「ネットも祭りもあるがペンギンには近づけない」元越冬隊員が語る南極観測の実態とは?

第50次南極観測隊の村上祐資氏(左)と森澤文衛氏

 南極観測船「しらせ」が2011年11月11日午前、第53次日本南極地域観測隊越冬隊を乗せ、東京・晴海埠頭から南極へ向けて出港した。同日夜のニコニコ生放送では、かつての第50次南極観測隊の村上祐資氏、森澤文衛氏をゲストに迎え、両氏から「しらせ」や昭和基地を中心とする観測業務、南極での生活の様子など実体験が語られた。

 番組冒頭、視聴者へ行われた「南極にどのような目的で行きたいか?」というアンケートでは、最多が「旅行なら行きたい」で48.8%、次いで「観測隊に参加したい!」が25.9%。その一方で、「寒いのは無理・・・」が18.4%と、極寒のイメージを感じさせたが、村上氏の

「寒いのは慣れますからね。マイナス15度は半そででいける感じにそのうちなる」

という発言には、視聴者から驚きの声(コメント)が多く寄せられた。

 南極の昭和基地に残るのは、継続観測のいわゆる「越冬隊」の28名で、各自が役割と目的を持つまさに「同じ釜の飯を食う」間柄だと両氏は説明する。特に村上氏は研究のため長期基地を離れた経験から「一人では生きて行けない」と述べ、森澤氏は

「メンバーも必要最低限に絞り込まれているので、誰が欠けても命が危ないことになりかねない中でやっている。自分も命を預けるし、周りの人も命を預かって一年間過ごす」

と、観測隊の強固な絆をうかがわせた。

■南極にも「ネット」と「祭り」はある。だがペンギンには近づけない

理髪係の村上氏が、森澤氏の頭に描いたペンギン模様の髪型

 両氏は南極で越冬隊が過ごす、実際の昭和基地の観測環境についても説明してくれた。ネット環境は衛星通信で接続しているためメールやWeb閲覧は出来るが、帯域が広くないのでニコ動は厳しいという。またペンギンには生物研究を除き5メートル以内には近づけない、犬を南極に連れていけないといった南極条約の制約や、太陽が一日中出ない「極夜」時には気が滅入らないように各国の基地で行われるパーティのなどの楽しみ、さらには南極での活動や風景などが写真で紹介された。

 一方、苛酷な環境ゆえに隊員にも多くのことが要求され「先端技術の結集というイメージがあるが泥臭い」「リーダシップ、フォロワーシップという2つの資質がバランス良く必要」と村上氏は話す。

 また視聴者からの「自然の匂いに敏感になるのか」という質問に、森澤氏は「何の匂いもない空気に驚いた」と述べ、村上氏は「極夜前後の灰色の世界の時は、食事の色がうれしかった」「見えない氷の裂け目を感じた」と、五感の変化について言及した。

 南極から日本に帰ってきた後、森澤氏は満員電車が怖くて降りたと言い、「周りに無関係の人間がいるのが不安な感じだった」と心理面の変化を話す。村上氏もまた「南極だとペンギンは僕らを警戒する。お互いに警戒する、そういう自然な関係が東京に帰ってくるとない。前から人が来たら警戒するが、(相手は携帯だけ見て)何も見ずにぶつかってくる」と述べた。

 そして最後に村上氏は、

「越冬していたとき、自分たちの力は強いと思っていたが、昭和基地を離れてヘリで飛び立つときには、人間の小ささと南極・自然の大きさをあらためて感じた」

と語り、また森澤氏も「南極で素の地球を目の当たりにし、すごさを感じた」と述べ、今後も自然と人間の関係を踏まえた南極観測をつないでいくことの重要性を伝えていた。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「南極でネットはできる?」から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv70377007?po=news&ref=news#23:35
・南極観測のホームページ – 公式サイト
http://www.nipr.ac.jp/jare/

(登尾建哉)

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