挑発する配信者『暗黒放送』横山緑がはじめて語る本音
●パーソナリティ? パフォーマンスアーティスト? コメディアン? 定義不可能な表現者、横山緑
今回は横山緑氏インタビューの後編です。インタビュー前編はこちらから読むことができます
2010年10月。ニコニコ生放送で最大規模を誇ったコミュニティが突如解散、放送は伝説となった。番組の名前は『暗黒放送』。放送者は『横山緑』。繰り出されるマシンガントークと、あくまでリアルを追求する姿勢は賛否両論。だが、誰もが『暗黒放送』から目が離せなくなっていた。5万人近くの参加者を集めた彼のパフォーマンスを一言で定義するのは難しい。それはラジオパーソナリティのようでもあり、新しい形のコメディアン「ネット芸人」のようでもあり、時にはパフォーマンスアーティストのようでもあった。しかし、彼自身はあくまで「素人」だと言う。「素人」に数万人の視聴者が集まる。それがネットの面白さであり、不思議なところなのかもしれない。そんな『暗黒放送』も数ヶ月のブランクを経て予告もなく復活。このインタビューはたまたまその復活の前日におこなわれたものである。彼は復活前日になにを考えていたのだろうか。
●登場人物
緑:横山緑。『暗黒放送』配信者。ニコニコ生放送最大規模の番組を突如閉鎖(コミュID: co602157)
ふかみん:ききて(ガジェット通信,コミュID: co10818)
周二郎:撮影と、ききて(ガジェット通信,コミュID: co20498)
●横山緑、素で語る
――2011年、緑さんはどういうことをやっていきますか?
緑:今度は、周りも一緒に巻き込んで、埋れている面白い生主を発掘していくようなことをやっていきたいぞ。
例えば 『 ハニー大木』さんは、暗黒放送のリスナーだったんですけど、『ミドリンピック』という企画でデビューして今や8000人以上のコミュニティ参加者がいる。(編集者の補足:ハニー大木さんは緑氏が主催したイベントで注目され、今は原宿にあるニコニコ本社グッズ売り場のマネージャーもつとめている)
――緑さんと話しているとわかりやすく的確な表現が瞬時に出てくるなと感じます。そういう”表現の豊富さ”ってどこで得たものなんでしょうか?
緑:高校時代からラジオにはまりまして、ほんとにずっとラジオを聴いてたんですよ。いわゆる『アニラジ』というやつで、声優さんのラジオなんですが、専門学校時代までずっと聴いてました。おそらくそこがベースになっていると思います。ラジオに投稿しまくってました。投稿マニアですね。暗黒放送の起源は”ラジオ”なんです。それを聴いていたときの、”中二病”的な自分、その感覚のまま放送しています。大人の発想だとここまでのことはできないと思います。まさに”中二病をこじらせた”というキャラクターが暗黒放送の横山緑なんです。『暗黒放送』リスナーの世代はバラバラなんですが、9割以上が男です。中学生の男の子が持っている感覚、それは男なら少し身に覚えのある感覚だと思うんですが、僕の放送はその感覚のまま放送する”横山緑”に共感する放送なんです。
――唐突に放送をやめてコミュニティを解散したそうですが、その理由は?
緑:将来的なことを考えて、突発的にやめてしまったんです。交際相手と結婚の話が出たので、それを機にやめようかと。相手の家族にもやめて欲しいといわれたし、結婚してまで放送を続けると、相手に迷惑がかかってしまうと思って。
――やめたことは後悔してないですか?
緑:後悔はないですけど、未練がありますね。やり残した、という気持ちがあります。
自分の中でも、もっともっと表現していきたいことがあったんです。
そして深夜にもかかわらず、観てくれた人達がいる。出し切れなかったような心残りがどうしても自分の中にある。
放送が僕の日記だったんです。そして僕の自己表現の場だったんです。やめてからそれを痛感しています。
(後日談:このインタビューの翌日、緑さんは再度コミュニティを新規作成し、生放送を再開した、その理由は彼女との結婚が破談になったからとのこと。ご愁傷様です)
――緑さん自身、今後どうなっていきたいですか?
