「ウイルス作成罪」「カレログ」――法とネットの専門家たちが議論
日常生活にインターネットが欠かせない昨今、それをめぐるトラブルも多い。ネット社会の法的問題を考えようと、大阪の弁護士有志による「電子商取引問題研究会」など3つの任意団体主催のシンポジウムが、2011年9月8日に大阪弁護士会館で開かれた。シンポジウムの前半は、講師として招かれたジャーナリストの津田大介氏が「復興支援とSNS」について、株式会社ニワンゴの杉本誠司社長は「ニコニコ動画と権利対応の歩み」と題した講座をそれぞれ行った。
また、後半のパネルディスカッションでは津田氏と杉本氏に加え、弁護士の壇俊光氏と川村哲二氏も加わり、ことし6月に成立した「ウイルス作成罪」や、話題の”彼氏追跡アプリ”「カレログ」についても言及した。
■ウイルスの定義とは? 「ウイルス作成罪」の恐怖
「誰がどういう定義で決めるんですか、ウイルスって」――杉本氏の疑問に、川村氏が該当する刑法第百六十八条の二を答えた。それはことし6月17日、参院本会議で可決・成立した「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」で新設された「不正指令電磁的記録に関する罪」いわゆる「ウイルス作成罪」で、条文には次のように書かれている。
(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。
「この条文って、”人の意図”っていうのがどこまでなのか、どこまでいったら”不正”なのかも分からないので、非常に恐怖感がある」と壇氏が続ける。
「バグがあるのを分かりながら放置していたときに、罪になるのかっていうのは、ちゃんとしたコンセンサスがない。でもプログラマーさんに『作ったバグを直さない限り逮捕』って言ったら、やってられないですよね」
実際問題として「運用でカバーするしかないのが現状」と壇氏は語った。
■「カレログ」をめぐる法解釈
「カレログ」はウイルスに該当するのか――。そんな注目の議題も飛び出した。「カレログ」とは、スマートフォンやタブレットPC向けのアンドロイド端末用のアプリで、例えば彼氏(恋人)の端末にインストールしておくことで「彼氏のログを追跡」、つまりGPS情報から居場所を確認したり、通話記録や電池残量まで確認できたりする。これはプライバシーの侵害ではないか、とネット上で話題となり、ウイルス対策ソフトメーカーのMcAfeeは一時、「カレログ」を監視スパイウェアと認定したほどだ。
McAfeeは後日「カレログ」のバージョンアップによりスパイウェア認定を解除したようだが、「いまだ情報収集について端末所有者の同意を得るプロセスが存在しておらず、同意なく情報を収集している状態になっている」との懸念点を「カレログ」の開発会社に伝えたという。津田氏はこの「カレログ」について、「親が子どもに持たせるというのならともかく、かなりエグいアプリだ」と話す。そして川村氏は、前述の「ウイルス作成罪」の刑法第百六十八条の二第2項の供用罪に該当するのかが問題ではないかと指摘する。
それでは、端末所有者の同意があればどうか。「彼のほうがそういうアプリだということを認識して同意していれば、それは違法ではないと思います」と川村氏は答える。一方で、「痴呆のおじいさんがどこに行ったか分からないから持たせる、といったような時は、いいことなはずなのに同意が取りにくい。これはどうなんですかね?」と壇氏が疑問を呈する。川村氏は
「そういうような場合はギリギリの話。”正当な理由なく”という要件がありますが、痴呆老人や小さい子どもであれば、正当な要件でいけるのか・・な・・・というところです」
との見解を示したが、腕を組み、少し首をひねりながら答えたその姿に、ネット社会における法解釈の難しさをうかがわせた。
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「ウイルス作成罪」についての議論から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv62914776?po=news&ref=news#02:20:49
・[ニコニコ生放送]「カレログ」についての議論から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv62914776?po=news&ref=news#02:23:50
(境田明子)
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ウェブサイト: http://news.nicovideo.jp/
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