Salyu「話したいあなたと」第4回:清 竜人

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Salyuの対談企画「話したいあなたと」。第4回のお相手は、2009年のメジャーデビュー以降、孤高のソングライターとしての存在感を放ちつつ、近年はアイドルやアニメ文化にも接近し、昨年“一夫多妻制”のアイドルプロジェクト、清 竜人25を始動した清 竜人。2人はこの日まったくの初対面だったが、待ち合わせ場所に現れた竜人の衣装(私服!)を一目見た瞬間からSalyuは相好を崩し、すぐに意気投合した。そして、中華料理店で酒を酌み交わしながら行われた対談も実に愉快で興味深い内容になった。

——今日は初対面ということで、まずはお互いの印象から聞かせてもらえたら。

Salyu「冷静で、知的。さらに、いろんな面があるのを感じる。自分の多面性を許容しているというか。こういう方はあまり会ったことがないなって思った。こうやってみんなでお酒を飲みながら食事をしていても、今日のファッションにしても、自分の心地いいあり方を知っている人なんだなって。イスの上であぐらをかいてたりね(笑)。そういうところも素敵だなと思う」

清「僕、無礼なことしてないですか? 大丈夫ですか?」

Salyu「無礼なことなんてなんにもしてない(笑)」

——でも、つかみどころがない人というのは、竜人くんはしょっちゅう言われてると思うんですけど。

清「そうですね。特に作品をリリースすると、常に前作と振れ幅が大きいからそういうふうに言われますね」

——竜人くんとしてはどれも自分だという感覚なんですよね?

清「自分ではね、そう思うんですけれども(笑)」

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——竜人くんはSalyuさんにどんなイメージを持ってましたか?

清「僕はLily Chou-Chouのイメージが強いですね」

Salyu「へえ! うれしい。竜人さんは私の10歳下くらいですよね。Lily Chou-Chouはリアルタイムではないでしょ?」

清「はい、たぶんリアルタイムではないんですけど、映画(『リリイ・シュシュのすべて』)をきっかけにLily Chou-Chou知って。邦画が好きでよく観ていた時期があったんです。あと、ASA-CHANGが僕のソロデビューのタイミングからドラムを叩いてくれてたんですね。だからASA-CHANGとは19歳のときからの付き合いで。そのなかで『最近Salyuさんとのレコーディングに参加してる』という話を聞いたことがあって。だから、Salyuさんを見ているとASA-CHANGの顔が浮かびます(笑)」

Salyu「あははははは。そうか、そうか」

清「あとは、Salyuさんは話し声と歌声が近いですよね。今日始めてお会いして、お話させてもらってそう思いました。話声と歌声が違うタイプの歌い手さんも多いと思うんですけど。ここまで近い人ってわりと少ないんじゃないかなって」

Salyu「初めて言われた!」

清「まるで歌ってるみたいに話しますよね。今の『初めて言われた!』というのも歌のようだなと思います」

Salyu「ありがとうございます(笑)」

——以前、竜人くんにインタビューしたときに印象的だったのが、基本的に女性ボーカルの音楽しか聴かないと。それか、インストものしか聴かないと言っていて。

清「そうなんですよ。理由は感覚的なことがいちばんなんですけど」

Salyu「ああ、そうなのかなと思った」

——どういうところに?

Salyu「竜人さんの歌に女性っぽさを感じたからかな。女性シンガーって振る舞いが重要で。人とどう話すかということも歌に直結するんですよね。そういう意味で竜人さんは女性的な、繊細な感性を持ってる方なんだなって思いました。それはひとつの好意的な思いとして」

清「ありがとうございます。自分が歌をやってるから、ほかの男が歌ってる曲を聴くと胸くそが悪くなるんですよね」

Salyu「あはははは!」

——ノイズに感じる?

清「ノイズに感じますね。聴きたくない。特に日本人の男の歌は」

——その感覚はずっとあるんですか?

