実感できない景気回復、実質賃金が下がり続ける理由
実質賃金は前年比3.0%減で4年連続のマイナス
厚生労働省が、5月19日に発表した2014年度の毎月勤労統計調査によると、実質賃金は前年比3.0%減で4年連続のマイナスでした。この下落率は、現在の方法で統計を取り始めた1991年度以降で最大となっています。
月別にみても、同省が5月1日に発表した3月の毎月勤労統計調査(速報)で、実質賃金は前年同月比2.6%ダウンで、23カ月連続でマイナスとなっています。
実質賃金が下がり続ける理由
問題としているのは、額面上の給与である「名目賃金」ではなく「実質賃金」で、物価の上昇との関係を考慮に入れたものです。額面上の賃金が増えても、それ以上に物価の上昇が大きいと家計に余裕は生まれません。
実質賃金が下がり続ける理由は、名目賃金の上昇が見られるものの、それ以上に物価上昇が大きいからです。一番の犯人は、昨年4月の消費税率引き上げです。税率アップ・2%分そのままの物価上昇をもたらしました。その後、少しずつ消費税率引き上げの影響が薄らいできたものの、原発稼働停止による電気料金の値上げが続き、さらには急激な円安により輸入価格が上昇し、家畜のえさや小麦粉などに影響を及ぼしました。
これにより、牛乳やパン、麺類といった製品などの値が上がり、外食を中心に幅広い品目の価格がアップして物価上昇が続いています。
「実質賃金に上昇の兆し」は統計のマジック
厚生労働省が6月2日に発表した4月の毎月勤労統計調査(速報値)では、実質賃金が前年を0.1%上回りました。24カ月ぶりの増加です。ところが素直には喜べません。なぜなら、今回プラスになったのは昨年4月比の数字です。昨年4月といえば消費税率が3%上がった月で、その分物価が大幅に上がり実質賃金が大きく下がっていた月だったからです。統計のマジックと言ってもよいでしょう。
今後については、幅広い品目が値上がりしている状況から、名目賃金は上昇してもしばらくは実質賃金の上昇は期待できそうにありません。
実質賃金の「一時的」な低下はデフレ脱却過渡期で見られる現象
実質賃金低下にもプラス面があります。それは、実質賃金の低下により、企業にとっては雇用コストが減少したのです。実はこれが、アベノミクスによって100万人の雇用を生んだ要因のひとつになっているのです。失業率が十分に下がりきっていない状態での実質賃金上昇は、逆に失業者の増加を招く可能性があるのです。
また、実質賃金の「一時的」な低下はデフレ脱却過渡期で必ず見られる現象です。つまり、実質賃金の「一時的」な低下は、デフレを脱却するためには避けて通れない道なのです。そして、デフレ脱却過渡期を抜け物価の水準が安定すれば、物価の伸びに賃金の上昇が追いつき、やがて実質賃金は上昇に転じるでしょう。
現在は、その「一時的」な段階にあるのではないでしょうか。消費税率10%への引き上げを控えていることが気がかりですが、デフレ脱却までもう少し期待しようではありませんか。
(米津 晋次/税理士)
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