【橘川放談 vol.3】団塊世代のバカヤロウ! 自宅警備ジジィになっちゃダメなんだよ

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【橘川放談vol.3】団塊世代のバカヤロウ! 自宅警備ジジィになっちゃダメなんだよ

日本のどこかで、橘川幸夫さんに出会うたびに聴いた話をシェアするためのインタビュー、第3回は「団塊世代について」。ひさしぶりに会う橘川さんに「今度は何の話をしますか?」とメールしたら「団塊世代のバカヤロウ! でどう?」と即返信がきたのだった。団塊世代とは、1947年から1949年に生まれた第一次ベビーブーマー(3年間の出生数合計約806万人)および、その前後の世代のこと。戦後の復興期に生まれ、ビートルズを聴いて学生運動に参加し、社会に出ると“金の卵”ともてはやされた。2007年、彼らが60歳を迎え定年退職することから、労働人口の急減少を食い止めるために政府は『改正高齢者雇用安定法』を施行。定年引き上げが行われていたが、今年は65歳で退職する人が増え『2012年問題』が危惧されている。

橘川さんは1950年生まれ、つまり団塊世代の人である。同世代論としての「バカヤロウ!」はいわゆる団塊批判とは一線を画しているだろうし、むしろ愛がこめられているにちがいない。どんな話が飛び出すんだろうとワクワクしながらインタビューを始めると、話はいきなりヒートアップ、スリリングにドライブした。ぜひ、最後までガッツリお楽しみいただきたい。(聴き手:杉本恭子)

団塊世代のイメージと実態には大きなズレがある!

――さて、今日のテーマは「団塊世代のバカヤロウ」ということですが……。
ちょっと、団塊世代の悪口を言う! 今、日本最大の問題は団塊なんだよ。

――さっそくきましたね(笑)。日本社会最大の問題は団塊世代、と。
今ね、団塊世代が続々と定年退職しているんだよ。団塊世代は1947年から1949年までって言われてるけど、オレは早生まれだから1949年生まれのヤツらと一緒に学校に行って、1968年に大学に入ったんだ。オレらの頃はピークだったから、中学校のクラスが12クラスあって、1クラス60人なんだよ?

――1クラス60人!? 今、中学校の平均クラス人数は30人以下*ですから倍以上だったんですね。
イスが足りなかったんだもん(笑)。当時の東京ではそれが普通だったんだよ。ひとつは、人数の多さが問題なんだ。もうひとつは、団塊世代ってイメージと実態にズレがあることなんだな。一般的に団塊世代っていうと反逆心があって組織がキライで、自分でなんでもやって引っ張っていくとかそういうイメージがあるじゃない? でもさあ、団塊世代がみんなビートルズを聴いて育ったなんてウソなわけだよ。
*文部省発表『学校基本調査』平成23年度より「1学級あたりの生徒数29.2人」。

――ビートルズ世代なんて呼ばれていますけど、ウソなんですか?
だってさ、母集団が多いんだからビートルズを聴いてるヤツが少数派でも人数としては多いんだよ(笑)。一部でも聴いていたら多いわけ。つまりさ、団塊世代ではみ出して自立心が強いヤツも確かにいるよ? でも、そうじゃないヤツの方がもっと多いわけだよ。問題はそいつらなんだ。みんな反逆して学生運動をやったって言うけど、全員がやってたら革命が起きてるよ。だろ? 一部のヤツしかやらなかったから革命が起きなかったわけだよ(笑)。

――過去のドキュメンタリー映像なんかで見るとすごい人数が参加していますけど、あれでもごく一部なんですね。
そうだよ。やったヤツっていうのはメジャーじゃないわけだよ。やらなかったヤツは、そのまま企業組織に入ったわけだよね。組織に入った人のなかでも、団塊的と言われる人は途中でドロップアウトしてやめちゃってる。実態としての団塊世代はふつうの従順な人たちだよ。学校をちゃんと卒業して、就職して、組織になじんで生きてきた人たち。

