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首都圏のみなさんへ 西へ行こう

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今回は江島健太郎さんのブログからご寄稿いただきました。ご意見は記事下のコメント欄へどうぞ!

首都圏のみなさんへ 西へ行こう
未曾有(みぞう)の大災厄となってしまった東北大震災。起きてしまったことを嘆いたり、電力会社や政府の対応を非難したり、努力や負担を負わずに安全地帯から良い活動をしたつもりになる自己満足的な行為であるスラックティビズム *1 でガス抜きしたり、そういったことは今なんの役にも立たない。そういうことはあとで好きなだけやればいい。まさに今、自分たちには何ができるのか、何をするべきか、そのことを考え抜いて行動に移そう。

*1:スラックティビズムとは「怠け者(slacker)と社会運動(activism)とを掛け合わせた合成語である。努力や負担を負わずに、社会運動めいたことをする行為を指す」『Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/スラックティビズム

なかでも、圧倒的な人口がいて、被災地と資源面で密接に接続されている首都圏のひとたちにむけて、この記事を書いている。あなたたちが、この震災の復興における大きな鍵を握っていると思うからだ。

震災の余波が長引くにつれ、首都圏でも市民生活のライフラインであるところの電力、ガソリン、水、そして食料が不足してきている。そして、今後その傾向はもっともっと深刻になっていくだろう。現代では電力がすべての経済活動のインフラだから、電力の不足が累積的に効いてきて、時間とともにさまざまなかたちで資源の不足が表面化するだろう。

よく知られているように、西日本と東日本の電力系統には50/60Hzの周波数の壁がある。中部でスパッと二分されているのだ。(トップ画像参照)

そして、中部にある変換所の容量は限られてるから、西日本で節電した分を東に送電するというのも、たいへん難しい。聞くところによると、東京電力で必要な2%ぐらいしか送ることができず、いま原発トラブルで渦中の福島は東京電力の3割を引き受けていたから、首都圏での電力不足の長期化はどうにも避けられないそうだ。

そんななか、なんとなく今ままでどおり、漠然とした不安を抱えつつ通常業務を続けている会社が都内には多いと聞く。計画停電やスーパーでの買い占め、ガソリンの行列など、プチパニックが起きつつあることを感じてはいるけれど、まったく仕事にならないというほどではないから、どうしていいのかよくわからない、というあたりが本音なのだろうとおもう。お客さんもまだ営業しているし、アポイントメントもあることだし、しばらく様子をみながら考えよう、といったところだろう。

しかし、危機管理意識から、社員には自宅待機を命じつつ、先陣を切って直近のアポイントメントを全てキャンセルしたある知人経営者によると、アポイントメントをキャンセルした相手から「こちらから切り出せなくて困っていたので感謝します」と言われたという例もある。相手の気持ちを思えばこそ、自分から動く、というのもひとつのビジネス的な誠意のかたちであるだろう。

同じことは、従業員に対してもいえる。今は誰しもが不安な気持ちで日夜をすごしている。福島原発の問題は日々エスカレートし、毎日どころか数時間おきに想定外のトラブルが起きている。仮にチェルノブイリ級の最悪の事態が生じても都内での生活に実質的な問題が及ぶ可能性は極めて低い、と頭ではわかっていても、人間がなにかを不安に思う気持ちというのは極めて動物的な、本能的なものであり、短期間に知り得た知識と推論だけで100%冷静でいられる人など、ほとんどいないのだ。

東大物理学科長の早野教授の『Twitter』からは福島原発の燃料棒が十分冷えるには数か月から年単位の長期戦になる可能性があるとの検証データが上がってきた。人間の精神は、これほどの極度な緊張状態に長期間耐え続けるようにはできていないから、いつかこの危機的状況にも慣れてしまい、鈍感になっていくだろう。前線では一瞬たりとも気の抜けない状況が続くにもかかわらずだ。

そんな状況下にあって、従業員に平常時と同じパフォーマンスを求めることにある種のモラルハザードを感じるのが、社会の公器たる企業の経営者としては通常の感覚だろう。誰もが漠然とした不安を抱えているとき、限られた情報と不確実性のなかで、少々間違っていることはあっても進むべき方向を示し、自分たちの仕事を社会的な使命と結びつけていくのがリーダーの役割であるとおもう。

だから、仕事を続けることで経済を活性化させ、復興に貢献しよう! という心意気は大変すばらしい。電力消費を大規模に節約することに成功したヤシマ作戦も、日本人の協調的性向のよい面が活きた、素敵なエピソードだ。それでも、そこにいるというだけで、いくばくかのエネルギーを消費し、食料を摂り、ガソリンを直接的あるいは間接的に燃やしているのはゆるぎない事実である。

ここで、ロジカルに考えてみよう。

電力、交通、住居、食品、物流、医療などのライフラインにかかわるような職業に従事していない、とくにいわゆるデスクワークのひとたちは、おそらく仕事を通じて困っている人を助けることには、直接的にはほとんど貢献できないと思う。自分の仕事をふりかえってみて、自分という存在の“救済への貢献度”と“資源の消費量”を比べてみて、後者のほうが大きいと思ったなら、短期間でも思い切って西日本へ行くというのは、社会への貢献のかたちといえるのではないだろうか。

