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家族の崩壊を描く衝撃作『葛城事件』赤堀監督インタビュー「明確に言語化できない“現在の雰囲気”を掴みたい」

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粗暴な父と言いなりの母、リストラされた兄に無差別殺人を犯す弟……。壮絶な人間関係と家族が崩壊していく姿を、緊張感たっぷりの描写で描いた映画『葛城事件』が6月18日より公開となります。

本作の監督・原案・脚本を手掛けたのは赤堀雅秋監督。赤堀監督が以前手掛けた同名舞台が基となっており、監督の強い想いがこめられた一作となっている。

今回ガジェット通信では赤堀監督にインタビューを敢行。今年の邦画を代表する衝撃策である『葛城事件』について、色々とお話をうかがってきました。


―本作とてものめり込んで、集中して、緊張して観させていただきました。まずお伺いしたいのは、この映画を撮ろうと思ったきっかけなのですが。

赤堀監督:舞台でも、どの創作でもそうなんですけど、現代の家族の問題や死刑制度への問題提起などの具体的なメッセージが初期衝動ではありません。僕は社会派の作家ではないので(笑)。ただ明確に言語化できない「現在の雰囲気」みたいなものを掴み取りたいとは常に思っています。

―本作を観て色々な事件を連想する方も多そうですね。

赤堀監督:舞台の基となったのは実在の事件でしたが、映画にする際、プロデューサー等と色々話し合って方向性を変えました。舞台では先天的なモンスター、いわゆるサイコパスを描いていましたが、映画ではもっと後天的などこの家庭にでも起こりうるであろう可能性を秘めた人物描写を目指しました。観客に対しても自分自身にも言っている事ではあるのですが、これは対岸の火事では無い、私たちと地続きにある物だという想像力を喚起したいなという想いで作りました。

―出演した俳優の皆さんの演技が凄まじかったのですが、それぞれの起用の理由を教えていただけますでしょうか。

赤堀監督:舞台では葛城清を僕が演じたのですが、その当時から「この役三浦友和さんがやってくれたらいいな」と無邪気に言っていたみたいで。今回改めてキャスティングの際に、とにかく三浦さんしか浮かばなかったですね。後日談として三浦さんが「他の人が演じる事は想像したくなかった」と聞いて、とても嬉しかったです。

―そもそもなぜ、三浦さんだったのでしょうか。

赤堀監督:もう単純に佇まいというかインスピレーションしか無いのですが。どんな役柄でも人間を演じるにあたって、キャラクターを安易にカテゴライズ出来るものでは無いんですね。どんな人間にも色々な側面があって、複雑怪奇に入り組んでいる。当たり前の話ですが(笑)。「こういう人間だ」と言い切れるものでは無いんですね。でも、フィクションにする際にはどうしても「こういう人間だ」と演じる側も演出する側も決めてしまいがちです。僕はなるべくそういった発想は避けたい。だから表現者として多面性のある俳優が好きです。清というキャラクターは、吐き気がするくらい嫌な人もいるだろうし、どっか憎めない部分を感じる人もいるだろうし、そういった複雑さを演じてくれるという事で三浦さんが浮かんだのだと思います。

―なるほど、粗暴な男だからこう、と決めつけないという事ですね。

赤堀監督:他のキャストの皆さんも同じ理由です。田中麗奈さん演じる星野順子も、ともすれば新興宗教を妄信する人物かのようにエキセントリックに表現されてしまいがちだけど、彼女にだって日常の生活があって、映画では描かれていないバックボーンがある。そんな人間の多面性を表現してくれるという意味でも、田中麗奈さんは素晴らしい女優さんだと思います。もちろん南果歩さんや新井浩文さん、若葉竜也さんも同様です。


―葛城稔役の若葉竜也さんは、私は他の出演作を拝見した事が無かったので、とても驚きました。

赤堀監督:稔役はオーディションを行いました。若葉君は満場一致で決まりました。とても穿った見方ですけど、もしかしたら彼の実際の家庭環境が、葛城稔という役の理解を深めた部分もあるかもしれませんね。

※編集部注:若葉竜也さんは幼少時代から大衆演劇で活動し、「チビ玉三兄弟」の愛称で人気を博した。

―ではあまり監督から演技指導をする事は少なかった?

赤堀監督:演技指導という問題ではなくて、殺人者を演じるという事は安易ではありません。それは演技が上手い、下手という事では無くて。現場では「稔はどういう人間なんだろう」と若葉君と共に考え続ける日々でした。おかしな言い方かもしれませんが、ちょっと油断すると彼を愛してしまう。同情してしまう。ただこの作品は加害者側から描いたもので、そういう目線は一切排除しなければならないと、常に自問自答を繰り返していました。だから彼には相当な苦労をかけたと思います。
その自問自答は編集の段階においても続きました。稔に限らず、どの人物に対しても愛情があります。それでも同情してはいけない作業は矛盾の極致で、とても苦しい作業でした。

―だからこそ、私が映画を観た時に感じた凄まじい緊張感が生まれたのだと思います。本作は食事のシーンも印象的ですね。

赤堀監督:コンビニ弁当ばかり食べているという描写は少しステレオタイプかなとも思いますが、やはりどう考えても、あの家族は愛情ある手作りの物は食べていない。もちろんコンビニ弁当がいけないという事ではなくて、ああいった思考停止の積み重ねが家族の崩壊を生んだ要因の一つなのだと思います。

―そういった「自分にもあるな」という描写の積み重ねが、「自分もこうなる可能性があるのだ」という恐さを後押ししてきますよね。観た後に誰かと色々と話したくなる作品だと思います。

赤堀監督:そうですね。僕の作品は一人で来る観客層ばかりのような気がしてますけど(笑)、これは家族、友達、出来れば誰かと観に行って欲しいですね。恋人同士で観て、観終わった後に話し合ったら、お互いの家族に関する考え方が分かって良いと思います。「よく分からなかった」とか言うような野郎だったら、女子は別れた方が良い(笑)。結婚を考えている人なら尚更です。もちろん何が正解という事ではなく、とにかく『葛城事件』の家族を観て、何かしら感じていただけたら幸いです。

―今日は大変貴重なお話をどうもありがとうございました。


『葛城事件』ストーリー
親が始めた金物屋を継いだ葛城清は、美しい妻・伸子と共に2人の息子を育て、念願のマイホームも建てて理想の家庭を築き上げたはずだった。しかし、清の強い思いは知らず知らずのうちに家族を抑圧し、支配するようになっていた。長男の保は従順だが対人関係に悩み、会社をリストラされたことも言い出せない。そして、アルバイトが長続きしないことを清に責められ、理不尽な思いを募らせてきた次男の稔は、ある日突然、8人を殺傷する無差別殺人事件を起こす。死刑判決を受けた稔は、死刑制度反対を訴える女・星野が稔と獄中結婚することになるが……。

http://katsuragi-jiken.com

(C)2016「葛城事件」製作委員会

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記者:

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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