追い込まれる弱者たち、年金だけで暮らせない老後破綻の回避法

追い込まれる弱者たち、年金だけで暮らせない老後破綻の回避法

年金と蓄えを切り崩し、ぎりぎりの生活を送る高齢者も

昨年秋に放送されたNHKスペシャル「老後破産の現実」という番組は、超高齢化社会の日本にあらためて多くの問題を突きつけました。少ない年金と僅かな蓄えを取り崩し、ぎりぎりの生活を送る独居老人のドキュメンタリーは見ている者に少なくない衝撃を与えました。しかし、番組では行政サービスの怠慢や抜本的な対策に鋭く切り込むわけでもなく、日本に孤独で貧乏な老人がいるという現実を紹介するだけにとどまりました。これでは、将来の日本が夢も希望もない国だと言わんばかりです。

そこで、番組中では取り上げられなかった
(1)「老後破産」に陥ってしまった高齢者を救う直近の対策
(2)「老後破産」に陥らないための事前の対策
について考えていきます。

生活保護制度は満足に機能していると言いがたい

まず、(1)については一つの対策として、生活保護制度があります。ただし、生活保護水準以下の収入しかない独り暮らしの高齢者は約300万人存在し、そのうち生活保護を受けずに暮らしているのは200万人余りで、満足に機能していません。生活保護を受けない理由は以下の通りです。

■制度に対する誤解
例えば、年金や給与をもらっていたら生活保護は受けられないと勘違いしている人もいますが、年金や給与が基準額を下回っていれば、生活保護を受けられ、差額が支給されます。

■申請手続きが複雑で使いにくい
不正受給(全体の僅か0.4%)の影響で手続きや書類が厳格化されています。

■「生活保護は恥」という国民的な価値観
「申請手続きの簡素化」と「生活保護は恥」という価値観の払拭については、2013年4月に国連からも勧告されており、生活保護制度に対する正しい知識の普及とともに早急な改善が望まれます。

「給付付き税額控除」導入を検討すべき

さらに、もう一つの対策として取り入れたいのが「給付付き税額控除」導入の検討です。「給付付き税額控除」とは、税額控除と手当給付を組み合わせた制度で、算出された税額が控除額より多い場合は税額控除、少ない場合は給付が受けられます。例えば、8万円の「給付付き税額控除」を行う場合、以下のような数値になります。
税額が15万円の人:15万円-8万円(控除)=7万円(納付)
税額が 5万円の人:5万円 -8万円(控除)=-3万円(支給)

政府は消費税を10%に引き上げた段階の低所得者対策として、万人受けする軽減税率を検討していますが、課税所得がない低所得者も恩恵を受けられる「給付付き税額控除」の方が、消費税増税による逆進性の緩和効果が大きいことは明らかです。従って、将来的には軽減税率と「給付付き税額控除」の制度を共存させるべきだと考えています。

子供の頃から「お金の教育」を始めることが重要

次に、(2)の対策です。老後資金を準備しなければいけないことは、多くの人が意識するようになりました。しかし、その意識のレベル差が大きく、問題を具体的にイメージできないために先送りしている人も少なくありません。

そこでまず、老後のライフプランをイメージし、老後の基本生活費を試算することです。受け取れる年金を計算すれば、不足する金額が判明します。不足するお金を老後までに貯蓄や投資で計画的に準備すれば、「老後破綻」に陥ることはないはずです。

また、国も安易な将来予想を国民に示すのではなく、厳しい現実が待っていることを正確に発信し、個人が自助努力していかなければ「老後破綻」に陥ることを警告すべきです。同時に、年金を含む社会保障制度や貯蓄・投資などのお金について正しい知識を普及させることが大切であり、そのために子供の頃から「お金の教育」を始めるべきではないでしょうか。

(堂埜 聖/ファイナンシャル・プランナー(CFP))

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