『新宿スワン』園子温監督&山本又一朗プロデューサーにインタビュー 二人をうならせた綾野剛の役者魂とは?
新宿・歌舞伎町の裏社会を描いた大人気コミックを鬼才・園子温監督が映画化した『新宿スワン』(5月30日公開)。綾野剛さん、山田孝之さん、沢尻エリカさん、伊勢谷友介さんら豪華キャストを迎え、女性たちに水商売の斡旋をするスカウトマンたちの熾烈な抗争を描きます。
このたびガジェット通信は、『ヒミズ』、『TOKYO TRIBE』などの漫画を原作に独自のエンターテインメントに作り変えてきた園子温監督と、『クローズZERO』シリーズ、『ルパン三世』など、実現困難な企画にあえて立ち向かい大ヒットさせてきた山本又一朗プロデューサーにインタビューを実施。なお、山本さんは“水島力也”名義で本作の脚本にも参加しています。
<ストーリー>
親にもツキにも見放され、帰る電車賃もない白鳥龍彦(綾野剛)は、新宿にやって来る。チンピラたちに絡まれ大乱闘になったところを助けてくれた真虎(伊勢谷友介)にスカウトをやらないかと誘われる。それは幸せ請負人。いい女を探してクラブにホステスを紹介する仕事だ。「俺がスカウトした女の子には必ず幸せだって言わせます!」男と女の欲望が交差するこの街で、龍彦は一端のスカウトマンになることを誓う。この先に待ち受ける、過酷な試練を知らずに――。
監督や役者の暴走が不可欠
――まずはお二人のご関係について伺いたいのですが、親交はいつ頃からあったのでしょうか?
山本P:監督のデビュー当時から、食事会の席とかでは顔を合わせていました。
園監督:仕事ではなく、映画人が集まる飲み会とかで。
――満を持して、ようやく一緒に作品を作ることができたわけですね。
山本P:彼自身は領域を狭く深く絞り込んでいくような作風だったから、低予算の中でも創意工夫によって新しいことを生み出そうとする技量が世間に評価されて、次第に“低予算の帝王”みたいな扱いになっちゃったわけ。でも彼はそれで満足するような人間じゃないし、メジャー映画でも良い味を出せるという確信があったから、いつか一緒にやろうとは話していました。『新宿スワン』については脚本の内容に合意してもらった上で、“園ワールド”をうまく混ぜ合わせてくれたので狙い通りの作品になりましたね。
――監督はご自身が脚本に携わっていない作品ということで、いつもと違った難しさはありましたか?
園監督:まったくないです。むしろ今までと同じことをやり続ける方が違和感なので、常に前の作品とは違うことをやりたいんですよ。今作で演出に徹したのはもの凄く楽しかったし、新しい発見がいっぱいありました。
――原作自体はオファーを受けてからお読みになったのでしょうか?
園監督:『ヤングマガジン』で毎週読んでいました。めちゃくちゃ面白かったです。映画化するっていう話も誌面の情報で知ったので、当時は誰が監督するんだろうって思っていました(笑)。『ヒミズ』とか『みんな!エスパーだよ!』とか、なぜか僕は『ヤンマガ』の作品に携わることが多いんですよね。
――山本さんも漫画原作の作品を数多く製作されていますが、原作ファンがいることで特有の難しさは感じませんか?
山本P:『ルパン三世』なんかは『漫画アクション』の連載当初から愛読していたし、若い頃は原作者のモンキー・パンチさんとも付き合いが深くてよく新宿でご一緒して飲んでいたので、「俺は原作の原点に対する理解がある」みたいなことを勝手に信じ込むんですよ。周りの目を気にし始めたら悩みは尽きない。だから出てくる結論は「誰の言うことも聞かねえ」となる(笑)。もちろん脚本だけは各所の合意を得てスタートしますけどね。でも原作漫画の高揚感をのびのびと表現するには、監督や役者のやり過ぎ感と言うか、“暴走”が不可欠なんです。
――今作もエネルギッシュな作品になっていますが、現場で暴走は見られましたか?