つまりさ、組織に従順に生きてきて定年退職した人たちがあふれてきたというのが今の問題なんだ。団塊世代のなかの“塊”になっている部分っていうのは、組織的な人間で、自立性もオリジナリティもなければ自分ひとりで戦うなんてしない人たちなんだよ。
 

定年後、イラつく団塊世代に迫る“ニート化”の危機

【橘川放談vol.3】団塊世代のバカヤロウ! 自宅警備ジジィになっちゃダメなんだよ

――ある意味、戦後学校教育による組織人育成は成功したけど、今その結果が問題になっていると。
そうそう。大学受験に勝ちぬいて、卒業したらそのままエレベーターに乗って企業に入って、出世して定年退職してはじめて組織から外れてね。ずーっと組織の枠のなかでしか生きたことのない人たちが野に放たれたわけだよ(笑)。

――ずっと組織に守られて生きてきた人がいきなり無職フリーになるのはつらいだろうなあ。
定年退職したばかりの頃は、彼らもウキウキしていたわけだよ。そこそこ退職金をもらって、年金も確保して勝ち組だと思っていたわけだ。夫婦で海外旅行しようとか、太極拳でも覚えてみようとかさ。でも、1年か2年したら飽きちゃうんだよ。だって、もともと自分で楽しみを見つけて好きなことをするタイプじゃないんだもん(笑)。個人でエンジョイするなんてムリなんだよ。お金があっても根っから貧乏症で臆病だから、稼いだ分じゃないと使えないわけ。このままいくとさ、団塊はニートになると思うんだよ。じいさんニート、自宅警備ジジィ(笑)。

――自宅警備ジジィ!?
なおかつ、彼らは組織で出世して管理職になったり経営側に入って偉くなっちゃったわけだからさ、個人になってもかつての組織内の自分の立場からしかモノゴトを考えられないわけだよ。たとえば、ボランティアに行って「この荷物を運んでください」と言われたら、「こうしたら効率アップできる」と提案書を作って組織的な管理をしようとする。ただ運んでくれとお願いされているだけなのにさ。若いボランティアの人たちは、こういう団塊ボランティアの人に手を焼いて腫れモノに触るように接するようになっちゃう。

――善意がかみ合わないのはお互いに楽しくない状況でしょうね。
そう、だから定年直後はウキウキしてた団塊世代もだんだんイライラしてきてるんだ。街でケンカを売ったり、店員にヘンな文句を言ったり、電車で携帯で話してる人につっかかって「何やってるんだ!」と怒ったりさ。モンスターペアレントならぬ団塊モンスターだよ。でも、組織のなかにいないから誰も彼らをコントロールできないんだよ。要するに、ひとりで生きたことのない人間が一人で生きざるを得ないっていうのは、相当な社会不安の原因になるんじゃないかって危機感を持っているわけです。

――うーん。私たちも団塊世代への認識を改める必要がありそうです。
ひとつはさ、団塊世代の親は戦争体験者なわけだよな。戦地を生き延びて帰ってきて、戦後の日本で子どもを産んだ。そして、ある意味で、団塊世代を育てるためにがんばったわけですよ。こいつらを育てるために死に物狂いで働くっていうね。だから、今の日本を豊かな社会にしたのは団塊世代だっていうのはウソだよ! 今の社会の基本を作ったのは戦争体験者なんだよ。団塊世代は、親世代が作った組織を組織的に膨らませたんだ。子どもの頃から人数が多いから組織っていうものが好きで、組織の扱いは確かに上手いからね。効率よく回すとか、内部の派閥抗争を処理するとか、何かを切り捨てるとかはね。じゃあ、組織をゼロから作れるかっていったら作れない人たちがほとんどだよ。
 

お金があっても社会参加できない人生なんて……

――でも、60歳を超えてからひとりでやっていく方法を考えるのは難しいですよね。
女はいいんだよな。女の友達は生活の友達だから。会社でOLして辞めた後もお茶飲んだりするだろ? でも、男は組織の人間としてつきあうから、会社を辞めると個人としての友達関係は残らないんだよ。ますます男は孤立しちゃう。

