石原慎太郎×田原総一朗(4) 「世論とは何か。我欲の塊ではないか」

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石原慎太郎東京都知事「世論とは何か。我欲の塊ではないか」

 「普通の国民は我欲を捨てなければダメだ」。石原慎太郎・東京都知事は2011年5月17日、ニコニコ動画の討論番組『田原総一朗 談論爆発!』に出演し、強い口調で言い切った。金銭欲や物欲、性欲といった「我欲」が社会問題の根本にあるという石原氏は、料理番組や旅行番組に流れるテレビや、「減税」だけを唱える政治家を批判。一方、マスコミやテレビが世論に迎合しているという田原氏は「世論を我欲の塊にしたのは、僕は自民党だと思う」と、自民党出身の石原氏に切り返した。
 
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 以下、番組でのやりとりの全文を書き起こして紹介する。

田原総一朗氏(以下、田原): 今度の震災が起きた。日本の何をどう変えるべきか。大きいもので、これを変えようと(いうものは何か)。

石原慎太郎東京都知事:(以下、石原): これは被災した方は、ちょっと条件違う。ただ、普通の国民は我欲を捨てなければダメだ。金銭欲、物欲、性欲。日本のテレビを見てもらいたい。このテレビ(ニコニコ動画)はどうか知らないが。コマーシャルから番組からみんな、その表示ではないか。一番人気があるのは料理番組、それからうまいラーメン。それから温泉。それからバカバカしい芸人の、どれを見ても同じような冗談しか言わないお笑い番組。こんなもんで満足している民族というのは、そんなhighbrowではない。そういうものを表象している。我欲を。

田原: いや我欲だが、人間はやっぱり我欲ではないか。なぜ会社に勤めるかというと、給料が欲しいから。

石原: 当たり前。だがその欲望が際限なくなってくれば、政治がそれにへつらう。例えばあなた、こんな問題(東日本大震災)が起こらなくても、日本の福祉が今までもったと思うのか。そんなもの、高福祉低負担で通用している国なんか、どこにもない。

田原: 高福祉低負担をもう少し具体的に言うと「福祉」はやっている、と。たとえば年金にしても、あるいはいろんな福祉、生活保護もやっている。それに比べて、たとえば税金は消費税が5%であると。ヨーロッパの国はみんな20%だと。つまり税金をとらないで福祉をやっている。だから借金がいっぱいになったと。こういう話。それを誰も言わない。

石原: それを直すのが当たり前ではないか。

田原: だからそれは、僕は自民党が悪いと思う。

石原: 元々そう。自民党は誰のせいでもなく、日本の大蔵省、財務省に牛耳られてきた。

田原: いや僕は世論迎合だと思う。つまり本当であれば、高度成長の時はよかった。高度成長もあって、宮沢(喜一)内閣のころから国への歳入がドーンと落ちた。景気が悪くなって。で、高齢化社会になって、歳出が増えてきた。そうしたら誰だって歳入を増やすことを考えなければいけない。歳入を増やすということは、景気をよくするか税金。

石原: だからわかっている。田原さん、率直に言ってあなたみたいな論客に言ってもらいたいのだが、日本の消費税は今のままでいいのか。

田原: よくない。

石原: よくないよね。そう言うとワーと騒いで。河村(たかし氏)のような後輩だけど、バカが……。要するに、市民税の減税なんてものは簡単。住民税の減税なんかは。もうわずかしか減らない。ところがあれを言い出すと、みんな周りが「減税、減税」。「住民税だけじゃなく、他も減税しよう」と。そんなものは通用しない。

田原: だから「減税はしろ、福祉は充実しろ」と。そんなもん通用するわけがない。それを、「減税はしろ、福祉は充実しろ」と通用しているのは、ひとつは政治が、自民党が世論迎合(をしたの)で本当ならば増税しなければいけない。福祉を減らさなければいけない。(であるにも関わらず)とにかく借金借金。世論迎合。