緑:(しばらく沈黙の後)放送そのものを楽しみたいと思ってます。そして放送を通じて生主を集めて、リスナーと一緒に放送を盛り上げていきたい。馴れ合いじゃないぞ! やっぱり、ひとりだけでは、新しいものがうまれてこないと思うんですよ。放送をやっている自分自身は、リスナーから何かを引き出す立場なんです。ハニー大木さんが僕の放送を通じてデビューして放送を始めた頃から、そういうことを意識しだしました。隠れた才能をひきだす、ということを引き続きやっていきたいし、そのことに喜びを感じます。そのために”お祭り”や”企画”を考えていきたいんです。そういう意味では『イベンター』ということになるのかもしれません。でも自分はプロじゃなくてあくまで素人です。コミュニティの人数とか、コミュニティレベルとかはホントにどうでもいいです。
そこらへん、何も計算してません。計算したらつまらなくなります。
昔、ラジオを聴いたり、投稿していたとき放送作家みたいなことをやりたいと思っていました。そのとき考えていたことや、そのときイメージしていたこと、自分自身がやりたかった気持ちをニコニコ生放送にぶつけていた気がします。その”ラジオの感覚”は忘れないようにしながら放送をやっていました。”ラジオ”は僕の放送の原点だと思います。なので、僕の放送の場合、画面はあまり重要じゃないですね。音声だけでも楽しめる放送にしようと心がけています。今は自分自身が出演していますが、将来的には『放送作家』のような台本を作って動画投稿したりすることにも挑戦したいです。
――先日、ガジェット通信のチャンネル生放送に出演いただきましたが、それは何か心境の変化があったんですか?
緑:本当に久しぶりに生放送に出演して、本当に楽しかったですよ。
ただね、やっぱりね、ニコニコ生放送はゲーム実況や女性の顔出し放送ばっかりが人気、という状況のままで、そこを変えていきたいなと思っているんです。雑談やトークでリスナーを楽しませる放送がなくっちゃ駄目だと思うんです。そこのところは自分も訴えていきたいなと思ってるんですよね。自分から行動して訴えていきた いんです。だからそのための、そういう放送はやりたかった。
――久々の生放送でしたが、どう感じました?
緑:やっぱりしばらく放送してないと鈍ってしまうな、思いました。やめるまでは毎日放送してたのですが、コミュニティを消してしまってからはまったくやってなかったので。ガジェット通信チャンネルでほんと久々に放送したんですが、自分自身、コメントに対する反応が遅いなと思いました。
――自分の放送に対する反省みたいなものはいつもやっていたんですか?
緑:特に印象深かった放送や、ダメだと思った放送はタイムシフト機能で見返して研究してましたよ。
――意外と研究熱心なんですね
緑:う、うるせぇよ! でも結局自分の放送はリスナーをはじめとする周りの人達に支えられて面白くなったんだなと思いますよ。放送のメインはあくまでリスナーが書くコメントで、自分は味付けに過ぎないんです。僕の放送にはいろんな”職人”がいて、放送を盛り上げてくれました。「天気予報職人」「ストーブ職人」「水のめ職人」 「○のおしり綺麗だな職人」などなど。
※天気予報職人…今日の天気と降水確率を放送中に書いてくれる職人・ストーブ職人…ストーブの切れる合図の音楽が鳴ると教えてくれる職人・水職人…水を飲め!と心配して水を飲む指示をしてくれる職人・○○のおしり綺麗だな職人…連投で緑のお尻綺麗だな、とコメントを連投する職人
――アンチコメントをする人にどう対応するか、というのはニコニコ生放送をやる人にとって大きな課題だと思うのですが、緑さんはどういう風に考えていますか。
緑:まず言いたいのは「アンチもリスナー」ということです。批判コメント、いわゆるアンチコメントを書いている人もリスナーなんですよ。自分の番組を観てくれている人。僕は”良いコメントだけ”というのは嫌いなんです。リスナーは批判もあってはじめて共感を覚えるものだと思うんですよね。だから僕はアンチも取り込んでリ スナーにしてしまおう、と考えるんです。笑われても、たとえ馬鹿にされてもそれは肥やしになるんです。僕自身、元々は弱い人間だし、すぐにカッとなってしまう性格です。でもそれは、放送中に表には出さないように努力しています。
ただ、”ガチのアンチ”というのが来るときがあります。冷やかしレベルじゃない、本気の攻撃をしてくる人。ひたすら放送の邪魔をするようなコメントを書き続けたりといったことをするのですが、そいう人はNG(書き込みが見えなくなる設定)にします。どこからが”ガチのアンチ”かというのは、放送をやってたらピンときま す。例えば他のコメントをさえぎったり、放送している人の本名をひたすら書き続けたり。そういう”ガチのアンチ”はこちらの話を聴くつもりが最初からないので、話しかけても無駄だし、ケンカをふっかけても無駄です。見えない空気を殴ってもしょうがないですからね。速攻NG設定するしかないです。
●突如元のキャラに戻る横山緑
――これからニコニコ生放送をはじめたい人に何か言いたいことは?
