“原子力ムラ”の奇怪な構図
※この原稿は、政策工房発行「政策工房ニューズレター」より転載させていただきました。
●“原子力ムラ”の奇怪な構図
4月18日、枝野官房長官は、記者会見で「原子力安全・保安院や資源エネルギー庁など経産省幹部の電力会社への再就職については自粛措置を講じる」と述べ、「政府の対応を見て適切に判断すると期待している」と、再就職した経産省OBに自主退任を促す発言をおこなった。福島第一原発事故に関連し、監督官庁である経済産業省と東京電力とのなれ合いが原発の安全面でのチェック体制を損ね、事故を悪化させたのではとの批判が噴出してきたからだ。
これを受け、海江田大臣が原子力を推進する資源エネルギー庁の部長級以上、原発の安全性を監督する原子力安全・保安院の審議官以上、資源エネルギー庁と原子力安全・保安院を所管する経産省の大臣官房幹部を経験した在職者について、電力会社への再就職を無期限で自粛することを各電力会社に通達。退任から4カ月あまりで東電顧問に就任した石田徹氏(前資源エネルギー庁長官)に批判が集中していることも踏まえ、自主的に退任するかたちがとられた。
天下り根絶を掲げてきた民主党政権だが、天下りは実質的に続いてきた。鳩山前政権が禁止したのは「省庁による天下りのあっせん」に限ってであり、企業側が直接就任を要請すれば違法ではないとの見解を押し通してきた。菅政権でも、発足当初に閣議決定した基本方針で「あっせん禁止の厳格順守」を定めているものの、ほぼ同じ見解をとってきた。実際、今年1月に東電顧問に就任した石田氏について、「天下りとは質が違う」(大畠章宏元経産大臣)と容認している。つまり、民主党政権は、天下りの抜け道を野放しとなっているにもかかわらず、何ら実効性ある対策をとってこなかったのである。
このことから、菅政権は、公務員の再転職のあり方を抜本的に見直す方針を打ち出すこととなった。今回の原子力に絡む問題は、はたして天下り規制だけで解決するのだろうか。原子力ムラの奇怪な構図について、簡単に俯瞰しておきたい。
1)経済産業省から天下りを受け入れる電力会社の意図
東電が経産省OBの天下り受け入れをするようになったのは、1962年の石原武夫・元通産省事務次官が始まりだといわれている。その後、資源エネルギー庁幹部などの天下りも続いた。石田氏は、今回の事故を受けて4月末で辞任することになったが、今年6月の株主総会で取締役就任が確実といわれていた。
ほかの電力会社9社についても、関西電力常務は元資源エネルギー庁電力・ガス事業部長、四国電力取締役が元原子力安全・保安院首席統括安全審査官など、各社1~2人の計10人前後が天下っており、現役取締役もしくは役員ポストが約束付きの顧問などに就いている。
経産省OBに天下りポストを提供する各電力会社には、エネルギー政策への影響力をいつでも行使できるよう、人質としてとっておきたいとの思惑がある。電気料金改定の許可や安全規制などを握る資源エネルギー庁や原子力安全・保安院の政策が、電力会社の経営を大きく左右するからだ。1990年代後半以降、電力自由化が進むなかで危機感を強めた電力会社は、政府の各種審議会などを通して政策への関与を強めてきた。
また、国の原発検査や電力会社の自主検査を審査する独立行政法人「原子力安全基盤機構」など原子力関連法人にも、経産省OBらが理事や監事などとして在籍しているほか、電力業界からの出向や会費名目などの資金拠出も行っている。出向者は検査部門には配置しないというが、電力会社が、規制当局を実務面で実質的に乗っ取っているとみてよさそうだ。
2)政界や学界にもいる電力業界の応援団
実は、電力会社の影響力がおよんでいるのは、経産省だけではない。
ひとつは、政界だ。ほぼ地域独占で取り組んでいる電力会社が特定政党に献金することは不適正との理由から企業献金はとりやめていたが、そのかわり電力会社の役員クラスが個人として特定政党に献金を続けていたのである。また、電力会社出身者や電力系労働組合出身者が政界に進出している点も見逃せない。経産省への政治的圧力や政策誘導を期待して、政治家への献金を通じて族議員化を図っていくとともに、電力関係者を政界に送り込んで影響力を強めようとしてきた面がある。
もうひとつは、学界だ。日本原子力学会は、学者だけでなく、電力会社や電力メーカーなどの技術系役員なども多く所属している。産学を超えた師弟関係もあり、ほぼ原子力推進の専門家は身内といってもいい関係にある。電力会社は、こうした関係を利用して学界に強い圧力をかけてきた。
また、原子力分野に取り組んでいる大学は、東京大学を筆頭に旧帝国大と一部の私立大学ぐらいしかない。電力業界は、こうした大学や研究機関に寄付講座や研究資金などを積極的に提供してきた。さらに原子力推進の学者たちを接待、ポストや資金など充実した研究環境を提供するなどして、電力業界に都合の悪い情報は発信しない御用学者へと懐柔してきたようだ。電力会社にしてみれば、原子力を推進するうえで、専門家から「原子力は絶対に安全」というお墨付きを得たいがためだ。
このほか、御用学者を原子力委員会や原子力安全委員会など政府の審議会メンバーに推薦することで、電力業界の都合のよい発言をしてもらうとともに、原子力推進に必要な理論的裏付けなどで貢献するよう働きかけもおこなっている。電力メーカー出身の班目春樹氏(元東京大学教授)は、電力会社との蜜月関係のなかで原子力安全委員会委員長に登りつめた1人といっていいだろう。
このように原子力政策は、政・官・業の癒着トライアングルに加え、閉鎖的なインナーサークルによって推進されてきたといっても過言ではない。いくら天下り規制を強化し、政府の原子力関係の組織再編を行ったところで、原子力ムラのスクラムを崩さない限り、カタチをかえて勢力が維持されるだけだろう。電力不足に陥っているいまだからこそ、電力の自由化を含め、電力業界の抜本的な構造改革をしていくべきではないだろうか。
※この原稿は、政策工房発行「政策工房ニューズレター」より転載させていただきました。ありがとうございます。
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