ファンがアイドルを襲う事件は昔のほうが多いのです。(少年犯罪データベースドア)

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ファンがアイドルを襲う事件は昔のほうが多いのです。(少年犯罪データベースドア)

今回は管賀 江留郎さんのブログ『少年犯罪データベースドア』からご寄稿いただきました。

ファンがアイドルを襲う事件は昔のほうが多いのです。(少年犯罪データベースドア)

シンガーソングライターの女性がストーカーに刺されて重傷を負った事件で、何故だかマスコミはヲタがアイドルを殺そうとしたという誤った図式を前提として報道していてケシカランという話があるようです。

「アイドルでもないしヲタでもない!小金井刺傷事件の報道に感じるモヤモヤ|ほぼ週刊吉田豪」 2016年5月24日 『東京ブレイキングニュース』
http://n-knuckles.com/serialization/yoshida/news002249.html

そんなマスコミの出鱈目さを非難している方々も、近頃はアイドルとファンの距離が近くなったためにこのような事件が起るという見方をしている人が多いようです。
しかし、芸能人が雲の上の存在だった昔のほうが、女優や歌手を襲う事件は多かったのです。
ストーカーだけではなく、金目的の犯行も含めて下に並べましたので、ご覧いただければ。
これはあくまでも少年犯罪の一部だけです。
昭和38年にファンの男(26)が吉永小百合(18)に自分の名前をイレズミするため針と墨汁を持って自宅に侵入、駆け付けた警官を手製のピストルで撃って重傷を負わせ、逃げようとした小百合さんは階段から転げて捻挫したりと、成人の犯行は何倍もあります。
昔の雑誌はファンレターの宛先として芸能人の自宅住所をそのまま載せていたということもありますが、昭和38年に橋幸夫(20)がステージ上で劣等感を晴らそうとした男(32)に軍刀で斬られるとかコンサート会場で襲う事件も多いので、それだけが理由ではないのです。
昔はストーカー殺人が連日のようにあったので、芸能人を襲う事件は比較的少なかったとも云えるのですが。
また、江戸時代のアイドルだった遊女を殺そうとする事件が頻発していたことは、「江戸時代のモテない男の無差別殺人事件」*1を読めばお判りいただけるかと。

*1:「江戸時代のモテない男の無差別殺人事件」 2008年12月24日 『少年犯罪データベースドア』
http://blog.livedoor.jp/kangaeru2001/archives/51820359.html

マスコミだけではなく、人前で何事かを語ろうとする方は、この程度の基礎的データは踏まえて発言していただかないと、誤った前提を基に社会制度が作られたりすることにもなるので大変困ります。
データの裏付けがないまま出鱈目なことを云うのは、宇宙人の電波を脳内に受けて訳の判らないことを口走る危ない人と変わりません。
いまはどこの図書館でも全国紙の過去記事が検索できますし、少年犯罪データベース*2を見れば、ここに掲げた事件はすべて載っていて、手軽に知るこができるわけですから。

*2:『少年犯罪データベース』
http://kangaeru.s59.xrea.com/

人は何故か、すぐに調べれば判るような目の前の現実を無視して、一見もっともらしい図式に飛びついて、それを正しいと思い込んでしまいます。これは、じつは何百万年に渡る進化から形成された人間の本性であることを、新著『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか 冤罪、虐殺、正しい心』*3で解き明しております。

*3:「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか ~冤罪、虐殺、正しい心」 管賀 江留郎(著) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4800307457/

さらに、振られたり、ちょっとしたことでカッとして人を殺そうとするのも、じつは進化が人間にもたらした道徳感情から来る行動だということも説いております。
ほかの動物ではほとんど見られない<間接互恵性>の<評判>獲得意識と、その評価のために身に着いた<因果推察>能力が関係しているのです。
<間接互恵性>は人間社会を成り立たせるために大切なものですが、それによって現実が視えなくなって、社会全体に大きなダメージを与えることもあります。
克服するには拙著にも記したように、客観的データをできるだけ多く集めて判断することが重要です。
情報の蓄積こそが文明の基礎ですが、国家などの大きな組織ができてまだ一万年で、身体や脳の進化が追いつかない部分をこういう仕組みで補うことで、人類は辛うじて滅亡せずに生き延びたわけです。
皆様方も文明の担い手のひとりとして、なにか発言する場合は必ずデータの裏付けを持ち、データを持たない場合は発言を慎むようにいたしましょう。

