「成立しちゃった!東電救済法」ヤメ官僚緊急トーク 高橋洋一×岸博幸

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岸博幸×高橋洋一対談

8月3日、福島原発事故に関連する重要な法律が成立した。本日の参議院本会議を通過した「東電救済法」こと「原子力損害賠償支援機構法」だ。結論から言えば、ほぼ東電がイメージした通りのものができたということになるのではないか。まず東電が解体・再生される可能性はほぼなくなった。そして、このことにより電力自由化と脱原発・減原発への道は事実上閉ざされた。機構負担金により全国の電気料金は上がることとなり、さらには東電の再生をおこなわないために転嫁される6兆円とも言われる負担が国民にのしかかることとなった。東京電力はこの法案の成立を後押しするため、異例なリリースを2回も出している(http://bit.ly/oi1vTy http://bit.ly/pjctuE )。国民負担によって東電を支え、電力自由化を道遠きものとするこの法案の成立を、最も心待ちにしていたのは、まさに東京電力自身だと言える。この「東電救済法」はいかにつくられ、どのような問題をはらんでいるのか。元官僚でこのような事情に詳しい高橋洋一氏(元財務官僚)と岸博幸氏(元経産官僚)に、自由に語っていただいた。

●参加者
高橋洋一氏(元財務官僚、経済学者、嘉悦大学教授)
岸博幸氏(元経産官僚、慶應義塾大学大学院教授)

参院本会議 成立の瞬間。海江田経産大臣

結局、東電だけが得をするために作られた法律

――さて、本日、「東電救済法」こと「原子力損害賠償支援機構法」が成立です。

高橋:これって結局、東電だけが得をする法案だよね。最初、東電の決算の前に変な動きがあって「何をやってるの?」ときいたら「決算をしたい」という話だったんですよ。じゃぁ決算が終わったら「まとも」になるかと思ったら「まとも」じゃないままどんどん進んできちゃった。普通、議員が修正すれば「まとも」になるんだよね。でも修正されなかったんだよね。

岸:原発事故があって、東電の体力が落ちました、でも賠償しないといけません、決算もあります、ということで、5月に関係閣僚が集まって、その会合の決定ということでこのスキームのベースができた。

そしてそこで「東電を債務超過にしません」という謎の政治的な意思表示があったんです。

そもそも古賀茂明さんが主張していたような、民間で当たり前の再生をすればいいのに、結局再生よりも「延命」の方を優先してしまった。それがそのまま法案になってきたんですね。

さらには与野党合意という修正によって、より甘くなってしまった。そして「国の責任を明確化」という触れ込みで国が「機構」経由で延々とお金を投入できるようにしちゃった。これって結局税金負担ですよね。

昨日、東電じゃないんだけど某電力会社の幹部と話していたら、やっぱり非常に内心怒っている。当然表では言えないけれども。

すべてが東電を債務超過に絶対しないという状態を維持するための与野党合意による修正になっちゃってて、このベースも経産省がつくってましたよね。この役人が作ったものに、与野党ともに乗っかってさらに甘い法案にしちゃったと。これは東電を正しく再生させたいというわけではなくて、単に延命したいという、そういう内容になってしまっていますね。

高橋:ほんというとこんな法案つくんなくって、ほっといてもいいんだよ。それが普通なの。これまでの法律で、こういう状態になったときにフェアに解決する方法はいくつもあるわけ。

被災者の人が困っているから、国が仮に立て替えましょう、それで被災者の人は先にお金をもらうんだけど、被災者の権利は国が代わって行使しましょう、というので、これで話は終わりなんだよね。それで何の問題もない。
あとは「東電の責任問題」などを議論すればよい。それって国と東電だけで話が終わっちゃうから、これが一番簡単なやり方です。普通だったら、これで話はオシマイです。

でも、「東電を債務超過にしない(破綻させない)」というのをまず最初に決めちゃうと、すごく変なことをしなくてはいけなくなるんだよね。だって、実際には既に「債務超過」なんだから(全員笑)。

