原発広告とメディアの関係

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誰も通らない裏道

今回はkappamanさんのブログ『誰も通らない裏道』からご寄稿いただきました。

原発広告とメディアの関係
(編集部注:この記事は2011年3月2日に書かれたものです)

私は普段からテレビをあまり見ないので、お笑いというものには疎いし、そもそもほとんど興味はない(落語は別)。そんななかで“浅草キッド”については、時々、伊集院光のラジオにゲスト出演しているのを聴いて悪くない印象を持っていたのだが……

2月中旬から、中国電力が上関原発(建設計画が発表されてから30年近くがたっている)の工事を強行しよう *1 として、反対派の住民の抵抗が続いている。その様子は『Ustream』でも生中継 *2 され、私も時間があるときには見ていた。

*1:「中国電力が大動員をかけ、埋め立て工事を強行してきました(2月21日の状況報告)」 2011.02.23 『祝島島民の会blog』
http://blog.shimabito.net/?eid=1061747
*2:「満月tv」『Ustream』
http://www.ustream.tv/channel/満月tv

当ブログでは再三再四表明している *3 が、私は原発には断固反対であって、およそ電力会社ほどのタチの悪い企業というのはないと思っている。で、まあ、今日は原発の是非論について書くつもりはないので本題に入ると……

*3:原発に関する記事まとめ 『誰も通らない裏道』
http://fusenmei.cocolog-nifty.com/top/cat7131020/index.html

昨日、コンビニで『週刊現代』を立ち読みした。私は週刊誌に限らず、雑誌を見るときには広告営業時代のクセで、どうしても先に広告に目がいってしまう。まず表2、表3、表4(いわゆる特殊面)の広告銘柄をチェックし、それからパラパラと中の広告を見る。今週の『週刊現代』の特殊面は相当に厳しく(これは他の男性週刊誌もまったく同様だが)、また中面の広告も媒体社が望むような金額がとれていそうな銘柄は一つだけという印象だった。

そんななか、目についたのが「浅草キッドが行った! 見た! 聞いた!! 原子力発電所最前線」と題された東京電力のカラー3ページのタイアップ広告で、内容は浅草キッドの二人が柏崎原発を見学に行って所長と対談するというものだった。しかも2号連続企画とのことである。

雑誌の広告営業にとって、タイアップ広告をつくる仕事は非常に大事、かつ面倒くさい。雑誌広告はただでさえ厳しい状況だが、さらに近年、クライアントのタイアップ志向が強い。つまりクライアント自身が製作した純広告(媒体社は極端に言えば、指定された条件通りに印刷すればいい)を出稿するのではなく、それぞれ雑誌にあった1回限りの記事風のタイアップ広告を出稿する傾向が強くなっている。

その場合、あるクライアントでタイアップが決まると(その前段階で他社との企画提案合戦に勝たなければならないが)、まず、広告代理店を間に入れてクライアントと打ち合わせをする。その打ち合わせをもとに、ページを実際につくる担当者(その雑誌の編集者であったり、タイアップを作る専門の部署の担当であったり)にラフを描いてもらい了解を得る。OKが出たら取材、撮影をする。そしてタイアップページをつくり、それをクライアントにチェックしてもらい、直しを入れてもらう。
そのやり取りを何回かした後に校了、発売となるわけだが、この過程にトラブルの種がゴロゴロ転がっており、コトが最初から最後までスムースに進むことはまずない。しかも、雑誌が発売された後も大トラブルが勃発することすら少なくないのだから、タイアップ広告というのは媒体社の広告営業マンにとってまことにストレスの多い代物だ。

そんなタイアップ広告の仕事のポイントの一つは起用するタレント、モデル選びである。女性ファッション誌であれば、その雑誌の専属モデルを使う、使わない……という話になるわけだが、この『週刊現代』のようなケースでは、まずどのタレントを使うか? というところから話をしているだろう。

ちなみに、私の感覚では“浅草キッド”というのは、とがったところのある芸人だけに、通常の広告に起用する場合はリスクが大きい部類のタレントに入ると思う。ただ、このケースではテーマが原発であるので、逆に「こういうタレントでも原発推進派なのか」と読者にアピールすることができ、“浅草キッド”が持つ広告面でのネガティブなイメージを逆手に取ることに成功している。
実際、タイアップの誌面ではスーツを着込んでかしこまった二人が、柏崎原発の所長を相手にヨイショをしまくっており、また水道橋博士は「ボクは原発については危険だと思っていたけど、今日見て安心しました……」というようなことも言っていて、クライアント的には満足できる内容だろう。

一方、『週刊現代』(講談社)側も東京電力という広告業界では最優良クライアントからの出稿なのだから、金銭的にも満足できる額であることは間違いなく、苦しい広告予算の中、まさに干天の慈雨、東京電力様々だろう。
『週刊現代』は出版不況のなかで、ここ数年、非常に部数を伸ばしたのだが、その一つの大きな要因は激しい小沢バッシング、あるいは鳩山政権バッシングだった。もちろん他誌も同様だったが、なかでも『週刊現代』のたたき方には迫力があった。私はその内容には同意しかねるが、しかしとにもかくにもそれで部数を上げたこと自体は大したものだと思う。

しかし、そのように激しく政権をたたく『週刊現代』も、こと原子力発電についてはもはや何も書けない。電力会社がどんなにデタラメをやろうとも、ひたすらスルーするか、あるいは電力会社の言い分をそのまま載せるかのどちらかしかできないだろう。

ここ最近、雑誌を立ち読みしてみると、電力会社、あるいは電気事業連合会の出稿が非常に目につく。ま、単純に他の広告が減っているから目立っているのであって、雑誌に対する出稿金額が増えているのかどうかはわからないが、しかし少なくとも電力会社が雑誌にまだまだお金を投下していることは間違いない(しばらく前には『週刊朝日』にも出稿していたと思う)。

そしてこれは値崩れが激しい雑誌広告業界にとっては悪くない……どころか非常にいい話で、電力会社の出稿がない媒体社は当然、「ウチもあのタイアップを取れないのか? どうやったら取れるんだ?」となるだろう。こうなってくると、原発を取り巻くさまざまな問題、これこそ本来、ジャーナリズムが取材して掘り起こしていかなければならない問題を広告出稿がない会社までが書けなくなる。

電力会社にしてみれば、雑誌(テレビ、新聞、ラジオも同様だが)に定価で広告をだしても(そのようなクライアントは、もはやあまりいない)、その見返りとして自分たちを批判する勢力を押さえ込むことができ、事故や不祥事が起きた時にも報道を都合のいいようにコントロールできるのならば、これはお安い投資といえるだろう。しかも、浅草キッドのような、ちょっと危ない芸人も、こういう形でお金を渡せば、原発をネガティブなネタに使うことは絶対にないし、他の芸人も「ああいう仕事もあるのか……」と意識するかもしれない。一石二鳥とはこのことだ。
そして残念ながら……この電力会社の意図をメディアの側から断ち切ることは不可能である。

執筆: この記事はkappamanさんのブログ『誰も通らない裏道』からご寄稿いただきました。

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