2ちゃんねるVIP板発 小説『まおゆう』作者が「いかにしてプロの作家になったか」
2ちゃんねるのスレッド「魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る』」に書き込まれた物語が、小説として刊行された『まおゆう魔王勇者』。2012年1月21日には最新刊『まおゆう魔王勇者 5あの丘の向こうに』が発売される。何気なくスレッドに書き込んだことがきっかけで、約1年のあいだに同シリーズの小説を5冊以上執筆することになった著者・橙乃ままれさんに「どのようにしてプロの作家になったのか」について話を聞いた。
――『まおゆう』の構想はいつからあったのですか?
2ちゃんねるに立ったスレッドのタイトルを見た瞬間です(笑) 誰かが「ニュース速報(VIP)板」に立てた「魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』」というスレッドで、立てた人は「勇者が男だと想像した? 女だと想像した?」とだけ書いて、そのままどこかへ行ってしまったんです。するとほかの誰かが「いいから誰か続きを書けよ」と書き込んでいたのを読んで、「じゃ俺がやるか」と。
――「ニュース速報(VIP)板」を知らない人のために説明するとすれば、どういうところですか。
2ちゃんねるの中でも最もダメ人間が集まる、巣窟みたいな場所です。でも基本的には皆、優しい人なんです。愛情表現の仕方が変わっているというだけで。そこで3時間くらい物語を書き込んで、「これでいいかな」と思っていったん離れたあとまたスレッドを覗いてみたら「続きを書け」という声があったので、そこで続きを書いたところから、さらに続いたわけです。
――いきなり3時間も物語を書くのは大変だったのでは?
VIP板は考えるのではなく脊髄反射で書き込むところですから、それほどでもないんです。読んでいる人たちも「続きを書けよ」とは言いますが、要するに「何か面白い芸をやってくれ」という意味であって、「芸の種類」までは指定しないんです。僕が女性だったら「おっぱいうp」とか言われてたかも知れませんけど(笑)。ただ、当時(2009年)は世間的に元気のない時代で、自分自身も身体を壊していた時期なので、「ハッピーエンドで皆が元気になる物語にしたいなぁ」とは考えていました。
――VIP板には辛らつな意見が多いですが、作品への批判はなかったんですか?
VIP板ってスレッドが乱立して流れが早いので、本当にどうにもならない内容であれば、すぐ落ちてしまう(読めない状態になる)んです。ですから、批判が書き込まれているように見えても、実はそうした人たちがスレッドを支えてくれている。皆さん、ちょっとツンデレっぽいところがあるんです。
――そこからどのように作品が拡がっていったのでしょうか。
2009年9月から約3ヶ月間、スレッドに書きこんで、そこで物語はいったん終了したんです。スレッドの人たちも「また何か書いたら応援してやるからな」とか言われて。年が明けて2010年、「まとめサイト」を作ってくれた方がいて、そこからツイッターで拡散していったようです。僕も感想を書いてくれた人には、ツイッターでお礼を言っていました。
――そこで(監修を務めた)ゲームデザイナーの桝田省治氏から書籍化の話があったわけですね。
2010年のゴールデンウィークだったと思います。桝田さんからツイッターを通じて連絡がありました。今だから言えるのですが、最初は「桝田さんの偽者がツイートしてきた」と警戒しました。ちょうどその頃、別の方からも書籍化の話をいただいていたのですが、そっちは話を聞いてみたら「200万円払えば本にします」という自費出版の売り込みで、すごく腹を立てていた時期だったというのがありまして。だから「桝田、お前もかー!」と(笑)。
でも桝田さんの会社のサイトを見たら『まおゆう』を読んだことが書いてあるし、自分自身も時間のある時期だったということもあって、やってみるかと。それくらい軽い気持ちでした。
■「3ヶ月で90万字」書いてプロの道へ
――もともと自身の中で「作家になりたい」という思いはあったのですか?
そういうのはありませんでした。ただ、『まおゆう』を書いた3ヶ月で(文字のデータ量が)1.8メガバイト(≒90万字)になったんです。そのとき「物書きみたいな暮らしもありかも知れない」と、思うようになったんです。VIP板に書き込むうちに鍛えられた部分があるのかも知れません。『まおゆう』以前にも、VIP板に「三十六歌仙」の一人で百人一首に出てくる式子内親王を主人公にした萌え小説を書いていたことがあるんですが、その時はあっという間にスレッドが流れてしまいましたし(笑)。そのうち「こういうタイプの女の子は、こういうシーンで魅力的に映る」という感覚が磨かれたんだと思います。
――VIP板からは今後も新しい才能が生まれていくと思いますか?
それはあるでしょう。創作コミュニティは上手な人が出てくると、だんだん敷居が高くなるんです。でもVIP板には「いいんだよ、ヘタクソで」と言ってくれる文化があるので。下手な人でも参加できるんですよ。
それとニコニコ動画にも同じことが言えるのですが、ネット文化って基本的に「贈与文化」なんですよ。「見返りを求めることなくプレゼントできる人は精神的に豊かである」という考え方が底に流れている。だから、これからも「豊かな人たち」が作品を生み出し続けると思うんです。VIPやニコニコ動画には、観る側にも「一緒に楽しんでやろう」という心意気がありますしね。
――しかし、そこからプロになるのは難しいのではないでしょうか。
プロになるための一番高いハードルは、自分のなかにある「この程度の技術じゃ、認められないよな」という考えです。なにか厳正な審査や試験があってそれに選ばれたエリートだけがプロになれるという考えは間違いだと思います。プロなんて”ちょろい”ぜ! という意気込みで飛び込んでしまえば、きっと周囲も担当さんも応援してくれます。特にネットではいくらでも場数を踏めるので、作品を投稿してみるとか友達に見てもらうとか、いろんな道からプロになる方法はいくらでもあると思います。
◇関連サイト
・[ニコニコ静画] 『まおゆう魔王勇者』駄肉イラストコンテスト
http://info.nicovideo.jp/seiga/maoyu_daniku/
・[ニコニコ漫画] まおゆう4コマ「向いてませんよ、魔王様」
http://seiga.nicovideo.jp/manga/maoyu
・[ニコニコ静画] 電子書籍『まおゆう魔王勇者』
ウェブサイト: http://news.nicovideo.jp/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。