清「ずっとありますね。音楽を始めた高校生のころから。音楽に対する自我が芽生えて、自分がこれから音楽をやっていこう、音楽で飯を食っていこうと思った時期からありました。日本人に限った話で言えば、僕は女性アーティストのほうが才能のある人が多いと思います」

Salyu「見当違いかもしれないけど、私もわかる気がする。私はね、10代のころに男性の歌ばかりうたっていたんですよ。でもね、やっぱり男性の歌って理解できないんですよね。同性の表現は母親の言い回しひとつにイラッとするのと一緒で、わかっちゃうんですよね。そこにある本音や下心が。でも、男性のことはたぶん一生涯わからない。だから一生涯ミステリアスな存在でもある。その分、そこに対して持てる想像力の幅が広いんですよね。同性はわかってしまうから狭いんだけど。そういう意味で私も異性の歌に惹かれるところがある。もちろん、竜人さんは音域が女性シンガーのほうが好きとか、そういうところもあるとは思うんだけど」

清「おっしゃるとおり僕は男だから同性の表現がわかる部分が多いので興味がない、そこに学ぶことがないと思うところはありますね」

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——しかし、最初に清 竜人25のコンセプトを聞いたときは「そうくるか!」と思いましたけどね。ハーレム状態な一夫多妻性アイドルっていうやり方があったかって(笑)。

清「僕は飽きっぽいけど音楽活動は続けたい、今までやったことのないジャンルの人たちと仕事したいという思いのなかで、こういうコンセプトを思いついたんですけど。まあ、もちろん下心もあるんですけれども(笑)」

Salyu「あはははは! いいね」

清「それはもちろんあるんですけど、やるからには自分の遊びだけでは終わらせずにそれをどういうふうに芸術的に落とし込めるかは曲を作るときに毎回計算するようにしていて。ただ女の子のアイドルをプロデュースするだけではおもしろくないと思ったし、そこにどんな味付けができるだろうと思って出てきたアイデアが一夫多妻制っていうコンセプトだったんです」

Salyu「その発想がいいよね。プロデューサーがフロントにいる。アイドル文化のなかでそれはなかなか見れない画ですよね」

——で、おもしろいのが、夫人たちには申し訳ないんですけど、結局竜人くんにばかり目が行くんですよね。まさに夫人たちは華になっていて。それもあらかじめ意図してたことなのかなって。

清「意図って言うほどのものではないですけど、やっぱり名義も“清 竜人25”なので。立ち位置としても、僕が前にいて、うしろに6人の夫人がいるべきだと思うんです。もちろん、メンバー各々の人気が高まっていくのはすごくいいことだと思うんですけど。パフォーマンスとして軸がブレるとおもしろくなくなってしまうから。やっぱり僕が軸にならないといけない。そうしないとモノ作りとしてよくならないと思うから。そこは意識しているというよりは、自然とそうなってるんです。それを踏まえて歌の振り分けやライブパフォーマンスのあり方も考えてますし」

Salyu「ホントにもう優れたプロデューサーだよね。私は『プロデューサー(小林武史)の第何夫人なんだろう?』みたいなところもあるから(笑)」

——あはははは! ちょっといじわるな質問をしていいですか?

Salyu「え、何!? いいよ!(笑)」

——小林さんがほかの女性アーティストをプロデュースするときってSalyuさんは嫉妬心を覚えたりするんですか?

Salyu「そりゃあ若干の焦りはありますよ。『私の提供曲より内容がよかったらどうしょう!?』とか思うわけ。こんなこと初めて言ったよ!? こんなこと誰にも言ったことない!」

清「あははははは」

——あえてもう少しそのあたりの思いを詳しく聞かせてもらっていいですか?(笑)。

Salyu「小林さんが誰々をプロデュースすることになったという話を聞いたときに——ほら、私の音楽人生にとって小林さんはとても大事な親みたいな人だから。だから、ほかの誰かをプロデュースするってなって、率直に『どうしてやることになったんだろう?』ってひとりで考えるわけ。誰かに話を聞いたりせずに。で、実際にその曲がリリースされたら聴いてみるでしょ。そこで自分なりに分析するんです。でね、これは本心なんだけど、曲がそのシンガーにピッタリだったら、私までうれしくなっちゃうんですよ。やっぱり小林さんの洞察力ってさすがなんだなって思う」

——いい話ですね。

Salyu「ただ、最初は『え?』ってなりますよね。でも、シンガーは誰もがプロデューサーにとってのいちばんになりたいと思ってるよ」

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——そのあたり夫人たちはどうなんですか?

Salyu「ね? 気になる」

清「うちの夫人たちはそんなこと考えてるんですかね? ちょっとわからないな」

Salyu「竜人さんのいちばんになりたいと思ってる子がいるなら、私はその子を応援したい!(笑)」

清「あははははは!」

Salyu「やっぱりそれくらいじゃなきゃダメだよ!」

 

——竜人くんも女の子を束ねる難しさってあるでしょう?

