108.html

賢明なスペイン国債保有者は悪い意味で「ギリシャおよび今回の救済劇」を観ている。それを証明するかのようなスペイン国債およびユーロの下落。ESM投入は市場を安心感に包むどころか、市場を恐怖に陥れる可能性、今回の件は今後も続く。

今回のスペイン下落(国債)は、EFSFとESM、実質的に同じような構造のファンドをいくつ作っても、「頭文字を変えただけ」と市場からはシラけた目線で見られている、という事。市場をコントロールできない欧州首脳は、6月17日まで眠れぬ夜を過ごす事だろう、無理やり的にでも緊縮政権を誕生させようとするはずだ。(実際に誕生するかどうかは定かではない)

執筆: この記事は脇田栄一さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

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