山本P:初日の撮影が今でも忘れられなくて、綾野剛がとんでもないテンションで現場にやって来たんですよ。龍彦(綾野剛)と真虎(伊勢谷友介)が初めて出会って食事をするシーンだったんだけど、もの凄い勢いで米粒をまき散らしてセリフをまくし立てる姿を見て、「大丈夫かな、これで……」と監督の方をチラっと見たんです。
――劇中でのキャラクター像がそこで決まってしまいますもんね。
山本P:そしたら、「はい、OKでーす」って言いながらも、悩んでいるのが分かるんです(笑)。でも結局あのハイテンションを許したことで、剛はその後の演技でも原作漫画の持つコミカルなデフォルメに対して躊躇せず自信を持って取り組んでいきましたね。映画が原作の世界観に肉薄できたのは、あの初日の出来事がすべてだと思っています。
――監督としては、結構悩まれたんですか?
園監督:とにかくビックリしちゃって、伊勢谷くんも驚いてちょっと引いてたし(笑)。でもそこで、このテンションの演技をケアしていこうと現場の方向性が固まりました。
――ちなみに、出演者の中で歌舞伎町のスカウトマンに最も向いているのは誰だと思いますか?
園監督:やっぱり綾野くんは凄く向いてるんじゃないかな。現場では遠くからカメラを回して、街の中で延々とスカウトしてもらったんですよ。もちろん女の子はエキストラを用意してたんだけど、アドリブで女の子とタクシーに乗り込んじゃって……。龍彦というキャラを演じてはいるんだけど、さばき方が素晴らしすぎてコイツは本物だと。
大きい夢をドカンと抱いて欲しい
――新宿・歌舞伎町のイメージや思い出などがあれば聞かせてください。
園監督:地方にいたころから、東京って聞いて思い浮かべる街はやっぱり新宿だったんですよ。今は昔の新宿とはちょっと変わってしまいましたけど、渋谷や原宿とは違うギラギラした雰囲気がありましたね。だから映画を観ると、歌舞伎町ってこんなにきらびやかで若いキレイなお姉ちゃんがごった返しているかな? と思うかもしれませんが、今よりも活気がある頃の新宿を混ぜちゃいました。
――龍彦のように、無一文で東京のど真ん中に飛び込んでみようと考える若者は珍しくなっているかもしれないですよね。
山本P:今は不景気だと言われながらも非常に充足している社会で、さしたる情熱を持たずとも不便なく生きていける。だから大きな希望や夢を持って生きていこうと考える若者は少なくなってるんじゃないかな。とにかくトップを目指して上りつめるという人生観を持っていた僕らの時代とは違う気がするんです。そんな世の中だからこそ、龍彦のような生き方は見ていて面白いんだよね。志を持って「俺はこう生きていくんだ」と大声で叫んでみる生き方は大変だけど楽しいと思いますよ。
園監督:最近の日本映画でも、あまり野望を持たない若者が主人公で、しがない生活を送っているのがイカしてるみたいな作品が多すぎると思ってるんです。龍彦のように時代と逆行して生きている若者の姿に挑発されて、小さくまとまらずに大きい夢をドカンと抱いて生きて欲しいですよね。
――そんな園監督は、以前ガジェット通信のインタビューで「監督は辞める方向に進んでいる」とおっしゃっていましたが、今も変わらないですか?
園監督:それは僕の口癖なんです(笑)。映画の撮影って次回作のことは考えられなくなるくらい労力を必要とするから、撮影が終わった頃には「あぁ、辞めたい」って思っちゃうんです。
山本P:最後の一作のつもりで臨むという覚悟だろうね。
――気が早いですけど、『新宿スワン』の続編にも期待しちゃうのですが……。
山本P:作っていて本当に楽しかった。もっともっと龍彦を見たいし、やりますよ絶対! と言っても、それをジャッジするのは観客なので、まずは今作を楽しんで欲しいですね。
――監督の引退はまだまだ先になりそうですね(笑)。本日はありがとうございました!
『新宿スワン』公式サイト:
http://shinjuku-swan.jp/
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