ストーカー殺人を含めて殺人事件が大幅に減ったのは、社会構造の変化により、<評判>の位置づけが変わってきたためだということを、『戦前の少年犯罪』*4の続編である戦後編で解明することになるのですが、これがなかなか厄介で、頭が痛いです。

*4:「戦前の少年犯罪」 管賀 江留郎(著) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4806713554/

進化心理学を探究して、<間接互恵性>の<評判>や<因果推察>についてよく知り、道徳感情に突き動かされてこういう事件を起してしまう人間をうまくコントロールすればストーカー殺人などもさらに減らすことができるのですが、そのためにも一番大切なのは正しいデータの蓄積なのです。

昭和29年(1954).2.9〔17歳が女優宅にストーカー放火〕

東京都世田谷区で、コック見習い(17)が女優の嵯峨美智子(20)が下宿している家の板塀にガソリンをかけて放火しタクシーで逃走、翌日に新聞で家が燃えなかったことを知って「またやるから覚悟しろ」と脅迫電話をかけ、2.11に逮捕された。たびたびファンレターを出していたが返事が一度しかなかったのを恨み、放火すると脅迫状を出していた。

昭和31年(1956).6.26〔高2が川上哲治選手を脅迫〕

東京都世田谷区で、都立高校2年生が川上哲治選手(36)に「友人が会社の金を落とし、娘を芸者に売って穴埋めしようとしている。あなたの力で貸してくれないか」という手紙を出し、「金をもらいに行くから用意しておけ」という脅迫電話をしてから自宅にやって来たので張り込んでいた警官に逮捕された。

父親が病気のため授業料を払えなかった上に、上級生から金を貸せと脅されて、投資信託で大儲けした川上選手なら出すと思ったと自供。

昭和32年(1957).1.13〔19歳が美空ひばりに塩酸かける〕

東京都台東区の浅草国際劇場で、女中(19)が客席から上がって舞台脇で出番を待っていた美空ひばり(19)に、塩酸300グラムを浴びせかけた。左顔面、胸、背中に3週間のヤケド。
「ひばりちゃんに夢中になっている。あの美しい顔、にくらしいほど、みにくい顔にしてみたい」と書かれたメモがバックのなかにあった。

昭和32年(1957).2.27〔19歳2人が京マチ子を脅す〕

東京都世田谷区で、法政大1年生(19)と店員(19)が京マチ子(32)に「13万5千円を持ってこい。警察に知らせると硫酸をぶっかけるかダイナマイトで自動車ごと吹っ飛ばす」という脅迫状を出し、脅迫電話も掛けた。京マチ子そっくりの女優が現金を持って指定場所で待っていると、2人で現れたので逮捕された。
「成功すればその金で家を借り、不良を集めてさらに大々的に有名人を脅迫するつもりだった」と自供。2.10に中日の西沢道夫選手を「十万円よこさないと硫酸かける」と脅して逮捕された無職(26)の記事を読んで、自分ならもっとうまくやると思ったもの。裕福な工場経営者の息子で、月に7千円のこづかいをもらい、風俗店や銀座のバーに通っていたが金には困っていなかった。この年の大卒銀行員初任給1万2700円。

昭和32年(1957).3.1〔16歳が島倉千代子殺害計画〕

神奈川県横須賀市の無職少年(16)が、国電品川駅で無賃乗車で捕まったが、ナイフを所持しており、島倉千代子(18)を殺すつもりだったと自供した。これまで何十回も電話して自宅まで訪れて逢うように求めたが拒絶されガラス戸をこわしたりしたが、とうとう殺害を計画しナイフを買って上京したところだった。

昭和32年(1957).12.16〔18歳が甥を誘拐殺人〕

愛知県碧南市で、無職(18)が兄の息子(6)を誘拐して絞殺、小学校内の貯水池に沈めてから「60万円よこせ」という脅迫状が何通も出したが、警察の警戒が厳重で金を受け取ることはできなかった。翌年5.21に小学4年生が腐った子供の足首を釣り上げ、死体を発見、重しとして結びつけられていた鉄棒が無職のものだったため逮捕された。

6.17に雪村いづみに脅迫状を送り、金を受け取りに現れたところを逮捕され、7月に少年鑑別所を出所。風俗嬢と結婚する資金を得るため、石原慎太郎・主演の映画「危険な英雄」にヒントを得て、誘拐してすぐに殺害してから身代金を取る計画を立てたもの。警察は最初から無職が犯人だと睨んでいたが証拠がなく、兄は絶対に違うとかばい続けていた。中2の時にこの池で溺れていた子供を救助して表彰されていたが、助けたのは発見者の4年生だった。