都民人口は約1200万人、もしこのうちの10%が西日本へ移動すれば、100万人単位で東日本の資源消費がおさえられる。被災地で避難所に身を寄せている人の総数が45万人といわれているから、その数、実に2倍以上だ。実際にまるまる10%移動することは現実的ではないにせよ、西日本出身者が実家や親族のところへ転がり込むケースだけでも、それなりの吸収力はあるはずだ。

いやそれだけではない。今、経営者が試されているのは、不確実な未来に対するリスク感覚だとおもう。とくに頭脳労働者においては、この電力情勢が長期化するようなら、このまま都内にいても、どんどん疲弊していき生産性は低下していくばかりだろう。ましてや自宅待機を続けるのであれば、そもそも生産活動に従事していないのだから資源を浪費するばかりである。

そして、状況が悪化していく原発問題、どこまで行けば都民がパニックを起こしてしまうのか起こさずにすむのか、誰にも予見できない。確率は高くないと思うが、いったんパニックがおきれば、これは原発事故そのものよりもはるかに危険なことで、急速に治安が悪化し経済活動が沈降してしまう。問題は「あなたがパニックを起こすかどうか」ではなくて「みんながパニックを起こすかどうか」なので、これは努力の問題ではなく、むしろ天気予報や市場予想にちかいイシューだ。

そんな状況のなかで、日本人の美徳をことさら強調したり、パニックを起こさないように呼びかけよう、などという平和思想は、有事においては何の役にも立たない。近所のスーパーで食品を買い占めている人ひとりさえ、あなたには止められなかったのだ。人間の感情は集合的には極めて自然現象にちかい様態を示すので、やってくる津波に止まってくれといってるような無意味さを、私は感じてしまう。早めに少しでも人口を西へ移動していき人口密度を薄めておくことは、万が一、非常事態宣言が出されたときに交通機関に人が殺到したり、生活資源を奪い合うといったパニック的事象を引き起こす確率を下げることに直接的に貢献できる。

そういったもろもろの可能性を考慮すれば、早い段階で西日本で安心して仕事ができる拠点を準備し、不安に思っている従業員や都内を離れることに抵抗のない従業員をはじめ、情勢をみながら東西で柔軟に人材を動かせるような体制を、もう模索し始めてもよい段階ではないかと思う。

実際、私の会社パンカクでは、早速この週明けから可能なかぎりの社員をつれて岐阜の宿泊施設に期限なしの滞在を決め、到着から24時間でオフィスを立ち上げた。20代前半の単身者が多く、ノートパソコンさえあればどこでも仕事ができるテクノロジー系スタートアップだから可能だったといえるかもしれないが、本気で取り組めば結構な数の企業が、同様のことをできるはずだ。

先に述べたとおり、東西での電力の融通はほとんどできないから、西日本で電力を節約することは、役に立たないどころか日本経済全体の萎縮効果を考えれば有害とさえいえる。西に行ったひとたちは、思い切ってのびのびと働き、暮らせばいい。西日本は、そういった企業をどんどん呼び込めばいい。かつてぼく自身も経験し、各方面からの支援によって阪神大震災から立ち直った西日本は、これからは日本を元気にしていくためにも、むしろたくましいナニワ商魂を発揮していくべきときなのだ。

商魂といえば、なかには乾電池パックを9800円で売るなど、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』にハリケーン・カトリーナの例で出ていたような、便乗値上げをする業者はこれからも出てくるだろうが、これは心情面はともかく選択肢が増える方向に作用している限りにおいては、安易に規制などで締め出すべきではないだろう。またそれとは別に徐々に需給を反映して電力価格や物価が上がっていくだろうが、結果としてより多くの人を都内から流出させる圧力になるかもしれない。

余談だが、私の住むサンフランシスコでは、しょっちゅう“無”計画停電が起きる。大規模なものはまれだが、ローカルなものは本当にしょっちゅうだ。アメリカで電気屋やオフィス用品店に行ったことのある人なら、無停電電源装置(UPS)の品ぞろえの豊富さに驚いたことがあるだろう。停電がおきても、みなFour-way stopsに慣れてるから、信号機が消えていても混乱しないし、まったく動じない。職場でも明るいうちに停電が起きたら、みなおもむろに本を読み始めたり、ドライブにでかけたり、そのまま帰宅してしまったりする。

そんなのんびりしたワークスタイルのアメリカ人に、なぜあくせく働き、計画停電が“行われなかった”ことにさえ腹をたてる日本人が、経済成長率でも一人当たり生産性でも勝てなかったのか、ということについては、一考に値するとおもう。どのみち、今までのやり方を続けたのでは勝ち目はないのだから、過剰品質に飼いならされていたワークスタイルやライフスタイルを、いまいちど見直すきっかけにもなれば、転んでもただでは起きない日本人の強さが生きてくるのではないか、という希望を個人的には持っている。

ここからの復興は、私たちひとりひとりの意思と行動にかかっている。

自分にできることから始めよう。

画像:「日本の電力系統」Wikipedia』より引用
http://ja.wikipedia.org/wiki/電力系統

執筆: この記事は江島健太郎さんのブログからご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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