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責任放棄?日本気象学会理事長コメントから見る「放射性物質の拡散予測が出てこない理由」

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「福島原発から流出した放射性物質はどのように拡散するのだろう?」これは近辺に住む方にとって、たいへん気になるところだと思います。しかし、そのことに関する情報はいまだ断片的。さらに踏み込んだ、「放出」と「拡散」についてやそれら放射性物資がもたらす影響の予測に関しては、23日に原子力安全委員会より発表された「SPEEDIの試算( http://getnews.jp/archives/106233 )」がある程度です。なぜそのような状況なのか。海外では早い段階から予測まで含めた情報の公開がなされているのに国内の科学者・専門家たちは何をし、どう考えているのか。なぜ積極的な情報公開をおこなわないのか。3月18日に日本気象学会理事長から以下のようなメッセージが出されたのですが、それを読むことでその理由の一端を知ることができます。

東北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージ
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/others/News/message_110318.pdf
(2011年3月18日)

一部引用します。

しかしながら、放射性物質の拡散は、防災対策と密接に関わる問題であり、適切な気象観測・予測データの使用はもとより、放射性物質特有の複雑な物理・化学過程、とりわけ拡散源の正確な情報を考慮しなければ信頼できる予測は容易ではありません。今回の未曾有の原子力災害に関しては、政府の災害対策本部の指揮・命令のもと、国を挙げてその対策に当たっているところであり、当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは、徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません。放射線の影響予測については、国の原子力防災対策の中で、文部科学省等が信頼できる予測システムを整備しており、その予測に基づいて適切な防災情報が提供されることになっています。防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです。会員の皆様はこの点を念頭において適切に対応されるようにお願いしたいと思います。
(「東北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージ」より引用)

※太字は記者によるもの

ざっくりといえば要するに、予測は容易ではないのでそのような情報を「一般」に公開してはいけない、ということを学会の人達に伝えている内容です。

学問とは自由なものだと思っていたんですが、こんなメッセージが理事長から出されるなんてことがあるんですね。

●科学者の「絶対はない」「断言できない」がうみだす情報不足
水道水や野菜などの汚染に関する「ただちに健康に影響を及ぼすものではない」という専門家の言葉。メディアを通しておききになった方も多いと思いますが、記者はどうもタバコのパッケージの「喫煙は、あなたにとって~の危険性を高めます」に似た印象で、歯切れが悪くてぼんやりしているように感じます。そして、今回の問題に関しても、根っこは同じであるように思います。

一体研究者はどう考えているのでしょうか。積極的にウェブサイトで情報発信をおこなっているスウェーデン宇宙物理学研究所の山内正敏さんにコメントをいただきました。

簡単に言うと責任放棄です。情報をどう出せばパニックを最小限に出来るか(例えば台風の予報進路とか)という推薦をする代わりに、全てを隠匿というのは危機に際して全くの責任放棄としか思えません。

個人的にはシミュレーションモデルが一人歩きする怖さよりも、何の情報も与えない方がパニックを起こす訳で、しかも海外のシミュレーション(僕のサイトからリンクしているだけで4つもあります)の読み方を解説せずに、『正確なシミュレーションが出来るまで何のアクションもしない』というのは、科学者として無責任過ぎるというのが僕の考え方です。ちなみにノルーウェーは研究所の同僚が推薦してくれましたが、フランス、ドイツ、オーストリアは全て他のサイトから拾って来たもので、もしも僕があのような文章を書かなかったら、そのシミュレーションがそれこそ勝手に一人歩きして混乱に陥っていた筈です。正直言って、気象学会の文書には失望しました。
(スウェーデン宇宙物理学研究所 山内正敏さんコメントより)

※山内さんは「放射能漏れに対する個人対策( http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html )」というページを公開しておられます。

●議論の状況の公開を
確かにでたらめな情報は困りますが、まったく情報が出てこない状態というのも困ります。理事長メッセージから想像するに信頼できる気象観測データの収集が難しい状態なのかもしれません。しかし、放射性物質による汚染に関しては「今、どのような状態にあるのか」「これからどのようになるのか」についてしかるべき情報が示されないと、いつまでも不安が拭い去れないのではないでしょうか。また、情報公開できないのであれば、何故公開できないのか教えて欲しい。その「公開できない理由そのもの」もひとつの大事な情報です。「一般に伝わらない」ところでは、議論がおこなわれているのでしょうが、その議論の過程だけでも公開してもらえれば、安心につながるのではないかと思います。「科学的態度」は研究者として大事な姿勢かもしれませんが、状況によっては柔軟に対応すべきなのではないでしょうか。これは実験室ではなく、人々が実際に生活する空間で現在起きていることなのですから。こういうときだからこそ、専門家はその真価が問われているような気がします。


関連)
・ガジェット通信への情報提供はこちらから
http://getnews.jp/mail

・山内正敏さん「放射能漏れに対する個人対策」
http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html

・東北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージ
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/others/News/message_110318.pdf

・2011年3月23日に原子力安全委員会より発表された「SPEEDIの試算」
http://getnews.jp/archives/106233

・「SPEEDIとは」環境防災ネット
http://www.bousai.ne.jp/vis/torikumi/030101.html

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記者:

ニュースサイト『ガジェット通信』発行人。未来検索ブラジル代表。東京産業新聞社代表。ハリウッドエンターテイメントビジネス誌『Variety Japan』Senior Editor。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラクターに興味がある。好きな食べ物はシュークリーム。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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