清「まあまあありますけど、メンバーとして僕自身もなかに入って、センターを張ってるので。そういう意味では女子だけのアイドルグループに比べるとユルい空気が流れてるとは思います」

Salyu「ああ、なるほどね」

清「それはよくも悪くもだと思うんですけどね。悪い面ではそこまで切磋琢磨がないですよね」

——ああ、そう?

清「がんばってセンターになれるならみんなもっと必死になるのかなって思うんですけど」

Salyu「なるほどね。竜人さんのためにみんなでがんばろうという空気が生まれる現場なんだ」

清「そう。だから逆にいい面では団結感みたいなものは確かにあるんです」

——でも、もうちょっと切磋琢磨感な感じがほしい?

清「それがあるといろんなことが磨かれていくとは思いますね。ただ、うちならではのいい空気感もリスナーのみなさんに楽しんでもらえてるとも思うので。その良し悪しは一概には言えないんですけど」

Salyu「だから、構造としてすばらしいよね。平和主義だしさ(笑)」

——やっぱ一夫多妻制ってすげえなっていう(笑)。竜人くんから夫人たちに細かい要求やアドバイスをしたりするんですか?

清「いや、そんなに言わないです。6人の女子メンバーだけのアイドルグループだったら口うるさくなると思いますけど、自分がメンバーとしてなかに入ってるので。ある意味では、夫人は僕のアクセサリーでもあるから、そんなに口うるさくは言わないです」

Salyu「小林さんがおもしろいことを言っていて。『プロデューサーはマッサージ師みたいなものなんだ』と。その作品とシンガーのどこらへんにコリがあるかわかるらしいんですよね。どこをほぐしたらもっと血行がよくなるとかね。竜人さんも、清 竜人25という大きなコンセプトがあって、どのあたりにどんな力を加えたらいいかとか、どこをほぐしたらいいかが直感的にわかってるんじゃないかな。あらかじめそういう才能を持ってる人っているんだよね。私なんか小林さんに『木を見て森を見ずの代表だ』って言われてるから(笑)」

——プロデューサーからしてみれば、そういう人のほうがプロデュースしやすんじゃないですか? いちいち俯瞰で見る人だったらやりにくいと思う(笑)。

Salyu「そうだよね! すごくぶつかっちゃうと思う」

——清 竜人25は今後もパーマネントな活動を続けていくつもりなんですか?

清「最初はそこまで考えてなかったんですけど、いざ始めてみたらやっぱり楽しくて。それなりに続けてもいいのかなとは思ってます。でも、もともとソロでやってたので、ソロ作品を作りたいという気持ちもあります。なので、そこは並行できたらいいなって」

Salyu「次はどんなソロ作品を作りたいですか?」

清「まだわからないですけどね。ただ、清 竜人25では基本的に衣装がスーツスタイルなんですよ。でも、毎日同じような格好をするのが性格的に無理なので、今日みたいに反動が出ちゃうんですよね(笑)」

Salyu「あははははは!」

——今日は朝からずっとこの格好?

清「朝からです(笑)。家からこれで来ました。まあ、音楽的にも清 竜人25の反動をいいように活かせられたらなと思います」

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——ホントに振り子のようなアーティストだなと思う。

Salyu「ね。特にソロの曲を聴いて感じたんだけど、竜人さんの歌のなかには“僕とあなた”という関係が厳然とあるんですよね。それは清 竜人25にしても、思うところがあって。だって、アイドルって大きな1に対して語りかけていく役割を担ってると思うから、そこにも竜人さんの厳然とした“僕とあなた”があると思うんですよ。曲を聴いていて、ものすごく強い1対1の繋がりを知ってる人だと思った」

清「ここ最近はいわゆるメッセージ性みたいなことを考えて曲作りしたことがなくて。デビューのころ——それこそ弾き語りをやっていたときは余計な音が入ってない分、歌詞が重要でした。でも、ここ2、3年で作ってる作品はそういうものじゃなくて、音楽的にも情報過多で、歌詞に耳がいかないといったら変ですけど、どちらかと言ったら音楽的だったり文化的な側面で捉えられるものを作ってる時間が長くて。それはいわゆる内省的に吐露するような曲ではないんですよね。で、そういう曲を書いてるときの自分が思い出せないんですよ」

——ああ、思い出せないという感覚なんだ。

清「そうなんですよね。そのころはそのころで何かしら考えて、そのときそばにいた相手について歌っていたと思うんですけど。そのときの感覚を思い出せないんです。その思い出せない感じ——音楽的な記憶力のなさが、僕の作品性がコロコロ変わる要因になってると思うんですけど」

——でも、今後、内省的な作品を作る予感はあるんですか?