石原: 世論とは何か。我欲の塊ではないか。我欲が世論を作るのではないか。

田原: だから世論を我欲の塊にしたのは、僕は自民党だと思うし、マスコミだと思う。それ(そのことを)石原さんが言わなければ。もっと。

石原: 散々言ってきた。言ってるから憎まれてる。(スタジオに取材にきたカメラマンや記者に向かって)だから、こんな写真を撮りに来るんだ、こいつら。

田原: もっと言いたい。僕は我欲の塊だったころ、日本が。高度成長のときは我欲の塊でよかった。なぜならば、高度成長でみんな企業が儲かる、大きくなる。だから、国への収入が、歳入がどんどんどんどん増えてきた。(その結果)余った。歳出より歳入が多かった。このとき国は、この余った金をどう国民にばらまくか(というと)これ減税。そして福祉を重くする。減税して福祉を重くする。明日の生活は豊かになる。だから国民は自民党がいろんなことやっても、スキャンダルをやっても、田中角栄が何をやっても、やっぱり自民党を認めていた。それが上手くいかなくなった。宮沢内閣から。いかなくなったのに自民党はまったく姿勢を変えようとしない。なぜか。

石原: それは結局、国家の官僚に牛耳られているから。

田原: なぜ牛耳られているのか。

石原: 見てごらんなさい。自民党の国会議員には官僚出身がやたら多いではないか。歴代の総理大臣も多いではないか。そうではない立派な人もいたが。それから、全国知事会に出てうんざりするのは、だいたい日本の知事の8割はみんな国家の官僚出身。もっと強いことを言って、みんなで「消費税をとにかくあげなければいかん」と。高福祉を維持するためには、目的税にしても。そうすると、自分の(出身である)役所を振り返る。自分の選挙も考えるわけ、間近な。自分の出身した建設省だの総務省だのを振り返ると、そこが「大蔵省(財務省)様の言うことを聞かないとまずいことになるから、あんまり財務省のことを刺激するようなことを言うな」と。何にもまとまらない。僕は全国知事会なんてものはバカバカしくて出ない、あんなもの。

田原: もっと言うと、さっきの続きで言うと、自民党は歳入がどんどん増えるからバラマキでやってきた。もっと言うと自民党の政治ははっきり言えば、石原さんが反対してる金権政治。ずっと。ところが金が集まらなくなった。金権政治ができなくなった。金権政治がいいとは言わないが、金権政治ができなくなったあとの政治のノウハウがない。まったく。なぜないのか。あなたの息子(石原伸晃氏)らが金権政治ではない、新しい政治ノウハウを作らなければいけない。なぜできないのか。

石原: それは何ていうのか、いままでの因習に縛られて発想力がもう減退してしまったから。まだやっぱり役人にすがったり、役人の発想の域をでない。

田原: なぜか。

石原: それはやはり人材がいないということ。昔、(政策集団)青嵐会を作ったころは、一癖どころか二癖、三癖ある連中がいた。

田原: 青嵐会というのは多分、言ってもわからない人がいる。田中角栄が中国に行った。日中国交回復をやろうとした。それに対して青嵐会ができて「反対!」とやった。

石原: まず「金権反対」。それから日中航空協定という、まったく片務の実務協定を角さん(田中角栄)が何のためか知らないが、やろうとしたからこれに反対した。

田原: それはどういうことか。具体的には。

石原: とにかく何の取り分もない航空協定を中国と結んだ。あの時はまだロシア(当時はソ連)が空を開いていなかったので、イスラマバード(パキスタン)経由で行くと、ヨーロッパが非常に近かった。それを「(パキスタンに)入れてくれ」と言ったら、(パキスタンは)一切入れてくれなった。それで角さんが(日中航空協定を)「2週間であげる」というから、2ヶ月半抵抗して、ついに押し切られた。それですべての実務協定は達成して。(元新日本製鐵会長の)永野重雄さんという私が親しくしている、可愛がられた人がいる。

田原: 永野重雄。

石原: あの人が日本の経済団を代表して(中国に)行った時に、周恩来が「これ(航空協定)ができたので、これからいかなる日本人も私は歓迎します」と言ったら、どこかのバカな首長が「あなた方に抵抗したのは『あの青嵐会の者ですから』」と。そうしたら、周恩来がかかと笑って「いや、私は彼らが好きですね。私は日本人に詳しいけど、昔ながらの日本人がまだいましたね」と(言ったという)。

田原: 周恩来に誉めてもらったということか。石原さんは。

石原: それで、「『青嵐』という言葉は誰がつけたのか。あれは中国のもっとも美しい言葉の一つです」と言った。もう一つ、コウサカさんという大東文化大学かなんかの、どっちかというと右(保守)のほうの大学だが・・・。