こんなの単純な算数の話だから、誰にでもわかる話で。で、「債務超過でしょ」って言ってたら、いろんなとこから山ほど文句がきて。「なんで債務超過なんだ」と怒られちゃって。東電の社長自身も「大変です」と言ってるんだから、これはもう債務超過でしょうと。東電がよっぽど好きで、東電に借りのある役人が沢山いて、そういう人達が法律つくったんだなと。

岸:本当は、市場のルールでノーマルなことをやればよかったのに。

高橋:ノーマルっていうか、何もしなくていいんだよ。

岸:もともとは経産省の幹部と東電との癒着があって、いろいろ配慮しなくちゃいけない、債務超過にしたくない、という思いがあった。さらに言えば、経産省の事務次官とかが、銀行が2兆円融資したときにだいぶコミットしたみたいで、コミットした以上はなかなか銀行には損をさせられませんという事情があったのではと。こういういろんな変な配慮すべき内容が入ってしまった結果、このように歪んでしまった、というのが元々の関係閣僚会議でできたベースなんですよね。

高橋:なんで頼むの? あの、経産省の事務次官が、なんであんなの頼みに行くの? バカじゃないの? なんかさ、普通の役人の考えだったらね、あんなの放っといたって銀行が貸すんだよ。だって貸さなかったら自分が取りっぱぐれちゃうから。だから、それは必ずやるんだよ。だから経産省の人が「俺が間に入ってやった」なんて言ってるのは、あれはバカだよ。だからね、最近思うんだけど、経産省って、「バカ度」が高まりすぎてるんじゃないか。

岸:そこは否定できない。正確に言えば、中堅クラス、課長クラスはいいんだけど、幹部の劣化が激しい。

高橋:普通の役人からしたら、まったく考えられない行動だね。まず、どんな権限があって仕事するのかってのを役人は考えるんだよ。いくらなんだって、適当にやるってことはできない。法律があって、権限があって、それを行使するっていうのはできるんだけど。それ以外はやっちゃいけない。あんな「融資の斡旋」なんて、どこにも書いてないよね。

岸:ないない。

高橋:私は財務省出身だけど、金融庁でもあんなのやったら危ないよ。これ、ひょっとしたら「お縄」になっちゃう、みたいな話で、普通そんなこと絶対言わない。

岸:強いて根拠を言えば、「電力の安定供給=東電の延命」という置き換えなんだろうけど。明らかに間違い。

――関東エリアだけ電力自由化して、みたいなことってできないんでしょうかね。

高橋:そんなのやるわけないよ。経産省の天下り先って、だんだん細ってきてるんだけど、「電力」ってそれなりにあるんだよね。

岸:関係団体もいっぱいあって、東電が一番強いからね。東電は自由化なんで絶対やりたくないし。

高橋:電力業界って規制業種で、やっぱり金が儲かるわけよ。そこに(天下りで)行きたいという気持ちはやっぱり強いんだよね。

――新しい枠組みを作って儲けようという発想はないんですかね。

岸:残念ながら東京電力側も経産省側も、幹部、つまりジジイ達は、そういう新しい発想はできないで、自分たちは今の延長で終わればと思っているとしか考えられない。

岸博幸

「国の責任とは何か」

岸:テレビもね、法案の説明を「国の責任を明確にしました」と繰り返し言ってますが。

高橋:あればっかりやな。

岸:だからね、国民はもうわからないっすよ。

高橋:「国の責任を明確化して、6兆円国民の負担が増えて、電気料金に換算するといくらです」って言ってくれたらわかるけど。
普通、債務超過になったら、ステークホルダー(株主、債権者、東電幹部などの利害関係者)がそれなりの責任をとって、「痛み」があった上で、最後にお金が足りなくなったら税金で払いましょう、となるんですよ。それを今回は「痛み」の方が一切ないので、普通に計算すると6兆円から7兆円、ステークホルダーを守るために国民負担が余計にかかるんですよ。

岸:国の責任っていうんだったら、国民にツケを回す前に、まずは国の責任として「経産省の幹部は辞めろ」と。「退職金とかももらうな」と。そして次に「経産省の持っている財産を全部これにつっこめ」と。そういうプロセスがまったくないんだもん。おかしいよ、これ。本当に腹が立つ。

高橋:電力料金なんて、みんな払ってるからね。逃れられないよ、なかなか。電気使わない人なんてほとんどいないからね。

高橋洋一

河野太郎さんはなぜ賛成派に取り込まれたのか

岸:なんで自民党の河野太郎さんはこれを評価しちゃったわけ?