Salyu「それについて聞きたい!」

清「あります。たとえば8枚くらいアルバムを出したら、また1枚目に戻ってみたいな、歴史と一緒でいろいろループすると思うんですよね。いくらいろんなアウトプットがあると言っても、ひとりの人間の引き出しって限られてると思うんです。だから、限界まで行ったらまた振り出しに戻るのかなって」

Salyu「すごく貴重な発言が聞けたね」

——ね。せっかくだから訊きたいんですけど、もし竜人くんがSalyuさんをプロデュースすることになったらどういう曲を書きますか?

Salyu「気になる(笑)」

清「勘弁してくださいよ(笑)。おこがましいです。とりあえずASA-CHANGを呼びます(笑)。で、ラップとかしてもらいたいかな」

——超いい。

Salyu「おもしろいかも」

清「声が素敵だとヒップホップも映えるんでね」

——それ、マジで聴きたい。

清「ポエトリーリーディングでもいいですよね」

Salyu「ああ、やったことないな。ラジオとかで詩を読む機会とかはあったと思うけど、音楽のなかでポエトリーを表現したことはない」

清「僕は中島みゆきさんが好きなんですね。みゆきさんに“元気ですか”という曲があるんですけど、あの曲ってみゆきさんがただしゃべってるだけなのにすごく音楽的なんですよ」

——salyu × salyuのアプローチを思えばポエトリーだって成立すると思う。

Salyu「ああ、そうかも。おもしろい。新しい提案かもしれないね。私の音楽人生のなかで今、強く思っているのが、とにかく自分が歌う意味のある歌にもっともっと出会いたいということ。これから歳を重ねて身体も衰えていくし、その流れのなかで確実に歌も変わってくるから。でも、私はそれを自分の価値にしないといけない。音楽は肉体が衰えたらそれでおしまいというスポーツの世界とは違うから。衰えていく自分も価値にしないといけないんだよね。そう思ったときに今、一生涯追求できる表現のありかを探してるんです」

——竜人くんはどうですか? 一生涯追求できる音楽という意味では。

清「最終的にはフォークソングをやりたいです。それは、今の自分では無理だと思ってるから」

——それはどういう面で無理だと思うの?

清「感覚的にというのもありますし、やっぱりいろんな人生経験をしたうえでフォークソングの歌詞を書きたいと思うから。僕、高田渡さんがすごく好きなんです。でも、あの人のような歌はまだ書けないと思ってる」

Salyu「今後も竜人さんがどんな音楽活動をしていくのか楽しみにしてます」

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撮影 依田純子/photo  Junko Yoda

文 三宅正一/text  Shoichi Miyake(Q2)

Salyu

2000年、Lily Chou-Chouとして2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースする。2004年、小林武史プロデュースのもとSalyuとしてデビュー。以降17枚のシングル、4枚のアルバム、1枚のベストアルバムをリリース。2011年には、「salyu × salyu」として小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を発表し、数多くの海外フェス出演により国外でも注目される。2013年には「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Paina」のED曲を担当し、大きな反響を呼ぶ。2014年はSalyuとしてデビュー10周年を迎え、リリースやライブなど精力的に活動。今年4月22日には5枚目となるオリジナルアルバムをリリース。現在、全国ツアーが開催中。

http://www.salyu.jp

 

清 竜人

15歳からオリジナル曲を作り始め、17歳の夏に全国高校生バンド選手権「TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2006」グランプリを受賞。2009年3月、シングル「Morning Sun」でデビュー。デビュー・アルバム『PHILOSOPHY』を同月リリースし、「第2回CDショップ大賞」準大賞を受賞。2011年4月には3rdアルバム『PEOPLE』をリリース。2012年5月にリリースされた4thアルバム「MUSIC」ではアニメ/ゲーム界のクリエイターとコラボ。2013年10月、6thアルバム「WORK」をリリース。2014年11月ベストアルバム『BEST』をリリース。堀江由衣やでんぱ組.incへの楽曲提供などプロデューサーとしても活躍。5月26日、27日に「清 竜人ハーレム♡フェスタ2015 Vol.4 ~バースデー♡パーティー2days~」を開催。

http://www.kiyoshiryujin.com/

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