昭和33年(1958).12.26〔17歳が淡島千景宅に強盗〕

東京都大田区で、無職(17)が淡島千景(34)の自宅に強盗に入り、女中を脅して現金2千4百円を奪ったが、すぐに逮捕された。24日に岡山県御津郡から上京するも金がなくなり、雑誌で知った女優にめぼしをつけてオモチャの拳銃を使って押入ったもの。

昭和34年(1959).4.15〔家出少年ふえる 歌手や俳優志願 断わられると強盗も 読売新聞引用〕

(前略)昨年は都内で保護された家出少年が1万5839人、三十二年より3142人も多く、家出人総数(2万209人)のうちで占めた割合が73.72%と戦後の最高を記録した。家出の動機をみると、東京へのあこがれと職さがしが40%に達しているが、これにつぐ新しい傾向としてでてきたのがノド自慢大会などの流行による“芸能人になりたい”“顔をみたい”などの家出。
このため同課(※警視庁少年課)が都内各署を通じ歌手、俳優、舞踏家、落語家など芸能人873人の協力を求めてさらに調べたところ、昨年中の“あこがれ少年”の訪問数は4418人で、この大部分が家出少年とわかった。この統計によると、15歳が25%で886人、14歳が15.4%となっているが、半数は中学生、ついで高校生、小学生、商店員、女中の順で大学生も15人いた。
訪問の目的は“顔がみたかった”という単純なものが93.6%、また再三ファン・レターを出したが、返事をくれないので山口県から出てきた少女(18)などもいるが、“芸能人になりたくて”(5.3%)のなかには、農村の生活にあきたらず、声がいいとおだてられて青森県から家出したもの、断られてもなにか他に仕事を世話してくれるだろうと石原裕次郎を頼って富山県から出てきた少年などもある。
あこがれる芸能人の順序は歌手がトップに俳優、プロレス、野球選手と続き、家出少年の出身地は全国的だが、大阪、新潟、青森、愛知各県が目立っている。もちろんほとんど門前払いで保護者、児童相談所に引き渡しているが、強引に粘って女中として俳優に引き取られた少女が一人、浪曲、プロレスの弟子入りもそれぞれ一人ずついる。また逆に面会強要で検挙されたのが二十人、ヤケのあまり芸能人宅で強盗、窃盗、恐かつ、投石などのいたずらを働いたもの六人。
そのおもな例としては▽千葉県の無職少年(16)は昨年四月二日、十二月三十日の二回少女歌手の松島トモ子さんに脅迫状を送り「二百万円送らねば命をもらう」とおどし碑文谷署で検挙。また▽目黒区高校二年生(17)は歌手にあこがれ、楽器やテープレコーダほしさから昨年十二月までに歌手大津美子さんら数人の歌手宅の郵便箱をこじあけ、現金入りのファン・レターなど二十万円を盗み、本年一月二十四日検挙、などがある。(後略)
(読売新聞4・15夕刊)

昭和35年(1960).1.23〔16歳が島倉千代子に爆弾〕

東京都港区で、工員(16)が島倉千代子(22)の自宅を爆破しようとして逮捕された。高知県須崎市の中学を卒業して上京してから熱狂的ファンとなり、1.3から「家を爆破する」という脅迫状を4通出し、1.10には自作のダイナマイトを投げ入れ玄関で爆発させていた。1.23に自作のダイナマイトを持って家の前をうろついているところを警官に見つかり、ナイフで切りつけてきたが取り押さえられたもの。

昭和36年(1961).5.7〔18歳が丘さとみ殺害計画〕

京都府京都市で、工員(18)が女優の丘さとみ(25)を殺すつもりでナイフを所持していたため殺人予備罪で逮捕された。東映時代劇のお姫様役で大人気だった丘さとみの熱狂的ファンとなり、映画はすべて観て、ファンレターも出していたが、殺さなければ自分が破滅すると思い込み、4.28に埼玉県大宮市から京都にやってきて丘さとみの自宅前の電話ボックスで毎日待ち伏せたが、常に母親や友人と連れ立って出入りするので実行できず、警察署を訪れて金を送るように家に連絡して欲しいと頼み、取り調べられたもの。
「私はある人を殺しに京都へきた。わたしはこの人に心をひかれてこれまでにも、しばしば京都にやってきたが、今度はその人を殺して自分のものにするつもりだった。しかしいいチャンスがなかったので目的を乗たさなかった」という手紙を逮捕された日に投げ込んでいた。手紙は京都新聞5.8夕刊引用。

