衝撃的なラストが話題! 映画『団地』イベントで阪本監督が熱弁「映画の制作委員会は“分かりやすさ”をはき違えている」
実在した女性逃亡犯の内面を圧倒的リアリティーで再現し、映画賞を総なめにした傑作『顔』から16年。日本演劇界が誇る舞台女優、 藤山直美と阪本順治監督が再びタッグを組んだ最新作『団地』が公開中です。
『団地』ストーリー
三代続いた漢方薬の店を売り払い、団地へ越してきた清治とヒナ子夫妻。昼間から散歩ばかりの清治に団地の住人たちはあれこれと噂をしているようだが、ヒナ子はそんなことも気にせずパートに出かける毎日を送っていた。清治が散歩に出なくなり、ヒナ子の家にスーツ姿の若い男が出入りするようになると、離婚、清治の蒸発、さらには殺人か、などと好き勝手なことを噂される始末。ヒナ子夫妻にまつわる噂はさらに拡大し、警察やマスコミまでをも巻き込む事態へと発展するのだが……。
本作の公開を記念し団地好きクリエイターからなるユニット〝 団地団“によるトークイベント「団地団夜」が開かれスペシャルゲストとして阪本順治監督が登壇。話は今夏、映画界で起こっている団地ブー ムから始まり、本作についての細やかな検証、阪本監督のフィルモグラフィーを遡り、いまの映画業界の在り方に至るまで、お酒も交えて 阪本監督もフル参加の3時間を超える熱いトークイベントが繰り広げられました。
「団地団」メンバー:大山顕(写真家)、佐藤大(脚本家)、速水健朗(ライター)、今井哲也(漫画家)、山内マリコ(作家)、稲田豊史(編集者)
スペシャルゲスト:阪本順治監督
※団地団(@danchi_books)とは?
2010 年 12 月、新宿ロフトプラスワンのトークイベントで結成。メンバーが、それぞれの立場から、映画、マンガ、アニメなどに登場する団地について深く考察して大放談を繰り広げ、不定期でトークイベントを開催中。
今まで、第一波、第二波と団地映画の波があったが、今年に入って『桜の樹の下』 (田中圭監督)、『海よりもまだ深く』(是枝裕和監督)、そして『団地』とここへきて巨匠たちの団地映画が続々公開。「第三の波がきているんですよ!」と佐藤さんが切り出し、メンバー各々、「団地のノスタルジーを描くのが大嫌いなんですけどそうじゃない所がこれは良かった(大山)」「漢方薬を作るシーンがいちばん好き、冷蔵庫のタッパーの詰まり具合が最高(稲田)」「野原と宇宙船の境目が分からないのが良い(今井)」「ぽかーん! となったが関西人一流のギャグだったのか(山内)」と早くも白熱。
これらの言いたい放題に阪本監督は「僕は藤山直美さんを遠くに連れていきたかった、藤山さんとだから SFをやろうと思ったんだよ!」と告白する一幕も。
本作のストーリー中盤からの〝SF“的な要素について「阪本監督といえば、社会派、野郎の骨太な活劇といったイメージがあるが、同じ人 が書いたとは思えない。今回は一体なぜ……?」という問いかけに対し、阪本は「(SFは)昔から好き。僕の家は仏壇屋をやっていたんだけど、亡くなった人はどこにいくのか、そもそもビッグバンはどこで起きたの? とか考えていました。俺だってゴジラだって、スペースものだって、やってみたい!(笑)」とまさかの発言に会場からは笑いが起りました。
「『団地』はいわば(僕の)死生観が反映されていて、斎藤工くんが演じた役に代弁してもらっている所があるかもしれない。当たり前だと思っていることが実はそうで はなくて、僕らの知る由もないことがこの世にはあり得ると思うんですよ」と阪本監督。
そして、佐藤さんが脚本家ならではの視点で「(本作は)シナリオ学校だったらダメだと言われるような、(観ている人を混乱させるような)時系列のセオリー外しをしている、掟破りでは……?」との問いかけに阪本監督は「分かりやすさをはき違えている、こんな業界ですからね。そういう事でいうと今まででいちばん思い切って作った、これほど人(観客)を信頼した映画はないです」とキッパリ。
「観客を信じて作ってます。勝手にどんな解釈をされてもそれは自由。若い頃の僕も、映画を観てはよく分からないけど背伸びして必死でどう いう事だろうと考えてましたから。映画業界の製作委員会で企画を成立させるために言い続けている“分かりやすさ”というのはお客さんをばかにしているわけですよ」と断言。この業界に物申す発言に団地団、会場が一斉に深く頷き拍手が起こりました。
最近の映画業界を「第一線を走り続ける長男(東宝)も必要でその後を追う次男、三男がいなくて、君どこの子?っていう状態」だと独 特の表現で表し、「商品でもあるけど、作家性もあるものが昔はあった。何にもできないけど58歳のオッチャンがこんなの撮るんやで、っていうのを少しでも観てもらえれば(笑)」と力強い言葉で締めくくった阪本監督。団地トークから映画論まで、熱く盛り上がったイベントは大盛況のうちに幕を閉じました。
映画『団地』は有楽町スバル座、新宿シネマカリテ他全国公開中。
(C)2016「団地」製作委員会
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。