緑:自分をさらけだして、自己満足に走らない放送をやって欲しい。みんな『暗黒ルール』を守れば、楽しい放送をできると思うぞ。多分な。
※暗黒ルール「放送者が笑うこと禁止」「放送での馴れ合い禁止」「放送者の出会い禁止」「リスナーに物やお金をもらうこと禁止」
――ラジコン放送はどう思いますか?
(ラジコン放送とは、リスナーのコメントの言いなりになっておこなう放送。過激な方向に走りがち)
緑:ラジコン放送は、リスナーに使われているだけだと思う。例えばリスナーに服を脱げと言われて脱ぐなんて、誰にでもできること。それをやっても面白がられてその場限りで終わり。女性が脱ぐ放送は本当に嫌いだ。まずはトーク中心でリスナーを引き寄せられるようになって欲しい。
――今やってみたい企画ってありますか?
緑:動画制作にこないだはまってたので、生主でショートムービーを集めて、その上映会なんてできたらいいな。「生主上映会」みたいなものをやりたい。
――ニコニコ生放送へのこだわりがすごいなと思うんですが、例えばまったく別のサービスを使って復活、ということはありえないんですか?
緑:それはないですね。『ニコ生』が自分の生まれた場所なんです。他のサイトでやるのは考えられないです。自分自身のニコ生での復活はどうなるか、まだわからないですけど、ニコ生の中の、才能ある人の発掘はひきつづきなんらかの形でやっていきたいんですよね。募集をかけて、出演したい人に出てもらうような放送を企画して 。しばらく放送者としては活躍できないので、そういうことができないかと考えています。
――ニコニコ生放送への傾倒っぷりが凄いですよね。本当にどっぷりだったんですね。
緑:ほんと、ニコ生ひとつで十分だと思ってるんですよ。
――なんだか、ニコニコ生放送に対する忠誠みたいなものすら感じるんですが……
緑:最初から、ニコ生以外ではやるつもりはないんですよ。僕は、元来浮気はしないんです。他の生中継サイトでやる、ということは二コ生がいやなのかという話になると思うんですよ。自分のホームは大事にしないと駄目だと思うんですよね。
――それが例えば最初が他のネット生放送サービスだったら、そこまで傾倒してたと思いますか?
緑:僕はパソコン音痴なので、ニコ生はリスナーやアンチの人にコメントやチャットで教えてもらいながら使い方を覚えていったんですよ。パソコン音痴なのにそれを乗り越えられたのは、僕にとってあこがれの、いつかやってみたかったラジオのパーソナリティになれるという興奮がそのときあったからなんです。今まで聴くだけの立 場だった自分が、パーソナリティとして、表現する側に立てる。そしてその立場だと、一番面白いのはリスナーの反応。自分の喋ったことに対して、リアルタイムでコメントが返ってくる。これが楽しい。この、リスナーとの掛け合いのやりやすさからみたら、やっぱりニコ生は他のサービスより優れていると思います。
リスナーとの掛け合いということまで考えると、その数秒のタイムラグが問題なんですよね。リアルタイムなリスナーとのコミュニケーションを追求するんであれば、今のところニコ生に軍配があがります。
――とはいえ、大好きなニコ生もやめてしまって、ぽっかり時間に穴があいてるのでは?
緑:まずは空いてる時間で仕事を探しますよ。彼女が今海外に行ってるんですけど、帰国する4ヵ月後までに仕事を探して安定した状態で迎えたいんです。
――うまくいくことを願ってます。最後に、リスナーの皆さんに言いたいことがあれば
緑:何度も言いますが、暗黒放送は出会い好きの総本山ではありません。
どちらにせよ、しばらく放送はできないんで、ブログ等で小出しにしていきますよ。
さて、この後我々はまた赤坂で寿司でも食ってきます。
――行きませんけどね。本日は本当にありがとうございました。
※このインタビューの翌日、横山緑の『暗黒放送』が復活し、放送が再開された。
(インタビュー、おわり)
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