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「損得抜きの人生にこそ光が宿る」――丸山健二の「怒れ、ニッポン!」第10回

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※丸山邸にて

怒れ、ニッポン!

全否定の言葉を並べ立てているわけではない。肯定や称賛に値する特質を知らないわけではないが、それはもうそれだけで輝いていることだから、改めて取り上げる必要がないのだ。不必要なそれらをわざわざ持ち出して否定的な部分を帳消しにし、そこに安易な希望を見いだそうとするのは危険な行為だ

ここでつぶやかれた言葉を単に溜飲を下げるためだけの目的で読んできた者は、その矛先がどうやら自分にも向けられているらしいことに気づくや、安全な牙城と信じきっているおのれの心が踏みにじられたような不快さを覚え、鬱陶しいと感じ、責任の一端を背負わされることを嫌って、そっと立ち去る。

国家を牛耳る特定少数のどこまでも我欲的な連中は、ついに怒らない若者を育てることに成功した。致命的な原発事故の発生によってその事実が鮮明になった。世間の片隅でひっそりと私的な暮らしを楽しみ、または、すいすいと泳いで社会の荒波を乗り切ろうとする若者。どんな大人になるつもりなのか。

日本にオリンピックを招致する余裕などあるわけがない。関東大震災の二の舞が間近に迫っているというのに、そのために備えておかなければならないことが山積しているというのに、そんなどうでもいいことを本気で計画するなんて神経と頭の両方を疑ってしまう。希望につながる未来は安全の確保のみ。

いい若い者が目先の欲と目先の利害のみにこだわりつづけ、それ以外のことに目をつぶっているあいだに、暴利をむさぼろうと日夜画策している狡猾なおとなたちが、この国をどんどん駄目にしてゆく。いい若い者が今から社会の力関係に気を配った生き方をしてどうする。損得抜きの人生にこそ光が宿る。

若い者たちの感情が希薄に思えるのは、喜怒哀楽のうちの「怒」がすっぽりと抜け落ちているからだ。「怒」の代わりを「諦」が埋めている。諦念こそが権力者を喜ばせ、のさばらせる最大の条件だということを忘れてはならない。連中はまさにそれを待っているのだ。真っ当な「怒」は正義の扉をたたく。

(つづく)

丸山健二氏プロフィール1943 年 12 月 23 日生まれ。小説家。長野県飯山市出身。1966 年「夏の流れ」で第 56 回芥川賞受賞。このときの芥川賞受賞の最年少記録は2004年の綿矢りさ氏受賞まで破られなかった。受賞後長野県へ移住。以降数々の作品が賞の候補作とな るが辞退。「孤高の作家」とも呼ばれる。作品執筆の傍ら、350坪の庭の作庭に一人で励む。Twitter:@maruyamakenji

※原稿は丸山健二氏によるツイートより

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