高橋:あれは、騙されたんだと思うよ。

すごくうがった見方をすれば、やらせだった。こんなこと言ったら、河野さん怒っちゃうかもしれないけど。要するに、すごく巧妙なテクニックとしては、「最強硬な人」がいたとして、その人が評価した、となったら、これはいいんだ、と皆思うじゃん? あんなにガンガン言ってた河野さんが評価しちゃったら、マスコミの人とかは「これは悪い」と言えなくなっちゃう。中味がよくわからないだけに。

それを見込んでやってたんじゃないか、と正直言って私なんか思っちゃった。だって、あまりにもコロリといっちゃうでしょ? 役人的には、法律みてたらすぐにわかるわけ。「あー、こんな変な条項くっつけて、ひでぇよ」って。それなのに全然関係ないところでよくやって、「評価できる」ってブログで書いちゃうわけね。

ブログみてると、「え、なんでこんなところでこんな風に読んじゃうの?」と思うわけ。騙されたんじゃないか、というのが明らかにわかるわけ。だから、河野さんって、向こうのエージェントで、ガンガン言っておいて、最後に「これはいいんです」って言って、最後にこれを通すための人だったんじゃないかなって、そう思っちゃうんですよ。

修正案だって、見たらすぐにわかるのに、彼がわからないで言ってるのか、すごくわかった上でそう言ってるのか、というのがわからないんですよ。「二段階目で整理する」とか言ってるけど、そんなのどこにも書いてないよ。

岸:あれは明らかに、誰かの説明でそう思った、ということでしょう。

高橋:「附則」でどうこう、とかブログで書いていたけど(http://www.taro.org/2011/07/post-1061.php)、「附則」なんてあんなのただ単に書いとくだけじゃない。そんなの当たり前じゃない。どんな法律だってそんなのあるよ、エクスキューズ(言い訳)するために。

岸:簡単に書けますよね。

高橋:もっと真面目にやると、「3年後、見直しをする」とか書くよ。でもね、3年後見直しする、って言ってたって、そんなの関係ないもん。だから、こんなの単にガス抜きのために書いてあるってのはわかるわけじゃない?

岸:少なくともあの修正案は、経産省の役人が作りました、ということで、それを自民党国会議員の経産省OBの人が色々と動きまわってるわけですから。

岸博幸×高橋洋一

「根回し文書」と国会議員の仕事

高橋:普通、議員の修正のときって、役所が入っていいの?

岸:本来有り得ない。

高橋:だって、役人ってさ、国会議員じゃないよね? だから、議員からしたら、役人が来たら「お前、出て行け!」っていうのが普通じゃない?

「法案修正のポイント」とか「修正が許されないポイント」とかいう紙があったじゃない? (「根回し文書」と言われる文書のこと http://tokyopressclub.com/post/8078329756 ) よくあんなアホな標題つけたなと思うよ。普通、あの手のペーパーは、ちょっと見てもわからないように書くわけよ。

――そういうところのスキルも下がっている?

岸:脇も甘いわ、中味も甘いわで。

高橋:標題であんなの書いたら普通、わかるじゃない。本来、読む人が読んだらわかるように書くわけで、すぐわかるようには書かないもんなんだよね。

岸:もっと出所がわからないように、書き方を工夫しますね。常識があれば。

高橋:つまりあれは、議員の間の、議員修正に入って行った、ということでしょう?

岸:議員修正のベースとして説明してやらせたんですよね。

高橋:国会議員は、法律作るのが仕事のくせに、できないってこと?

岸:そうそう。

高橋:そういう人達に対しては国会議員の歳費の返還を請求したほうがいいな、国民は。だって、法律作ってないんだから。
経産省の役員が修正をやってたら、「お前は国会議員じゃないのに、なんでやってるんだ」と言った方がいいよね。

(つづく……かもしれない)

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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