――定年後に趣味を作ろうにもそういうタイプじゃないという話だし。
趣味なんてさ、自分で探すのが趣味だから人に教わりようがないって(笑)。人に「これをやれ」って言われてやるのは仕事だよ。でもさぁ、人生のほとんどを組織からはみ出したことのない人たちが、組織から追い出されるって本当にツライことだと思うんだよね。カルチャースクールは女の園だから男が入る余地はないし、だいたい男は素直に教わらないんだよな。

――偉くなっちゃってるから誰かに教えを乞うのが居心地悪いんでしょうね。
昔、幕張で『メディアサーフィン』っていう千葉県が運営するコミュニティ・サロンをやったときに、画期的に成功したモデルがあるんだ。パソコン教室だったんだけど、教わってできるようになったらできない人の先生になるっていう方式で。するとさ、パソコンを触ったことのない客を自分で連れてくるんだ。「なんだ、電源の入れ方もわからないのか」と優越感に浸るために(笑)。つまり、教わるより教えるほうを増やしたほうがいいんだな。

――コミュニティツーリズム(街歩き)は、教えたいおじさまの受け皿として機能していると思います。定年退職組のガイドさんたちは、すごくていねいに資料を用意してみっちり教えてくださいますよ。
モノづくりはできないから、コミュニティに参加するしかないんだよね。基本的に勉強熱心だし、目的を与えられると一生懸命やるんじゃない? 10年ほど前から気になっていたんだけどさ、いろんな地方へ行って朝散歩するとおじさんたちがひとりで公園に座っているんだよ。朝から公園に来るっていうのは、家にいられないからだと思うんだよな。社会に参画できていないから、居場所がなくてさまよったりイラついたりする。お金の有無よりも、社会参加ができていないことのほうが社会不安の底辺にうごめいてると思うんだな。

だからさ、豊かな社会を作るっていう目標はもう終わったわけだから、次の目標設定をして動いていかないと日本は崩壊するよ。
 

良いじいさんばあさんがいない国家は滅びちゃうよ

【橘川放談vol.3】団塊世代のバカヤロウ! 自宅警備ジジィになっちゃダメなんだよ

――受験をがんばっていい大学を出たのに就職がない若者と同じで、定年退職したらいい老後があると信じてきた団塊世代の人たちも「バラ色の老後」が絵空事だったと気づいてイラつく。構造的には同じですよね。
うん。ゴールの先に何かあると思っていたのに何もなくて、「自分で決めろ」って言われて途方に暮れていると思うんだよね。日本の政治も社会も企業というか組織が中心で、それを守るためにやってきたから組織労働者を守ることはあっても、そこから出た人のためには何もない。20世紀は企業間や国家間の組織間闘争のために団塊世代はがんばったわけだ。それが終わって、はみ出してきたら組織とバラバラの個人の戦いの時代になってきている。

インターネットっていうのはそういう個人の場なわけだよな。なのに、相変わらずネットでも「○○会社の△△です」とか言って組織の権威を笠に着て振る舞おうとしても相手にされないわけだな。団塊世代は個人としては社会的に未熟なわけだから、ひとりで生きられる幼稚園教育から始めないと。大学教授とか天下り的なスポットを狙っている人が多いけど、全然違うって。もう一度ひとりで生きることを学ばないと先は長いんだから。同じ世代としてイヤなんだよ。

――自分の世代がうまくいってないのを見るのがイヤ?
そうそう。オレなんかさ、学生時代はアホなオトコだったんだよ。能力はないし、勉強はできないしね。当時は、各大学いろんな同人誌を出しててさ、他の連中はスゴイのを書くんだよ。「あいつら才能あるなあ」と思っててね。ところが、あいつらどうしているかなと思うわけだよな。あんなに才能あったのに、組織につぶされちゃったんじゃないかと思うと悲しいよなあ。

