産経「ねつ造号外」について“偽新聞専門家”が語る 「現実に侵食すべきではない」
8月4日「安倍総理逮捕」「安倍夫妻 逮捕」と題した「ねつ造号外」についてネット上で話題となった。
ねつ造された画像はTwitterを元に拡散され、「号外」「産経新聞」「安倍晋三」がGoogleトレンドワード入りもしている。これら「ねつ造号外」は産経新聞の号外をベースにしたものとみられており、産経新聞では法的措置も検討しているとのことだ。
ところで、「偽新聞」「架空紙幣」に関して、第一人者とも言えるネット上で最も有名な人物がガジェット通信を運営する未来検索ブラジル社に在籍している。架空紙幣作家のolo(おーえるおー)氏だ。olo氏は自身のTwitterで様々なネタを公開しているが、どの作品も非常にクオリティが高いため、定評がある。
[olo氏作品の例]
【偽新聞】相談の窓「脚本に公平性を」 pic.twitter.com/B9hpYYoQhC
— olo (@_olo_) 2016年2月24日
そんなolo氏に、今回の“事件”についてインタビューをしてみた。
「私なら全部作る」
―― よろしくお願いいたします。ところで今回の“ねつ造号外”、アレ、oloさんが作ったんじゃないですか?
olo(おーえるおー)さん(以下olo):(しばしの沈黙をおいて)私じゃありません。私だったらもっと精巧に作ります。そして、いくつか理由はあるのですが、この内容では作りませんね。
―― 精巧に、ということでしたのでまず、表面のお話から。これ見てみて、どうですか?(アーカイブされたjpg画像「安倍首相逮捕」を見て)
olo: (見て即座に)韓国警察ですね。
―― え? 見てすぐわかるもんなんです。
olo: サムスンの副会長が大統領関連のスキャンダルで逮捕されたときの写真に合成してますね。あと、警官の右胸のネームタグが3文字です。ハングルで人の名前が入ってる。だから3文字なのです。左胸のワッペンは韓国警察のマークです。
―― 本当だ……。安倍総理のインパクトで見落としてました。写真以外はどうですか。
olo: 左上の日付のフォントが「29」と「8」,「2」で違います。「水」も細いです。
―― これはもとのレイアウトに無理やりかぶせてしまっているからですか?
olo: そうでしょうね。月と日と曜日だけ変えているんですね。一部だけ合成したり差し替えたりするとアラが目立ってしまうんですよ。私なら全部作りますね。
偽新聞は「実名を出さない」というルール
―― だからいつも、oloさんの作る偽新聞は全体の統一感がハンパないのですね。では、内容面についても聞かせてください。oloさんの偽新聞って、言い方は悪いですが徹底して「くだらない」のを追求しているように思えるのですね。一方、今回のねつ造号外って、ネットでも内容的にシャレにならない、といった声があがっているみたいです。oloさんが「偽新聞」の内容面で気を付けているところなどあれば教えてください。
olo: まず実名は出しません。私の場合は、基本的に架空の出来事や架空の組織や架空の法律をベースに作るので、そこに総理大臣のコメントとか出す場合は「23日に野党が提出した童貞課税法案について総理は『対案としては不十分ではないか』と述べ…」みたいな書き方をして実名を出さない方向にしてますね。
―― 実名を出すと、影響が出てしまう。
olo: 実名を出すと名誉毀損になるかもしれませんし。でも総理の名前が架空の名前だと、なんというか興ざめですよね。
―― oloさんの他の“作品”ですと、周囲の記事のリアリティにも気を配っている印象があります。周囲の広告とかディティールが本当、振り切れています(笑)。
olo: それは間違って広まっても大丈夫なようにわざと入れてます。周りに広告を入れて斜めに撮影すれば改ざんしにくくなります。一部を改竄して「安倍総理がどうこう」ってやろうと思えばできますから。
偽新聞は現実に干渉しないパラレルワールドであるべき
内容的なことを言えば、自分の作るものは「毒にも薬にもならないもの」だと思っています。
―― ユーモアって、そういう性質のモノかなとも思います。
olo: 見方によっては政治風刺でもあるし、経済風刺でもあるし、社会風刺でもある。自分の作るものは、どれとは決めてませんね。偽新聞って、現実に侵食しない絶対に交わらないパラレルワールドであるべきかな、と思います。
―― 偽新聞にはふさわしい場所がある、と。
olo: 偽造品がリアルの世界に侵食したら、社会に対する内政干渉ですからね。
【偽新聞】暴力者マークが決定 厚労省、積極活用を推奨 | 「むしろ暴力を振るう人が誰か分かるようにすれば、皆が身を守れるのではないか」との観点から、今回のマーク決定につながった。 pic.twitter.com/hBbcHSgfZp
— olo (@_olo_) 2015年10月18日
―― たしかに。(oloさんが手がけている)架空紙幣が現実に干渉したら“偽札”になってしまいますもんね (笑)。それはよくない。
olo: そうですね。私が考える架空とはそういうものです。
―― なるほど、ありがとうございました。
今回の「ねつ造号外」がどのような目的をもって作られたものかは知る由もないが、踏み込んではいけない領域に踏み込み過ぎた事だけは確かだ。
ネットと技術が生み出せる「架空の領域」、そこに入るにはリテラシーという許可証が必要なのかもしれない。
架空紙幣作家 olo(@_olo_)さんのTwitter
https://twitter.com/_olo_
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。