全国に波及するフジテレビ抗議デモ 「木を見て森を見ず」と一部で疑問の声も
「フジテレビの放送が偏向している」などとして、同社に対する抗議デモが全国で立て続けに行われている。2011年9月16日には、フジテレビの番組スポンサーのひとつである花王の製品不買を呼びかけるデモにまで飛び火した。一方、このような抗議運動に対して一部で疑問の声が上がっており、立教大学の砂川浩慶准教授(メディア論)は、「木を見て森を見ていない感じがする。狭いナショナリズムに行きそう」と憂慮する。
■デモ参加者が指摘する「偏向放送」とフジテレビの回答
デモ参加者が指摘するフジテレビの偏向放送とは、番組編成が韓流ものに偏重しているという主張をはじめとして、世界フィギュアスケート選手権で国旗掲揚や国歌斉唱シーンをカットしたこと、サッカー中継で「韓日戦」と韓国を重視するようにも見える表記をしたことなどが挙げられる。またフジテレビのグループ会社が音楽著作権を所有する楽曲を、さまざまな番組内で使用していることは、消費者に秘匿したままの宣伝行為(ステルスマーケティング)ではないかという指摘もあった。
フジテレビは9月2日に同社のホームページで、これらの批判に対しての回答を掲載した。韓流偏重との指摘に対しては、「広く視聴者ニーズにお応えできるような番組制作・編成を行っております。どのような番組を放送するかは、総合的かつ客観的に判断し決めております」と説明。表彰式のカットについては「あくまでも放送時間および番組構成上の理由であり、それ以上の意図はありません」。「韓日戦」の表記については「FIFA(国際サッカー連盟)の公式ホームページに表記されている正式大会名称に則った番組タイトルとして、ホーム&アウェイの関係から開催国(ホーム)を前に、対戦相手国(アウェイ)を後に表記するのを基本とした」と回答した。また、ステルスマーケティングではという指摘に対しては、「番組やイベント内容に適した作品を使用しています。制作の自主性を重んじ、より良い番組作りのために効果的な楽曲を使用するという基本方針を大事にしております」と回答し、宣伝目的で楽曲を使用していないという見解を示した。
これらフジテレビの回答に対して、インターネットユーザーからは「苦し紛れの言い訳」「不誠実な回答」などといった声が上がり、不満が噴出。さらなるデモに発展した。9月16日には、フジテレビの大口スポンサーである花王の製品不買を呼びかけるデモが行われた。
多くの女性が参加したこのデモには、子ども連れの姿も見られた。ベビーカーを押しながら1歳の娘を連れてデモに参加した主婦(31)は、「初めて(デモに)参加しました。偏向報道を子どもが耳にしてしまうのが怖くて、今のうちにそういう偏向報道を正してもらえればという気持ちで参加しました」と、デモに参加した動機を話した。また、デモ参加者の中には外国人の姿もあった。27年間日本に住んでいるという米国人の男性(50)は、「(日本の放送局は)どんどん偏っている放送をして、正しい情報を伝えていない。電波は国民のものですから、偏っているものを放送するのはよくない」と語った。
翌17日には、2つの団体が東京・お台場でフジテレビ抗議デモを企画。併せて約2500人がフジテレビの周囲を練り歩いた。19日には、学生らが主催する抗議デモも行われた。デモはこのほかにも、大阪や名古屋など全国に波及している。
■抗議デモという方向性の是非 「木を見て森を見ず」との意見も
一方で、これらのデモに遭遇した人たちは、デモに対してどのよう印象を持っているだろうか。デモ行進の傍らでは、その趣旨を理解して賛同の声を上げる人や、沿道から拍手や声援を送る人たちが見られた。だが、他方では批判的な見方を示す人たちもいた。
9月17日に東京・お台場で行われたフジテレビ抗議デモを目撃した女性(27)は、デモに対して「違和感がある」と怪訝そうな表情を浮かべ、「(韓流は)好きな人が見ればいい。嫌いなら見なければいいのでは」と疑問の声を上げた。たまたま近くを通りかかったという男性(21)は、フジテレビが韓国ドラマなどを放送していることについて「需要があるから放送しているだけなのでは。経済原理を考えれば当然。極端なナショナリズムは好きではない」と、抗議デモに対して否定的だ。
砂川浩慶立教大学准教授(メディア論)は、フジテレビへの抗議デモに対して
「木を見て森を見ていない感じがする。狭いナショナリズムに行きそう」
と述べ、抗議運動の方向性に憂慮を示す。砂川准教授は放送事業者を改善させるためには、視聴者が行政に直接働きかけると効果的で、電波監理審議会や情報通信審議会などに視聴者代表を入れていくことが大切だと指摘する。砂川准教授は
「政府の審議会に視聴者が直接入っていく。そういう仕組みを考えるべき。総務省のホームページにある審議会を見ると分かるが、利益代表ばかり。あとは御用学者。そこにくさびを打ち込んでいく活動にしないと変わらない」
と話す。
日本と同様に多数の韓流ドラマが放送されている台湾では、外国製番組の放送を規制する動きが起きた。海外では、産業保護や文化保護的な観点から、放送番組の国内制作比率を規制する法律がある国が多い。一方、日本には該当する法律がないため、台湾のような規制をかけるべきとの声が一部で上がっている。これに対して、砂川准教授は
「法律的な規制を求めると、結果的に自分で自分の首を絞めることになる。中に規制をかけるのではなくて外に出ていくように、国としてどうやって(産業を海外に)出していくかということをもっと真剣に考えないと。中をいくら(規制)しても、縮小再生産構造にしかならない。規制して一番喜ぶのは権力者で、一番被害を受けるのは国民」
と、規制より海外への展開を考えるべきとの認識を示した。
【ニコニコ動画】花王本社前デモ・フジテレビ抗議デモ、主催者の談話、砂川立教大准教授の見解
(三好尚紀、水田昌男)
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