――昔は、おじいちゃんおばあちゃんってゆるぎない存在で、そばにいてくれるだけで安心できる長老めいた感じがあったけど、自分の親世代を見るとすごく不安定に思えるんです。
戦後社会っていうのは、今はもう死語だけど“ヤング”の社会だったんだ。オレらは子どもから大人にならずにヤングになっちゃったわけ。団塊世代っていうのはヤングっていう抽象概念のままで大人になり切れずに生活しちゃったから、老人にもなり切れていないんだよ。もしかしたら親にもなり切れていなくて、意識の上ではアニキ、アネキみたいな友達親子が多いじゃない? 車でも音楽でも、ヤング文化が成長力になって日本の戦後を作って、日本という国そのものがヤング化したけどそれはもう終わったわけだよな。いつまでもやってるんじゃない! というところでふっきれるかどうかなんだ。

じゃあ、次にどういうスタンスでいくかっていうところに来てるんだ。女の人はいいんだよな。昔、何かの本で読んだけど、フランス人が日本人の老婆の笑顔はどこにもないくらいかわいくて世界遺産だと言ってるんだ。今は、いい顔のじいさんが減ってるんだよな。じいさんのいい顔って、職人だったりとか自分の生きてきたことに自信を持ってる顔なんだけど、今のじいさんは自分じゃなくて組織に自信を持ってるわけ。組織から自分へ、アイデンティティをシフトしないとちゃんとしたじいさんになれないと思うよ。

――ちゃんとしたじいさんになれない。
うん。ちゃんとしたじいさん、ばあさんがいない国家って滅びるんだと思うんだよね。しかも、じいさん、ばあさんを下の世代が尊敬しない、わずらわしいと思い始めたら国家なんかあり得ないよ。「ああはなりたくない」と思ったらみんなどこかへ行っちゃうし、次の世代なんか必要ないってことになっちゃう。

――一方で、福祉系の学生と話していると「高齢者に関わりたい」と意欲的な人がわりといるなと思ったりもするんですよね。
ドイツでは、90年代から若者と高齢者、子どものいる夫婦、母子家庭とかいろんな立場と世代の人が一緒に住むシェアハウス『多世代の家』ができてきて、2006年以降は政府が『多世代の家プロジェクト』として助成金を出しているらしい。今は、若者のシェアハウスが流行ってるけど、これから日本でも異世代交流のシェアハウスができてくると思うんだよな。

コンビニなんかでも、おばちゃんのレジ係が増えているじゃない? 若者よりもおばちゃんの方が長く続くし几帳面だからさ。おじいちゃんたちだって、基本的には真面目なんだよ。その真面目さを活かした仕事があると思うんだよね。今までやってきたことを活かして若い世代を育成するとか見守るとかさ。異世代交流がないと社会もピリピリしてきちゃうよ。何であれ、自分の身の回りだけで解決できることばかりじゃないからね。(了)
 
橘川 幸夫(きつかわ・ゆきお)
デジタルメディア研究所代表。72年、音楽雑誌「ロッキングオン」創刊。78年、全面投稿雑誌「ポンプ」を創刊。その後も、さまざまな参加型メディア開発を行う。83年、定性調査を定量的に処理する「気分調査法」を開発。80年代後半より草の根BBSを主催、ニフティの「FMEDIA」のシスオペを勤める。主な著書に『一応族の反乱』、『生意気の構造』(ともに日本経済新聞社)、『21世紀企画書』(晶文社)、『インターネットは儲からない!』(日経BP社)、『暇つぶしの時代』(平凡社)『やきそばパンの逆襲』(河出書房新社)、『風のアジテーション』(角川書店)、『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。』『希望の仕事術』(ともにバジリコ)、iPhone、iPadアプリ『深呼吸する言葉の森』(オンブック) ほか共著、編著、講演多数。Twitter「metakit」

日経ビジネスオンライン『橘川幸夫の オレに言わせれば!』
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20111013/223172/
 

※画像は『足成』より。
 

 

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Kyoko Sugimoto

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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