『チャッピー』劇中ロボを比較紹介 これは数々のロボットを生み出してきた日本でこそ愛されるべき映画だ!
『第9地区』のニール・ブロムカンプ監督による最新作であり、AI(人工知能)を搭載した人型ロボットの成長と苦悩を描いたアクションSF映画『チャッピー』が、5月23日(土)より日本公開となります。
天才ロボット開発者“ディオン(デーヴ・パテル)”によって生み出された“チャッピー”は、自ら考え、感じることのできる世界初のロボット。元々は街を犯罪組織から守るロボット警官の1体だったチャッピーですが、ひょんなことから人工知能を搭載された挙句、ギャングに誘拐されて以降は自ら生きる術を身に着けていきます。
一方で、「考えるロボットは人類を破滅に導く」と信じる元軍人のエンジニア“ヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)”は、ロボット警官の代替品として大きさも機能も過剰なロボット“ムース”を開発。劇中ではこの2人と2体が、壮絶でバチバチなバトルを繰り広げていくのです。
そこで今回は、ブロムカンプ監督や関係者のコメントを交えながら2体のロボットを徹底比較。彼らの対決の行方を劇場でより楽しむための予習編をお届けします。
感じ、考えるロボット“チャッピー”
ブロムカンプ監督が「デザインは『アップルシード』の“シロウ・マサムネ(士郎正宗)”から影響を受けているよ」と明かしているように、チャッピーは2足歩行の人型ロボット。言葉や身振りだけでなく、耳の動きや目の光によって細かな感情を表現することができます。
レーザービームが発射されるなど未来的な機能は搭載されておらず、武器としてAKS-74Mアサルトライフルを手にして凶悪犯に立ち向かいます。未来のロボットと聞くと流線的なフォルムを思い浮かべる人も多いと思いますが、首や腰のあたりでケーブルがむき出しになっているデザインに、政府が予算内で大量生産できそうなリアリティを感じさせます。
『AIBO』などのロボットペットを愛で、ロボット掃除機にさえ名前を付けて家族のように扱う日本人は、これまで『ASIMO』の成長や『Pepper』の登場など、人型ロボットに対して幾度となく胸を高鳴らせてきました。そんな我々が、チャッピーが傷つき、悩む姿に感情を強く揺り動かされるのも当然と言えるでしょう。
そしてチャッピーは、創造主であるディオンと育ての親であるギャングとの間で相反する社会性を教え込まれ、次第に自身がロボットであることに疑問をいだくことに。この辺りは考えるロボットとして手塚治虫氏が『鉄腕アトム』を生み出して以降、綿々と受け継がれてきたテーマと共通する部分です。
さらにブロムカンプ監督は本作を通じて「知能とは何か、意識とは何か、神は存在するのか、魂は存在するのか、魂とは何か」というテーマを描いており、士郎正宗氏の名前を挙げたことからも、もしかしたら『攻殻機動隊』を連想する観客も多いかもしれません。
破壊力重視の“ムース”
一方で、人工知能に断固反対するヴィンセントが開発した“ムース”は、チャッピーと同じく2足歩行でありながら戦車などの重量兵器と脚部を組み合わせたようなデザインのロボット。
『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するキャラクターのように自分が乗り込めるだけのスペースはありそうですが、こちらは『鉄人28号』的な遠隔操作をするタイプのマシンです。余談ですが、『第9地区』でも登場していたように、ブロムカンプ監督は脚が逆関節のロボットがお好きなようですね。
「ムースは風刺になっているんだ。軍需会社が、納税者に高い税金を負わせて作る、非常に高価で非効率的で、やたら大きくて厄介な機械だよ。僕が思いつく限り、これ以上ないほど無骨で余計な機能だらけのクレイジーなコンセプトだった」(ブロムカンプ監督)という言葉の通り、ロボット警官の代替品には似つかわしくないミサイルなどの軍事的な機能を搭載したムース。その姿はさながら『超時空要塞マクロス』に登場するガウォークを連想させます。今作でも『第9地区』で見せてくれたような“板野サーカス”演出が飛び出すのか、劇場で注目してみて欲しいところです。
人工知能は人類を救うのか
「チャッピーは生きて呼吸する極めて人間的な生命体であり、たとえ彼自身が人間でなくても人類にとっての最後の希望なのだ」と考えるディオン。そして、「考えるロボットが人類の終わりを意味する」と提唱するヴィンセント。
確かに、『2001年宇宙の旅』の“HAL 9000”に始まり、『ターミネーター』シリーズ、『マトリックス』シリーズなど、自我を持ったコンピューターの反乱を描いたハリウッド映画は数知れません。しかし、『フランケンシュタイン』の怪物に恐怖や悲哀を感じる西洋人的な感覚を持つヴィンセントよりも、どうしても我々は人間と心を通わせる『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に夢や希望を抱いてきた日本人と近い感覚を持つディオンを応援したくなってしまうのです。
とはいえ、ヴィンセントを演じたジャックマンは「人工知能を作るのは、人間が神を演じることだ、と彼は考えている。彼の持論は、犯罪とは予想がつかないもので、それゆえに犯罪は人間の問題だし、いかなる武器も人間がコントロールすることが極めて重要だ、というものだ」と説明しており、ズル賢い悪役として登場する彼にも“彼なりの正義”が存在することが分かります。
現実社会においても、「人工知能が知力で人類を上回るようになるかもしれない」(スティーヴン・ホーキング博士)、「私も人工知能を恐れている人間の1人だ」(ビル・ゲイツ)などと危険視されるAIの存在。ブロムカンプ監督の言葉を借りれば、「人工知能は我々人間が不死身になることを可能にするのか、それとも我々を絶滅させてしまうのか」という問いに対し、本作の結末において彼なりの解釈が示されることになります。みなさんも劇場でそのメッセージを目撃し、ぜひ自分なりの回答を考えてみてはいかがでしょうか?
ガジェット通信『チャッピー』特集ページ:
https://getnews.jp/chappie
(C)Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
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