田原: 高坂正堯というのは京大。

石原: 違う。高坂正堯でない。違う名前の「こうさか」。「香る坂」だったか。(元大東文化大学長・香坂順一氏か)その人が若いころ、周恩来と機をともにしたと。それで反乱した共産党の分子を銃殺するのにも立ち会って、気を失ったと。周恩来にからかわれたことがあると。それくらい親しい人。その人が永野さんと同じことを言ってくれた。それで永野さんがお世辞でなく、本当のこと言ってくれたと。まったく同じこと言った。まあいい、そんなことは。

田原: 僕、石原さんが『NOと言える日本』を言った。アメリカに対して。中国に対しては「尖閣でけしからん」と言った。こんなこと言ったら、どんどん日本は鎖国になるから、石原さんがそれは持ちながらアメリカとドンと渡り合う、中国とドンと渡り合うことをやらないとダメなのでは。

石原: 東京は技術が集中していて、いい発想する人がたくさんいるから、それを品物にして稼がせるためにも、日本の政府は頼りにならないから、僕が政府に代わってやるから「東京都」対「政府」でやりましょうということで、あるところまではやった。ファンドを作って、日本の中小企業の技術を。ところが、その直前に(中国は)尖閣(諸島)でバカなことをしやがったから、だから私は腹が立って(関係を)バッと切った。

田原: 尖閣も日本はもっとちゃんとやればいい。

石原: そうだ。

田原: もっと言えば、僕は日本が下手だと思う。

石原: やることやってくれれば。

田原: 小泉内閣の時に、やはり中国人が尖閣(諸島)に上ってきた。その時、小泉内閣は彼らを逮捕したが、2日間で「強制退去」という名前で釈放した。今度の尖閣(諸島の事件)で、民主党は船長を逮捕して、しかも10日間の勾留延長もした。あのときに民主党が船長を逮捕して、どういう戦略を持っているのか。中国とどう渡り合うのか(と問われれば)何もない。これが問題。

石原: まったくそう。

田原: だから石原さんあたりが、そこはちゃんと戦略を持つべき。

石原: いや僕は、中国が是々非々でやっていることと思うし、今度もう一回知事になったので、銀行のためにも・・・。

田原: (中国に)行かなきゃ。

石原: 行かない。呼べば来るんだから。まあ、なんというか、とにかく主権国家でないよ、日本は。

田原: そこだ。主権国家になるにはどうすべきか。

石原: これは憲法を変えないとだめ。

田原: どういう風に? 9条をやめるのか?

石原: 集団自衛権もちゃんと認める。もちろん9条もやめる。だいたい、国際法のなかでどこかの国がどこかの国に負けて占領されているあいだに占領国が作った憲法というのは、国際法上は本当は合法でない。それに則って、もう一回考えたらいい。なんで、それをやらないのか。

田原: ドイツは占領下では憲法を作らなかった。独立してから作った。なんで日本はだらしないのか。

石原: それは一種の処女体験で。

田原: 初めて負けた。

石原: 明治以来とんとん拍子でやってきたから、大きなショックがあったんだろう。ドイツは占領されているときに「やがて我々は独立するけれども、二つのことをはっきり言っておく。憲法は絶対、我々自身が作る。戦後の教育方針は絶対、我々自身が方針を決める」と(言った)。

田原: 日本は占領下で「六・三制」をやったたわけだ。アメリカに言われて。教育制度も変えた。憲法も変えた。ドイツは両方ともやらなかった。どこが違うのか。ドイツと日本は?

石原: それは民族の自尊心の問題だろう。

田原: ないか? 自尊心。

石原: ない。

田原: なぜないのか。

石原: やはりよほど敗戦でこたえたんだろう。まあ、情けない話だが。しかも65年間そのままきて、すべて命を預けて。日本はアメリカの囲い者、悪く言うと「妾」で来た。

田原: 「妾」という言葉は、いまはよくないが。

石原: だから「囲い者」といった。

田原: 囲い者。なぜかというと、やはり「命を懸けて日本が自立する」という人がいなかった、歴代首相で。いない?

石原: まあ、吉田さんは・・・。

田原: 吉田(茂元首相)はいいと思う。岸(信介元首相)さんもそれなりに、面白い。中曽根(康弘元首相)もそれなりに面白い。あと、いない?

石原: うん、いない。

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◇関連サイト
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http://live.nicovideo.jp/watch/lv49658192?ref=news#28:48

(ふじいりょう、村井克成、亀松太郎、秋本直樹、大住有、岩本義和、土井大輔、丹羽一臣)

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