昭和41年(1966).5.9〔18歳がこまどり姉妹と心中図る〕

鳥取県倉吉市の市福祉会館で公演中の舞台で、農業手伝いの少年(18)がこまどり姉妹の並木葉子さん(26)を刃物で刺し、1ヶ月の重傷を負わせた。心中を図って、自身も舞台上で腹を刺し1ヶ月の重傷。これまで何度も結婚を迫る手紙を出していた。性格はやや内向的だが、ごく普通の少年だった。広島高裁で2~5年の不定期刑となったが、1年後に首吊り自殺。

昭和41年(1966).7.29〔19歳日大生が都はるみの妹刺傷〕

東京都港区で、日大法学部2年生(19)が都はるみ(18)の自宅に押しかけ、都はるみの妹(16)に切りつけて2週間の傷害を負わせて逃走、8.1に逮捕された。熱狂的ファンで、これまでもたびたびやって来ていたが、家族がドアチェーンをしたまま応対することに腹を立て、10日前に包丁を買って復讐にきたもの。「入れてくれないのが悔しくて。後のことは何も考えなかった」と自供。

昭和42年(1967).10.12〔17歳が園まりと心中する練習のため殺人と通り魔〕

埼玉県南埼玉郡の食品店で、工員(17)が顔なじみの主人(29)を刺殺。鉄棒で妻(27)を殴打して3週間のケガを負わせた。6.4には路上で女子工員(20)を鉄棒で殴りつけ3ヶ月の重傷を負わせていた。

福岡県糸島郡の農家の末っ子で、中卒後は埼玉の工場でまじめに働いていたが、園まり(23)のファンになってから性格が一変。他のファンに負けじと借金をしてまでがんばっていたが、次第に「独り占めにしたい。その為には殺すしかない」と思い詰め、度胸をつける練習のため一連の犯行を犯したもの。

昭和48年(1973).10.7〔16歳ら5人が長嶋茂雄誘拐計画〕

神奈川県川崎市の社員寮に住む少年工員(16,18)と工員(22,24,25)の5人組が、長嶋茂雄選手(37)の誘拐計画を立てて逮捕された。「どうせやるなら世間をあっと言わせてやろう」と天地真理(21)を狙ったが所在が判らないため長嶋に変更、車に追突して出てきた長島選手をナイフで脅して家族を縛って現金を奪う計画で実行したが車を見失って失敗。19歳が弱気になって警察に届けたもの。主犯の24歳は去年に大阪の金物屋に日本刀で強盗に入り40万円を強奪していた。

昭和58年(1983).3.28〔19歳が松田聖子を殴る〕

沖縄県沖縄市の体育館で、少年(19)がコンサート中のステージに上がって松田聖子(21)の頭を金属棒で数回殴って軽い打撲傷を与え、取り押さえられた。彼女の大ファンで、事件を放送して有名になりたいと自供。高校卒業後からノイローゼで精神病院に入院しており、外出許可を取って埼玉県入間市から来ていた。

昭和63年(1988).7.8〔中2が両親と祖母刺殺〕

東京都目黒区の自宅で、中学2年生(14)が父親の会社役員(44)、母親(40)、祖母(70)を殺害した。友人(13)が数万円で殺人の手伝いを頼まれて朝4時にやって来たが、中2生が祖母の首に電気コードを巻きつけたのを見て怖くなって逃げていた。両親は教育に厳しく冷たかったので、就寝中に金属バットで殴り、目を覚ました父親にバットを取り上げられると包丁で、父親37回、母親72回、祖母56回めった刺しにしたもの。別の友人に犯行を打ち明けて死体を見せ、この友人が教師に告げて警察に通報され逮捕された。

サッカー部に所属し、礼儀正しく明るい性格で人気者だったので周囲は皆驚くが、数ヶ月前から友達数人には親を殺すと話していた。また、大ファンだった南野陽子をレイプして自殺するが、迷惑を掛けるので先に家族を殺すと1週間前に打ち明けており、南野陽子のスケジュールを調べて7.8をその決行日と決めていた。初等少年院に長期収容となった。

執筆: この記事は管賀 江留郎さんのブログ『少年犯罪データベースドア』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2016年05月28日時点のものです。

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