広告不況がもたらすマスメディアのもう一つの劣化
今回はkappamanさんのブログ『誰も通らない裏道』からご寄稿いただきました。
広告不況がもたらすマスメディアのもう一つの劣化
(編集部注:この記事は2011年02月07日に書かれたものです)
先日、書店で男性月刊ファッション誌、数冊を手にとって見てみたのだが、そのあまりの薄さにビックリした。
冬枯れの時期だから仕方がないといえば仕方がないが、ページをめくってみると、クライアントがきちんとした料金を支払っていると思しき広告がほとんどない。したがって、「この雑誌の広告収入はこれぐらいかナ?」と簡単に足し算ができてしまう。
この状況はいくらなんでも厳しく、おそらく私が手にした雑誌のいくつかは、近いうちに立ち行かなくなることだろう……。
ま、しかしこれはもちろん、男性ファッション誌に限ったたとではない。雑誌全体がそうだし、もっと言えばテレビ、新聞、ラジオを含めた4マス全体も同じである。
ここ最近、4マスの広告はやや持ち直していると言われているが(とくにテレビ)、これはあくまで下げ止まったというレベルの話であって、かつてのポロ儲けをしていた時代には遠く及ばないし、二度と戻ることはないと思われる。
たとえば私が昨年まで勤務していた出版社は、広告収入の依存度が高い会社だった。
そして、この会社の広告収入がバブル期に匹敵する過去最高レベルを記録したのは2006年のことである。
先週、木曜日のTBSラジオ『dig』(テーマは「ビジネスとしての新聞を考える」)で、荻上チキ氏が「マスメディアの広告売り上げはこの10年間ほどずっと落ちている」というようなことを言っていたが、それは違う。
マスメディアの広告が落ち出したのはネット広告が急激に勢いを増し出した2000年の半ばぐらいからで、それに追い打ちをかけたのがリーマンショックだったのである。
私のいた会社に話を戻すと、2006年に過去最高レベルだった広告売り上げは、それからたった4年後、私が退社した昨年時点でほぼ半減していた。ま、この会社の場合は経営の失敗という側面も少なからずあったのだが、先日、あるテレビ局の広告関係者から聞いた話では、やはりそのテレビ局でも広告売り上げはここ数年で3分の2になったという。
こういう状況であるから、その落ちに落ちた数字に対して、100%をちょっと超えたといっても高が知れており、わずか数年前の全盛期には遠く及ばないのだ。
では、こういう状況に置かれた営業マンはどういう心境になるのか?
私の経験で言うと、去っていってしまったクライアントはもうどうしようもない。最初は、「ネットへ行っても、そのうちまた戻ってくるだろう」という根拠のない淡い期待を抱いたものだったが、そんなものはあっという間に打ち砕かれてしまう。
となると次に考えることは、既存のクライアントを引きとめることと、新規の顧客を開拓することである。
しかしながら、後者はなかなか難しい。最初のうちは、まあまあうまくいくのだが、じきに彼らも離れていってしまう。
では、前者はどうかというと、もちろんどんどんネットへと流れていくのだが、それでも自社の媒体に出稿してくれるクライアントも中にはいる。となると、そういうクライアントに対しては、できる限りのもてなしとサービスをしなければならない。
とくに、ネットと比較すると驚くほどに高額な広告料金を、この期に及んでもまだ支払ってくれる第一級のクライアントのネガティブな記事や情報はもってのほかである。
これは裏を返せば、そういうクライアントのメディアに対する支配力が、これまで以上に強まるということだ。
年明けの成人の日、文化放送の野村邦丸氏の番組を聴こうと思ってラジオをつけたところ、『電気事業連合会 presents 勝間和代と考える 希望の経済学』というスペシャル番組をやっていた。冠のとおり、電気事業連合会(電事連)の一社スポンサーなので、当然、流れてくるCMは原発や核燃料サイクルの啓蒙なのだが、番組の内容もようするにタイアップ広告のようなものである。
私はこの番組をしばらく聴いてみたのだが、放送倫理的には「この放送は番組自体がCMです」というクレジットを入れるべきなんじゃないかと思ったものだった。が、営業サイド、あるいは経営サイドから見れば、普段の同じ時間帯とは比較にならないほど高額な広告収入が得られるのだから、リスナーがなんと言おうと、あるいは制作現場が文句を言おうと関係ない……といったところなのだろう。
しかも、この番組は過去にも放送されたことがあるらしい。
であれば、今後も電事連とお付き合いいただくために、会社全体として原発や核燃料サイクルに関するネガティブな報道はできる限り避けようという方向へ行くことは間違いない。
と、このように広告大不況下のマスメディアにおいては、一部のカネのある有力クライアントの影響力が増す。これはクライアント自身もわかっているはずで、むしろそれを狙っての、単純な費用対効果とは別の意味での広告出稿という意味合いが強まっていくだろう(もちろん、それはこれまでにもあったが、その性格がさらに強くなっていく)。
しかも、クライアントの主張や宣伝、啓蒙が純広告という手法にとどまらず、番組やページの中に巧妙に紛れ込んでいくケースも多くなるはずだ。
すでにジャーナリズムとしてのマスメディアは十分に劣化しているが、貧すれば鈍する。こうなると、今後、広告サイドからの圧力によって、さらにその劣化が進んでいくと私は思う。
執筆: この記事はkappamanさんのブログ『誰も通らない裏道』からご寄稿いただきました。
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